市民のための名古屋市会を! Ver.3.0

一人の名古屋市民が「地域委員会制度」「減税日本」に対する疑問をまとめるサイトです。(since 2011/3/3)

83億円の財源不足

 本日の中日新聞名古屋市の財政についての記事が掲載された。

名古屋市、来年度は83億円不足 一般会計見通し

 名古屋市は8日、2016年度の一般会計の収支が、83億円の財源不足になるとの見通しを示した。人件費削減などを進め、埋め合わせる方針。(略)

 ただ、財源不足は年々膨らみ、市は19年度には176億円に達すると試算。議員からは「職員の削減などは限界にきており、市民税減税も行革の対象として見直しに含めてはどうか」などとの意見が出た。(略)

(漢数字をアラビア文字に換えた)

http://www.chunichi.co.jp/article/aichi/20150909/CK2015090902000062.html

 記事によると河村市長の市民税5%減税による税収減は115億円に上るとされている。
 この減税が無ければプライマリ・バランスは取れているということだ。

 また、歳出についても削減努力は続けられているようだが、扶助費の増大が続いている。為にこの歳入不足の傾向は今後も続くだろう。(扶助費は今後も増大する)

 これらの一次資料は名古屋市のHPにある。
名古屋市:今後の財政見通しについて(平成31年度から平成35年度)(市政情報)
今後の財政収支見通しについて(PDF)

 この「見通し」をみると、扶助費については平成27年度では2,886億円であったものが、平成31年度では3,169億円と286億円増大する。それに伴い差し引き収支は31年度で176億円のマイナスとなる。*1

 その帳尻を合わせるために、平成28年度には58億円、29年度、53億円、30年度、41億円、31年度には44億円の歳出削減を見込んでいる。(上記「今後の財政収支見通しについて」内の「(4)地方債許可における行財政改革の取り組み」より)

 しかし、その直近の平成28年度においても、「見通し」どおりの58億円の歳出削減だけでは足りずに、市住宅供給公社からの「返還金」25億円を充当し、83億円をねん出しなければならなくなっている。

 この「返還金」は市の所有していた土地を処分(売り払った)もので、結果として名古屋市は市民の財産を売り払い、潤沢に法人税を納めている黒字企業*2高額納税者に「5%減税」として財を移転している事になる。*3

 ・・・ちょっと話はわき道にそれますが、河村市長は減税の目的を「歳出の削減」「財政の健全化」であるというように語ることがある。これには少々疑問がある。

 こちらのページを見ていただきたい。
名古屋市:計画・方針・基準など(市政情報)

 ここに「財政健全化計画」「新財政健全化計画」「今後の財政運営について」というページがある。名古屋市当局が名古屋市民に財政健全化についての取り組みを公報するためのページだ。各ページを開いてみるとちょっと驚く事になる。内容ではない、最終更新日にだ。

  「財政健全化計画」の最終更新日「2010年9月17日」
  「新財政健全化計画」 の最終更新日「2009年3月28日」
  「今後の財政運営について」の最終更新日「2010年10月13日」

 つまり、名古屋市においては財政健全化について、2010年10月13日以降、計画や方針、基準などの更新が無いという事になる。

 なぜ、こんな事になっているのか。
 名古屋市のトップが市の財政健全化について、この5年ほどの間、なんら方針も計画も打ち出していないからだ。

 こういったページもある。
名古屋市:名古屋市の財政運営に関する有識者ヒアリング(市政情報)

 この中で北大の宮脇教授は減税政策についてこう述べている。
「歳入面で減税を行うことは、歳出面で補助金を出すのと本質的に考え方は同じで
あるため、地域特性に合わせ、減税を行う対象を設定すると人口流入等の効果が
あるのではないかと考える」

 また三菱UFJリサーチ&コンサルティングエコノミスト内田氏も減税が都市間競争の手段となると期待しているようだ。

 3者とも減税に対しては一定の理解を示しているようだが、こういう態度を曲学阿世という。

 事実を示そう。

 名古屋市における河村流減税は、2010年に10%減税を行い。2012年からは5%減税を4回行っている事になる。

 この間、減税による経済効果が有ったのか、人口流入等が見られたのか、それを検証してみよう。

 ここに示した図は昨年11月に公表された「市民税5%減税検証報告書」に示された「人口社会増減」の値と、名古屋市の人口動向調査より、毎年の社会増減の値を拾ったものだ。

http://www.city.nagoya.jp/zaisei/page/0000059765.html
名古屋市:人口(分野別統計調査結果)(市政情報)

 明白に下回っている。

 そもそも121億円の施策に対して、経済効果が316億円ある「敬老パス事業」に比べて、115億円の投入で206億円しか経済効果が見込めない減税政策には利は無い。その206億円の経済効果なるものも、このシミュレーションが正しいと仮定した場合に言えるだけで、シミュレーションそのものも怪しい事はすでに述べた。

