11月11日に名古屋市会 財政福祉委員会において市民税減税5%の検証が行われた。名古屋市が行ったアンケートと平成22年に行われたものと同様の「マクロ計量モデルに基づくシミュレーション分析」が三菱UFJリサーチ&コンサルティングによって実施され、結果が報告された。
http://www.city.nagoya.jp/kurashi/category/25-15-0-0-0-0-0-0-0-0.html
ただ、今回のこのシミュレーション分析は少々異常だ。ずいぶんと「品質」が落ちている。また、制度的にはこのシミュレーション結果を受けて、その信憑性を評価するのは名古屋市当局内に設置された「市民税5%減税検証プロジェクトチーム」となっている。
http://www.city.nagoya.jp/zaisei/page/0000059765.html
構成するのは副市長、局長、副局長、監、部長で、その能力を疑うものではないが、いったいどうしちゃったんだ、どうかしたのか?と心配になるほど「品質」評価が甘い。
それについては後述しよう。(本日中に収まらなかったので「後編」で)
それ以上に「甘い」のが中日新聞だ。これは酷過ぎる。
まず、同日の朝日新聞の紙面を見ていただこう。
「減税による減収分を補うほどの税収につながる効果はない」と結論づけた。
と言うように、減税の効果について懐疑的な論調となっている。ちなみに議論となっている「押し上げ効果」について朝日新聞は「約200億円」と報じている。
さて、それに引き換え我らが名古屋の誇る大ブロック紙。朝日新聞亡き後、日本の良心を継承するのではないかと言われている中日新聞の紙面がこれだ。
「市内総生産 年1128億円増」ときた。中日新聞はこの「押し上げ効果」を「年1128億円」と報じたわけだ。
これは凄い話だ。
たった115億円の政策で、総生産を1128億円(9.8倍)も押し上げる経済効果がある施策が存在するのであれば、それは是非国を挙げて実施すべきだ。*1
それも単新に115億円を工面して支出する必要はないのだ。
この政策は他の歳出を削って、減税に115億円出せば良いのだ。
つまり、右手で支払っていたもの(政府支出)を左手で支払えば(減税に切り替えれば)その経済効果が9.8倍になるというのだ。
まさに現代の「朝三暮四」( 参照 )
そんな夢のような政策の実態とはどのようなものなのか、この委員会に提出された報告書を入手した。この「三菱UFJリサーチ&コンサルティング」によるシミュレーション結果はあと10日ほどもあれば名古屋市のホームページに掲載され、一般の私たちでも見ることができるらしい。(是非、ご覧になる事をお勧めする)
表の一番下の数字、「112,818(百万円)」が中日新聞の報道にある、「1128億円」だ。確かに中日新聞は嘘を書いたわけではない。報告書にも
成長率の上乗せに伴う市内総生産の増加額は、10年間で合計1兆1,282億円(年平均1,128億円)になる
と明記されている。
ならば朝日新聞の言う200億円の方が「誤報」なのか?「捏造」なのか?
そうではない、一般に施策の経済効果(経済波及効果)を言う時には、施策ごとの、年次内の差引を評価の対象とする。
この表で言うと「差引」の項目にあたる。これを見ると平成33年までの10年間で(この数字自体に疑問があるのだが)2千億円強の差額が見込まれる。これを10で割った約200億円が「押し上げ効果」という言葉にふさわしい。
財政福祉委員会の委員でもある横井市議がこの「期間合計」について興味深い図を作成されている。
横井利明オフィシャルブログ:減税の効果は本当はどれだけなの?
またよしんば、百歩譲って本当にこの名古屋の河村流減税政策に200億の効果があったとしても、例えば敬老パス政策は121億円の施策規模で316億円の経済効果があるとされている。
敬老パスの制度調査業務委託 報告書 平成25年3月 株式会社日本能率協会総合研究所
つまり「右手で支払(政府支出)」った方が経済効果は高いのだ。
減税政策を停止して、その予算を介護や子育て支援に回した方が、名古屋市の経済の為にもなる。
図はこのシミュレーションの各項目間の「因果フロー図」になる。
これを見ると「市内総生産」(赤)に影響を与える要因は
緑の部分、「政府支出」「政府投資」と「統計的不突合」と青い部分、「民間消費」「民間住宅」「民間投資」である。これはこのブログでも度々登場するこの数式とも適合する。
今、平成24年度のシミュレーションの値に注目してみよう。
シミュレーションによると平成24年度の減税ありと減税なしの「市内総生産」の差引はおよそ200億円の差となっている。(20,175百万円)
次に示すのが「民間消費支出」の推移推計だ。これを見ると126億円の差引があることがわかる。(12,627百万円)
上の因果フローから次のような式が導ける。
市内総生産=(政府支出+政府投資)+民間消費+民間住宅+民間投資+D
D:不突合
減税政策の為に歳出、政府支出と政府投資は115億円削減されるのだから。
市内総生産(の差額)202 =(−115)+126+ 民間住宅+民間投資+D
つまり
202 +115 −126 = 民間住宅+民間投資
191 = 民間住宅+民間投資
という値が導ける。
たった一年で、民間住宅や民間投資が191億円も増加するというのだ。*2
残念ながら、民間住宅や民間投資の推計額は今回の報告書には載っていない。
しかし、こうした推定からもこのシミュレーションがにわかには信じられない事がお分かりいただけると思う。
残念ながら紙幅が尽きたのでまだ指摘事項は幾つもあるが、後編に譲ろうと思う。
にしても、なぜ中日新聞は無茶な「盛り方」をしてまで河村流減税政策に効果があるかのような記事を書いたのだろうか?
河村市長誕生の頃、河村流減税政策を肯定的に取り上げ、その実現に寄与したという共犯意識があるからだろうか?
それとも、名古屋市の為を思い、減税政策の過ちを市民に知らしめるため、敢えて過大な経済効果を謳い、それによって経済学者などの耳目を集め、河村流減税政策の批判をまき起こそうとしたのだろうか?
そうだとするならこの「1128億円」の数字を掲載した「勇気」を称えたくなる。
※今までの減税政策議論全般
2013-08-04 減税政策についての再整理
※因果フローについて前回のシミュレーションでの議論
2014-05-21 証明とは
※因果フローの内特に人口動態についての考察
2011-08-30 錆付いた唯一の武器