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「体現帝国」第十一回公演『奴婢訓』映像配信は9月30日まで。

名古屋、大須、七ツ寺スタジオで行われていた体現帝国第十一回公演『奴婢訓』は終わった。
すでに七ツ寺スタジオの舞台は解体され、撤収が済んでいる。

最終日、追加公演まで満席で、絶賛を受けた公演だが、これでも「赤字」だそうで。
小演劇というのはどうすれば収益が出て、活動継続できるんだろうと思えてしまう。
これだけのものを作って、それでも赤字なら、誰も小演劇など演らないだろう。それで文化やら成立するものだろうか。
映像配信は9月30日まで行われているので、それだけでもぜひ一度、ご覧いただきたい。
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以前、この公演について、3つのスキットだけを少し、ご紹介した。
ichi-nagoyajin.hatenablog.com



勿論、もともと私は素人であり、偏った解釈だろうと思うが、書き漏らしたこともあり、ぜひ加筆したいと考えていた。今回はそれも含めて、出演した一人ひとりに焦点を当てて、書き記しておきたい。


田口ファンを自認する自分としては、在ってはならんことをしてしまっている。
この画像中「田口佳名子」さんの名前を「田口佳菜子」と私は間違えている!在ってはならん!

赤木萌絵

 先ずなんと言っても、元々寺山修司天井桟敷において『奴婢訓』を公演するに当たっては、J.A.シーザーという才能による劇伴があって成立していたという。令和という現代において、赤木萌絵の劇伴によってアップデートされた本作は、何ら違和感なく感じられ、元々そうであったかのようにも思われ、その価値は、普遍性をもつものと感じられる。

 元々彼女の創作する楽曲は、昭和の匂いを彷彿とさせるものがあり、そうした違和感こそ、彼女の楽曲に時代を超えた普遍性を与えている。彼女はまだ21歳で、昭和など知りようもない。それでこの昭和感は一体どこから来るのか。

 今回、周辺企画として『発達音楽会/月蝕の夜』も行われ、そこで「にんぎょのなみだ」の劇伴も紹介されたが、これもぜひ、再演して欲しい作品です。

中居晃一

すでに演技に定評のある方だそうで、発声や動きに違和感がない。いわゆる「体を張った演出」を行う訳では無い狂言回しの役割になっているが、途中で行われるテープレコーダーを使った、自分の声との掛け合いなど、別の意味で修練を積んだ、「体を張った演出」を見せてくれる。

田上まみ

弁護士「読みあげなさい、何と何とが残っているのか、大きな声で。」
差配人「では参ります。土地一エーカー、二つの原因不明の穴あり。」
弁護士「穴は穴として記帳しなさい。面積も深さも正確にだ。」
差配人「わかりました。棺桶一個、酒瓶十二本、責任転嫁七十二回、樽の通気口の栓二つ、かつら七種、食器戸棚四台、食器戸棚にかくれた男一人、行方不明の帽子一つ。」
弁護士「曖昧さは許されないのだよ。食器戸棚にかくれた男は義足だったか、義手だったか、それとも義眼だったか。行方不明の帽子の色は黒だったか、チャコールグレイだったか、それとも黒とチャコールグレイの中間だったか。」
差配人「その点につきましては、先生のご要望どおり、できるだけくわしく調べ直しさせることにしましょう。」
弁護士「つづけなさい。」
差配人「皿二百九枚、銀製ナイフ四十二本、フォーク三十一本、テーブルクロスニ枚、そのテーブルクロスにくるまった残りの肉の脂と、その脂の持ち主の口うるさい婆さん一個。」
弁護士「犬の排泄物、意思の無い過去と、過去のない意思、食用下男、ボール紙で作った円筒。」
差配人「わかった!」
弁護士「なにが?」
差配人「実際にないものも財産のうちだ、ということなのですね。」
弁護士「財産目録というものは、ただの現在であってはならない。いいかね。かつて在ったものも、これから在ろうとするものも、すべて洩れなく記載しておくことが必要なのだ。」
差配人「つづけます。火かき棒一本、ムチ四本、イボだらけの料理人、及びその鍋ニ個、外套によってかくされている壁の部分、藁と枕、三口の女中、円形脱毛症の馬丁、孕みっぱなしの子守、支那の西瓜各一個、目隠しされた馬一頭、持ち主不明の鍵付きの小箱一個、沈まない鐘一つ、尻を拭かない作男七人。」
弁護士「競売で値のつきそうなものが何もないじゃないか?」
差配人「下男の寝台に持ちこまれた天体というのがあります。これは、まだ無傷のようです。」

