市民のための名古屋市会を! Ver.3.0

一人の名古屋市民が「地域委員会制度」「減税日本」に対する疑問をまとめるサイトです。(since 2011/3/3)

人事院総裁に対する恥の上塗り

 昨日のエントリーで「恥の上塗り」と書いた河村名古屋市長の異常な行動について、「裏」が取れたようなのでご報告します。

 河村名古屋市長は名古屋市の人事委員会の勧告を無視して名古屋市職員の給与引き上げを拒んでいる。日本においては公務員にはスト権が認められていない。国連の国際労働機関(ILO)はこれを是正するように日本政府に勧告している。国内においては公務員に労働者の権利として当然認められるスト権を認めない代わりとして第三者的な人事委員会を設置する事で労働条件の適正な調整を図るとしている。その人事委員会の勧告を無視するという行為は、これら労働者の権利をないがしろにするものであって、こうした行為に対して労働者は民間、公務員、正規、非正規を問わずに戦うべきだ。

 労使間の闘争というものは団結することに交渉力があるのであり、現在のように民間、公務員、正規、非正規の間で団結が失われ、個別に権利が侵害される事を他のセクタが無視、放置している現状が、やがてすべてのセクタの権利侵害につながる事を理解すべきだ。

 ここにおいて、ナチス・ドイツの残虐を指摘した二―メラー牧師の言葉を想起すべきである。労働者、国民が使用者、国家など権力者と対峙するときに、唯一頼りとなるものはその団結の力だけなのだ。

 河村名古屋市長のこのような無定見な行為は公務員だけでなくすべての労働者の権利を無視する行為であり、労働者の存在を軽んじる行為だ。そもそも河村名古屋市長は自ら労働者となった事が無い。他人から使役される立場に立ったことが無いのであって、給与生活者の心など理解しようともしないのだろう。

 かのトマ・ピケティは元旦の朝日新聞に掲載されたインタビューにおいて日本のインフレ対策に対し「唯一のやり方は、給料とくに公務員の給料を5%引き上げることでしょう」と述べている。 ( 参照 ) 給料というものは消費の原資であって、それを引き下げれば消費が(つまりは総生産が)縮小することは理の当然である。公務員の給料を引き下げたからといって、徴収される税は軽減されない*1。それどころか公務員の給料を下げれば国内消費はそれだけ冷え込む、ひいては民間の売り上げや可処分所得も落ち込むのだ。公務員と民間の給料はトレードオフの関係*2にはない。経済は循環なのであり、その循環を構成する一つのエレメント(公務員給与)が縮小すれば、他のエレメント(民間消費や民間可処分所得)も縮小せざるを得ない。

 他人の給料引き上げを羨み、妬み、その引き下げを望む。こうした卑しい「引下げデモクラシー」の誤った考え方が、小泉・竹中構造改革から民主党政権時までこの日本を席巻し、国民は公務員給与を「悪」であるかのように捉えた。

 つい最近も東北大震災で活躍した自衛官の給料を削減しても居る。
 国民は自衛官に対して感謝の言葉を送りつつ、直後に給料を削減したのだ。

 こうした卑しい「引下げデモクラシー」が「デフレ」として国民経済にしっぺ返しをしたというのがこの数年の日本経済の実態だろう。
 公務員と民間の給与に格差があるのであれば、民間の給与水準を上げるようにすべきだ。年金と生活保護の間に乖離があるのであれば、年金の支給額を引き上げるべきだ。

 原資などいくらでもある!

 財政を固定的に捉え、各施策間でトレードオフの関係にあるかのように語るのはまやかしだ。民間給与を上げるのは確かに大変だ。しかし、公務員の給与を引き下げても民間の給与は上がらない。(法人税を引き下げても民間給与(税引き前の経費に該当)は上がらない、法人税を引き上げれば民間給与は上がる(税引前利益を圧縮する圧力が生まれるので))そして、公務員給与は少なくない民間企業の売り上げを形成する原資なのであって、この公務員給与が絞られる事によって、民間企業の売り上げは落ち込む。

2014-02-20 法人税率引下げの蒙昧と「反知性主義」

 実際に、守山において自衛隊員が訪れていた小さな居酒屋が、この自衛官の給与引き下げのあおりを受けて店を閉じる事例を目の当たりにした。
 縮小均衡の経済とは弱者を切り捨てる経済であるとつくづく思い知った。


 というわけで、卑しい「引下げデモクラシー」、あやまてる縮小均衡の財政論、妬みにおもねるポピュリズム政治の典型である「公務員給与引き下げ論」こそ、日本をデフレ不況のどん底に落とした過誤であると断ずる。そして今に至るも、この過誤から脱却できないバカ政治家がいる。

