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一人の名古屋市民が「地域委員会制度」「減税日本」に対する疑問をまとめるサイトです。(since 2011/3/3)

あいちトリエンナーレの負担金請求事件判決より(他一件)

 あいちトリエンナーレの負担金請求事件について、名古屋市(被告)が敗訴した。勝訴したのは原告「あいちトリエンナーレ実行委員会」(正確に言うと「愛知県」ではない)

 この判決文について、名古屋市がHP上で情報公開している。

www.city.nagoya.jp

 全編で100ページを超えるもので、一体誰が読むんだといった代物だけれど、私は読みます。

 その中でも被告(名古屋市)の主張として展開される、「従軍慰安婦の強制連行」についての記述(P.19)と、不自由展キュレーターへの誹謗中傷(p.21)は捨て置け無い問題であると考えます。(後述)

 判決文の中に「引用」されている被告=名古屋市の発言ですが、この裁判の中で被告=名古屋市の主張として、「地方公共団体が公共事業として行うことには、政治的中立性が求められる」と主張しているにも関わらず、被告=名古屋市の主張は明白に政治的偏向であり、矛盾しています。これらの発言について、追求してみたいと思います。

名古屋港管理組合での出来事

 その前に、最近の減税日本ゴヤのトホホな出来事を一つご報告しておきます。

 名古屋港は名古屋港管理組合が管理しており、名古屋市や愛知県とは独立で運営されています。(代表は名古屋市長と愛知県知事が2年毎に交代であたります。今年は河村市長が代表となっています)

www.port-of-nagoya.jp

 その運営は名古屋港管理組合議会(名港議会)を設け民主的な運営を担保しています。名港議会は30名で構成され、名古屋市会議員、愛知県会議員からそれぞれ15名が当たっています。

議員名簿|名古屋港管理組合公式ウェブサイト

 また、一般の地方公共団体と同様に監査委員も設けられており、その内の一名は議員から選任されています。

監査委員及び事務局|名古屋港管理組合公式ウェブサイト

 この監査委員に今年は名古屋市会から一人が選任されるのですが、これは名古屋市会の議会運営委員会で誰を選任するか計られました。その結果として自民党のN議員が監査委員として選任されることとなり、名古屋市の代表監査委員(民間)でもある人物と、2名が名古屋港管理組合の監査委員候補として、人事案件として名港議会に提案されることとなりました。

 この名古屋市議会運営委員会の段階で、減税日本ゴヤからは、特段意見もなく、人事案に対しては賛成の立場だったわけです。

 ところが、名港議会でこの人事案件が提出された際に突然、減税日本ゴヤの中川市議だけが議会から退席してしまいました。

 非公式には、減税日本ゴヤが、このN議員の過去の言動を「ハラスメントである」と訴えていることから、監査委員に選任するべきでないと主張した者がいたようですが、他の減税日本ゴヤの議員は人事案件に賛成の立場を取っていますし、そもそもこの議員を監査委員に押す議会運営委員会での議論では、減税日本ゴヤからはそうした意見も、反対も出ていなかったわけで、突然意見を変えたことになります。

 更にいうと、人事案件はこの議員と、名古屋市の民間監査委員の2名に対する賛否なのですから、その選任拒否は民間監査委員に対しても拒否することになります。

 後ほど名古屋市会、議会運営委員会でこの中川市議の退席について議論がされたわけですが、その際中川市議は「生理現象のため退席した」と主張しました。

 つまり、人事案に反対であったわけではなく、個人的事情で退席したとしたわけです。

 減税日本ゴヤが、真剣にこのN議員の言動を批判し、その人事案に対して否定するのであれば、選任を決める議会運営委員会で意見表明すべきでしょうし、そうした準備や明白な意思もなく、行き当たりばったりで名港議会に望み、退席という中途半端な行動を取るというのも無責任な話です。議員の判断、権能というのは有権者の付託を受けてのものであって、その有権者に説明できないような行動は、議員として行うべきではない。

 「生理現象のため退席した」などとする逃げ口上は、議員としての資質を疑うものとしておきます。

 減税日本ゴヤはもっと真面目に仕事をすべきでしょう、事前に議論を深めないから、こうした子どもじみた行き当たりばったりの行動が続き、議会に混乱を招いている。自分たちの(というか、一部議員の)  無能  思いつきの行動が、多くの人々の迷惑を引き起こしていることに自覚的であるべきです。

あいちトリエンナーレの負担金請求事件判決より

 さて、では本題の判決文の問題点に移りましょう。

 100ページ超の判決文ですが、p.39からの「裁判所の判断」までは、被告=名古屋市と、原告双方の主張が引かれているだけで、事実認定はされていない。裁判所の判断から読めば、客観的に何が起きたのかが理解できます。