これが寺山修司作品集に収められている「最後の晩餐」のスキットにおける弁護士と差配人のやり取りだ。

田上まみは差配人となって、次に紹介する麓貴志と、この掛け合いを行う。
彼女の「体現」するものは「滑舌」だ。それを見事に演じあげている。

「犬の戴冠」の最後をしめる女主人の演技も見ものだ。

麓貴志

「犬の戴冠」での偽主人の登場や、上の弁護士など、安定した演技で楽しませてくれる。
彼の「周りを圧する声」は心地いい。

田豊

「犬の戴冠」や「鞭」で見せるコミカルな演技、重要なバイプレイヤーを演じる。

ナオミ

 「キャラクター飛び道具」
 まず、他のメンバーに混ざって、彼女がこの長期公演を演じきった事に驚く。
 映画「カメラを止めるな」で、印象的なプロデューサー役を演じた「どんぐり」こと竹原芳子さんは、それ以降様々な作品で、そのキャラクターを生かした役を演じている。ナオミも負けていない。幅の広い表現と、天の逆恵みともいえる「貧弱な体」(褒めている!)は彼女の武器だろう。それでいてこの過酷な公演を演じきった芯の強さ。

 今回の『奴婢訓』公演の真の奇跡は彼女の存在かもしれない。

左号陽裕

 女性の「キャラクター飛び道具」がナオミなら、男性の「キャラクター飛び道具」は左号さん。
 ある方が今回の公演を見て「サーカスみたい」と評されましたが、その印象を付けたのは左号さんかもしれない。

 元々はサーカスの演技を習得する学校に行かれていたようで、ジャグリングなどの技もお手の物。
 彼の身体による「体現」は人々に強い印象を残したようです。

私が特に好きなのは、「最後の晩餐」のホーン、いいタイミングで入りますよね。
声もいい感じの嗄れ声で印象的です。

鈴江あずさ

 今回、この文章を書き始めたのは、彼女のことを書き漏らしていたからなのですが。
 前回のスキット紹介で「『3.犬の戴冠』主人の靴を履いたクーボ―(麓貴志)が現れ、主人として下女(トメ子/田上まみ)たちを使役するが」と簡略化して書いてしまいました。しかし、その前の作男のシーケンスについてどうしても触れたくなったのです。

 彼女は元々フラメンコ・ダンサーで、昨年の「夢の肉弾三勇士」におけるダンスは非常に魅力的だったのですが、今回は敢えてダンスを封印して演技表現に集中して取り組んだそうです。特にハスキーボイスのこの「犬の戴冠」のスキットと、様々に声音を変えて演じる「ツイッターのシーケンス」は楽しいシーンでした。

 「犬の戴冠」における作男のシーン、寺山修司作品集に収められている台詞は次のようになっている。
 「主人になってから、一時間おきに写真屋に行って写真を撮った。そして、この地方の飢饉の小作からは米を一俵ずつ収奪し、東に病気の子どもがあれば、行って死ねと怒鳴り、西に疲れた母があれば、行ってその稲の束を二倍の重さに増やしてやった。南に死にそうな人があれば、行っておどかし、北に喧嘩や訴訟があれば、行ってやれ、やれとけしかけてまわった。そして、曰く、退屈・・・」

 「雨ニモマケズ」の言葉を、アイロニカルに改変した寺山の台詞を、魅力的に展開し、「退屈」を一層強く印象付けている。

安倍火韻

 某所でアベ・カイン(勿論、この芸名の由来は「カインとアベル」)が「哲学講義」を行っていて、それに参加したのが彼との出会いで、その縁で彼の出演するという『尻尾をつかまれた欲望』を観劇に行って、私は体現帝国を知ることになる。体現帝国以外でもパフォーマンスや絵画の個展などを展開していて、それらも楽しませてもらっている。

 公演の中では特にオープニングの月食譚で「逆立ち」したまま演技を続ける。
 これは、カメラを上から下に向けた、雑魚寝の様子を表現したとも取れるし、彼が逆立ちしていることで、すでに「館の中」がまともな常識が通じない空間であることも表しているともいえる。この違和感が観客を異空間へと連れて行く。

田口佳名子

 オープニングの「聖主人」における一喝、「鞭」「酢の瓶」さらに「馬の蹄鉄を打たれた下女のオペラ」と彼女の演じるダリアは重要な役となる。そしてその全てを圧倒的な説得力で演じきっている。

 最終公演では、前回このブログで述べた「その前夜」において、三人いる包帯男の内、一人の包帯が取り切れず巻き上げる包帯が二人分になってしまった。それに気づいた二人はリカバーする時間を稼げるよう、包帯の巻き上げに時間がかかるように歯で噛んだりしたそうだ。そして田口さんは意を決して階段を駆け下り、一人の包帯を無理やりほどき、階段を駆け上がり、3人分の包帯を大きく振り上げた。見事なリカバーとアドリブだった。

 普段の田口さんは化粧気もなく、小さくておとなしい。居るのを忘れてしまいそうな女性なのに、舞台の上では圧倒的な存在感を示す。その爆発力は素晴らしい。


こうやって一人ひとりについて書いてみると、男性に比べて女性について書くことが多いというか、力の入り方に、男女差がありすぎる気がする(池田さんなんかたった一行か!)が、仕方がない。素直な感想だからだ。


体現帝国第十一回公演『奴婢訓』

映像配信は9月30日まで。
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