民間給与調査「エリートとの比較になっている」河村名古屋市長、人事院に是正要望


 名古屋市河村たかし市長は、人事院が国家公務員給与改定を勧告する際に比較する民間給与の調査方法が偏っているとして、是正を求める要望書を一宮なほみ人事院総裁宛てに提出した。2日の記者会見で明らかにした。提出は1月29日。

http://www.sankei.com/west/news/150202/wst1502020057-n1.html

 なんでも2日の市長定例記者会見で、自らペーパーを用意して一席ぶったらしい。
 中日新聞をはじめ「まともな」メディアは無視を決め込んだようだが、産経は拾ったようだ。産経も「引下げデモクラシー」に親和的ですからね。

 もし、あなたが労働者であるのなら、民間、公務員、正規、非正規を問わず、河村名古屋市長を「敵」と認識すべきである。こやつは労働者の正当な権利を奪うのである。

 もし、あなたが民間企業の経営者、個人事業者であれば、河村名古屋市長を「敵」として認識すべきである。なんとなればあなたの事業の売り上げの原資を奪うものであるのだから。

 名古屋だけにとどまらず、全国的に自らの無定見、恥を公表しに、わざわざ上京したそうだ。その人事院に提出した文章を全文引用してみよう。

平成27年1月29日

人事院総裁
一宮なほみ様

 「人事院勧告が行う民間給与の調査方法について」の要望書

名古屋市長 河村たかし

 人事院勧告では、情勢適応の原則(国公法28条1項)に基づいて、国家公務員の給与水準を民間企業従業員の給与水準と均衡させることとしている。給与水準の均衡については、公務と同種、同等の民間を*3比較するというラスパイレス方式*4がとられている。しかしながら、この比較方法では、以下のような問題点があるので、是正を要望したい。
 まず、現在の調査では、調査対象者の職種が極めて絞られている。すなわち、公務員と同種の仕事と比較するために、「事務系職種」に絞っているが、それでは事務系職種以外の仕事は、すべて除外されてしまい、その結果としてホワイトカラーのみの水準となってしまっている。*5
 また、調査対象者の事業所規模が絞られている。すなわち、調査対象の事業所は「企業規模100人以上、かつ、事業所規模50人以上」*6に絞られており、事実上多くの中小企業が除外されている。その結果、民間の給与実態を正しく反映しているとは言いがたく、実態は「民間エリート」との比較になっている。
 さらに、調査対象者が「正社員」に絞られている すなわち、調査対象は、正社員のみに絞られているが、民間の実態は、労働者の4割が非正規社員が占めており、現調査では民間の給与実態を反映しているとは言いがたい。
 本来、公務員は全体の奉仕者であって(憲法15条)、その待遇も国民全体の中で考えるべきものである。納税者が納める庶民の税金によって、公務員の給与はまかなわれているという大原則に立ち返ると、公務員の給与は「納税者準拠」であるべきである。したがって、今後は、納税者の実態調査として国税庁が行っている民間給与実態調査の平均値をもって、基準とされたい。



 文書には「事務系職種」「事業規模」「正規/非正規」による格差があり、それらを平均した給与実態に合わせるべきと言っている。これが如何に実態に即していないかは明らかだ。現に人事院勧告は職種別でありその対象となる省庁も「事業規模」において大企業相当に違いないだろう。民間における非正規の実態については、その在り方を是認する主張自体見識の低さを物語って余りあるが、実際に名古屋市をはじめ各省庁において非正規職員は存在するのであって、それらの給与は別に定められている。論点が異なっていることすら認識していないのだろうか。

 そもそも現在の公務員給与が「民間エリート」並であるとして、それが不当な事だろうか、現に名古屋市をはじめ各省庁に努めている職員の学歴やその成績を見れば「民間エリート」並なのであって、それらの者への処遇が「民間エリート」並なのは当然の事ではないのだろうか。それらの者の給与を「引下げ」たところで、「民間エリート」並の給与が引き下げられたことにより、「民間平均労働者」の給与もまたそれに準じて引き下げられる事になるだけだろう。

 このようなポピュリストに騙されてはいけない。
 国民の妬みにおもねり、他人を引き下げるものは、やがて自らも落ち込んでいく。

 Allegory of the long spoons - 市長のための市会ではなく、市民のための名古屋市会を! Ver.2.0






*1:名古屋における市民税減税の原資は職員給与などではない、よしんば、職員給与が原資であったとして、その減税で経済効果があったのか?

*2:どちらかが減ればどちらかが増えるという関係

*3:ママ

*4:ママ 引用者注:ラスパイレス比較と混同しているようだ

*5:引用者注:人事院の行う「職種別民間給与実態調査」においては職種別、産業別、年齢階層別の平均支給額を算出しているのでこの指摘は当たっていない

*6:ママ 引用者注:人事院の行う「職種別民間給与実態調査」の対象は「企業規模50人以上かつ事業所規模50人以上の事業所」であるが、この主張の出典は不明