(1)開幕までの経緯
(2)開幕後から中止に至るまでの経緯
(3)本件不自由展の展示状況等
(4)抗議・強迫の状況
(5)再開及び閉幕までの経過
(6)閉幕後の経過

 こうした経過については特段驚くほどの事はありません、しかし、経緯について確認したい方には格好の資料と言えます。

 p.63から始まる「争点」を追っていくと裁判で何が争われているのかがわかります。

 主たる争点は「事情の変更により特別の必要が生じたとき」には負担金の支払いを拒むことができると被告=名古屋市は主張するが、その主張は正しいのか。(争点(3))というものですが、その前にも手続き論として書面表決は規約13条8項の「会長が必要と認める場合」の要件を満たすかというもの(争点(1))と、書面表決は定足数要件を満たすかという議論(争点(2))もありますが、いずれも原告の主張が採用されています。

 主たる争点はまた8項目に細分化されています。

(1)「事情の変更により特別の必要が生じたとき」の解釈
(2)本件での各事情の検討
(3)公共事業性とハラスメントについて
(4)政治的中立性について
(5)報告義務違反の有無
(6)運営会議の不開催
(7)その他の事情(原告に生じる不利益)
(8)事情の変更による特別の必要性の判断

 この中でも「(3)公共事業性とハラスメントについて」から「(4)政治的中立性について」は勉強になります。

 ここで、裁判所は不自由展に対して反対意見が多数寄せられたことを受け、鑑賞者に不快感、嫌悪感を生じさせたかもしれないとしながらも、そうした表現方法、芸術活動というものもあるのであって、そうした芸術活動を「ハラスメント」として、違法と断言することはできないとしている。

 実態としては、不自由展に多く寄せられた反対意見というものは、実際の展示を見たわけでもない者たちが、一部政治的にゆがんだインターネットコンテンツ(主には、ユーチューブ動画)によってデマを吹き込まれた結果、その是非を考えないまま脊髄反射的に起こした行動でしかないが、それが正当な意見であるとしても、展覧を否定できないとした判断で、非常に力強い。

 また、河村市長が今に至るも繰り返している「あいちトリエンナーレ」が公共事業であるという主張についても、「原告(あいちトリエンナーレ実行委員会)は権利能力なき社団であって、地方公共団体ではないから、本件芸術祭を地方公共団体が行うような公共事業であるということはできない」と退けている。河村たかしは判決文を読んでいないのだろうか。または「公共事業」の意味を理解していないのかもしれない。名古屋市長のくせに。

 これでまだ河村*1が「公共事業だから云々」という主張をして控訴しようというのであれば、単なる蒙昧と断定する以外無い。

 判決文は、以上のような流れで、最後に判断を述べているが、全てについて被告=名古屋市の主張を退けている。原告側の完全勝訴で、これで控訴などというのは単なる政治的判断、往生際の悪さでしかない。

 そもそも河村は負担金を払わないとした時に、文化庁も不払いとしていて「文化庁が払うのなら、名古屋も払いますよ」と言っていた。文化庁はその後支払いを行ったのだから、そのタイミングで名古屋も追従しておけば面倒も裁判費用も必要なかった。

 河村の政治的都合、決断力のなさで、名古屋市民の浄財を浪費しているにすぎない。

 と、これが全体像だが、この判決文で引かれている被告=名古屋市の主張に、「政治的に中立であるべき地方自治体」である名古屋市において、正当性を疑うような記述がある。それがp.23からの「不自由展実行委員会の構成員5名は、いずれも、美術の専門家ではなく、いわゆる左翼系メディアに登場するジャーナリストないし左翼系活動家としてしられている」とする記述以降のものであって、完全に「ネトウヨ」の妄想レベルの揶揄ではないのか。そして呆れたことに、名古屋市が公開している判決文のこの部分は対象者氏名らしきものをここでは黒塗りしているが、判決文全体では先に5名の氏名は記述されており、そもそも公表もされている。

 もう一つ指摘をしておくと、被告=名古屋市は、こうした構成を原告事務局も知っていたと主張しているが、ではその原告の会長代行である河村たかし名古屋市長は知り得なかったのか?

 十分に知りえる立場にいながら、その構成をこうして事後に批判するというのは、当たらないのではないのか?