2015-02-16 減税検証シミュレーションに対する疑惑

 そして、具体的にこのように実測値にも齟齬が出ている。

 記事にある「職員の削減などは限界にきており、市民税減税も行革の対象として見直しに含めてはどうか」という議員の意見は誠に真っ当だ。

 減税政策も他の政策と同等にならべて「行革」の対象として検証すべきではないだろうか。

 それをせず、減税政策だけ「聖域」として現状維持を続けるのなら、財政の健全化を目指した減税政策は自己矛盾に陥るのではないだろうか。

 というか、すでに詰んでいる。

 明け透けに話そう。すでに河村市長は詰んでいる。

 これは特に、今期、減税日本から市議に当選した方々に聞いていただいて、一度ご自分で検証していただきたい。

 そもそも名古屋市には100億円ほどの「臨時政策経費(リンセー費)」が積まれている。歴代の市長はこの予算を使って、自分の力点となる政策を拡充してきた。それは人によっては商店街などの復興であったり、文教予算の充実であったりしたわけだ。
 河村市長はこれにおよそ50億円の枠を増やしてそれを減税に充てたわけだ。

 2010年の10%減税はこれで賄った。2011年には減税が実現できなかったので、東北支援などに予算を割き、残った額は次年度に積み残った。

 2012年、減税が再論されたときに、この残額と減税予算がバランスできていなかった。その為、5%に減税幅を落とし、予算規模を100億円ほどに圧縮したわけだ。

 これらすべては河村市長の国政転出を横目でにらんでの措置だ。

 名古屋市の減税政策は「恒久減税」などという河村市長の掛け声とは裏腹に、恒久ではない。そのような財源措置はされていないし制度設計もできていない。

 あくまで河村市長が国政に転出するまでの、せいぜい4年から6年、減税政策を維持するだけの余力しかないのだ。

 (そうでなければ「見通し」の当年度から25億円もズレを生むわけがない)
 平成28年度 : 58億円 → 83億円
   29年度 : 53億円 → ?
   30年度 : 41億円 → ?
   31年度 : 44億円 → ?

 財政局は税収見通しを楽観的に捉えているらしい。しかし、そのような見通しは景気状況で変化しうる。つまり、河村流減税政策は*4、そんなあやふやな景気動向に依存した、砂上の楼閣であるということだ。

 一説には河村市長は3期12年に意欲があるらしい。名古屋城の木造化を何とか実現したいのだろう。*5

 そもそも4年から6年程度しか想定していなかった減税政策。12年続けていくためには、よほどの景気回復か、減税率の再引き下げを行わなければならないのかもしれない。(公約の10%を軽々と5%と言っているのだから、ついでに1%ぐらいまで落としてもいいんじゃないの?どうせの事なら)

 ・・・と、いうか。最近河村市長のトークにいわれるように、名古屋市はこの間、この減税政策で600億円を市中にばら撒いている。*6
 しかし、この600億円を計画的に使っていれば、名古屋城木造化の予算など出ていたんじゃないのかね?

 残念ですね。*7

 参考:減税により市役所を二つ設置 | FNホールディング

追記:「小さな政府」は城を建てない。
城を建てるとするなら、ケインズ経済学に立脚する以外にない。
または、政府支出によって城の建築費を賄うのではなく、
市場原理的にご自分で寄付を集めれば良い。
ご自分が言うように「減税で民間に戻したお金」からね。

ポピュリストで市場原理主義を振り回す政治家は、
他人には厳しい競争を求める癖に、
自分に対しては大甘の保護や保証を求める。

非常に見苦しい。



 さて、小牧市の図書館問題。
 9月10日の小牧市議会で住民投票の実施が決まるらしい。

 九州、佐賀県の武雄図書館については、その運営主体であるCCCへの新たな批判もまき起こっている。
武雄市図書館にTSUTAYAの在庫が押しつけられる? - Togetter
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150903-00000001-sasahi-soci

 小牧市が拙速にCCCと手を結ぶことは非常に危険だろうと思う。





*1:国や地方の公的予算が赤字化するのは、社会が扶助費の増大を要求しているからであって、財のアンバランス(公から私への移転、私的セクタでも無産階級から有産階級への財の移転、富の偏在)が起こっているに過ぎない。これを歳出削減だけでバランスすることはナンセンスも甚だしい

*2:遊戯機器メーカーやら、電力会社、鉄道等らしい

*3:見事なまでの「逆再配分」ですね

*4:そして君の議席は → 減税日本市議

*5:というか、その定礎に「河村たかし」の名前を刻みたいだけという話が、広く名古屋市民の間で囁かれている事はご存じないのだろうか

*6:黒字企業とお金持ちへの「逆再配分」にね

*7:定見や哲学が無いので、一貫性のある政策が成立しないんですよ