 この部分は、ぜひ名古屋市側の被告答弁書を精査して名古屋市または、北口弁護士の作文の問題点として追求してみたい。

 もう一つがp.19の記述である。

 引用する
 「キム作品についていえば、いわゆる従軍慰安婦問題は、新聞社が、捏造した虚報を全世界に向けて大々的に、何度も繰り返し発信し続けたことにより、韓国をはじめとする全世界の人々に、あたかも慰安婦の強制連行が歴史的事実であるかのように誤解され、信じ込まれてしまったものである。これによって、日本及び日本国民は著しい国辱を受けた」

 二段階で考える必要がある。「従軍慰安婦問題」とその「強制連行」の問題だ。ここでいう「新聞社」の「捏造した虚報」というものは、いわゆる「朝日新聞による吉田証言問題」を指していることは明らかだが(被告=名古屋市、または北口弁護士による当該主張書面を確認したいが)そこで「捏造」されたものは、「吉田なる人物が従軍慰安婦の強制連行に手を貸した」ということであって、全体としての「従軍慰安婦」の存在は否定されていないし、「強制連行」の歴史的事実も否定などされていない。

 政府見解としては「従軍慰安婦」は歴史的事実*2であって、それを地方自治体が裁判上の主張として否定する行為は、行政の一貫性の上からも失当であり看過し難い。

 「吉田なる人物が従軍慰安婦の強制連行に手を貸した」事実はなかったが、それは全体としての「従軍慰安婦の強制連行」の実在を揺るがすものではない。

 アクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」(wam)という団体がある。戦時性暴力についての資料を参集し、インターネット上で公開している。

wam-peace.org

 このサイトで、「連行」というキーワードで資料を検索すると、様々な証言や裁判資料、郷土史料などが参照できる。

“連行” の検索結果 – 日本軍慰安所マップ

 例えば、吉見義明名誉教授(映画「主戦場」でも発言が引用されていた、日本近現代史の泰斗)監修の「東京裁判-性暴力関係資料」からの「桂林 軍事委員会行政院戦犯罪証拠調査小隊」による裁判資料には次のような記述がある。

「工場ノ設立ヲ宣伝シ四方ヨリ女工ヲ招致シ麗澤門外ニ連レ行キ強迫シテ妓女トシテ獣ノ如キ軍隊ノ淫楽ニ供シタ」

a-2915 – 日本軍慰安所マップ

また東京裁判における「ビールマン夫人宣誓供述書」には次のようにある。

「是等兵士ノ幾ラカガ這入ッテ其ノ中ノ1人ハ私ヲ引張ッテ私ノ室ヘ連レテ行キマシタ。私ハ一憲兵将校ガ入ッテ来ルマデ反抗シマシタ。其憲兵ハ私達ハ日本人ヲ接待シナケレバナラナイ。何故カト云ヘバ若シ吾々ガ□ンデ応ジナイナラバ、居所ガ判ッテヰル吾々ノ夫ガ責任ヲ問ハレルト私ニ語リマシタ。コノ様ニ語ッタ後、憲兵ハ其兵士ト私トタケ残シテ立去リマシタ其時デスラモ私ハ尚ホ抵抗シマシタ。然シ事実上私ハヤラレテシマイマシタ。彼ハ衣服ヲ私ノ身体カラ裂キ取リマシタ。ソシテ私ノ両腕ヲ後ニ捻リマシタ。ソコデ私ハ無力トナリ、ソノ後デ彼ハ私ニ性交ヲ迫リマシタ。・・・此ノ状態ガ3週間継続シマシタ」

a-3446 – 日本軍慰安所マップ

 こうした証言、史料は一つや二つではない。そうした数々の史料のうち、その一部でしか無い「吉田証言」の虚偽性だけを暴き立ててあたかも全体が虚偽であるかのごとく主張するのは、論理学の解らない愚昧の所業である。


 更にいうと、こうした東京裁判並びに連合国軍事法廷の裁判を受託することが、第二次世界大戦以降日本が主権を回復するための講和の条件であった。

サンフランシスコ平和条約」の第十一条には次のような記述がある。

 「日本国は、極東国際軍事裁判所並びに日本国内及び国外の他の連合国戦争犯罪法廷の裁判を受諾し、且つ、日本国で拘禁されている日本国民にこれらの法廷が課した刑を執行するものとする。(略)」

 日本は、上記裁判の結果を受け入れることで、講和を得た。この条約の効力は当然今も働いている。この裁判結果を受け入れたくなければ、もう一度この国はGHQの占領下に戻してもらうか、条約の破棄を宣言すべきだろう。

 それもできないまま、他国には条約を守る(東京裁判等の結果を受け入れる)ふりをして、内向きには「東京裁判史観からの脱却」などと、今更ながらの責任逃れを行う。そのような二枚舌こそ、恥ずべき行為であり、日本及び日本国民の「著しい国辱」と言うべきなのではないか。

 二枚舌、嘘つきは名古屋市の代表者として相応しくない。


おまけ、中曽根康弘大勲位が関与した慰安所設立について。

www.shugiin.go.jp


*1:もういい加減、敬称付けるのが面倒

*2:安倍政権以降「従軍」を否定してみたり、河野談話は政府見解ではないとしているようだが、後述するように東京裁判等で明らかな慰安婦強制に対して軍の関与が証言されており、そうした裁判結果について「政府見解」はサンフランシスコ平和条約で明白に受け入れているのであるから、政府見解としては「従軍慰安婦」は歴史的事実である