市民のための名古屋市会を! Ver.3.0

一人の名古屋市民が「地域委員会制度」「減税日本」に対する疑問をまとめるサイトです。(since 2011/3/3)

真・庶民革命(2)幹事長、辞表提出!


 前回までのあらすじ:
 河村市長の主導した名古屋市会リコール運動は、減税日本ゴヤという議員経験のない、素人ばかりの28人で構成された議会会派を生み出した。議会開催に先立つ会派内役員人事の構成において、団長一任という方針が示される。民主的な会派運営を想定していた議員たちは戸惑いながらもこの方針に従うことになる。さて・・・・

  真・庶民革命(1)革命の鳴動


 (この文章は創作です。創作ですが出来うる限り事実に即して描いております)


 リコール署名を実現させ、減税日本ゴヤを成立させた背景には、河村市長の有力な後援者の力があった。河村市長と河村事務所だけでは資金力も事務能力の面でも、リコールを実現させる事は出来なかっただろう。リコール署名簿収集運動が空中分解しかけた時に、そのテコ入れとしてこの後援者から送り込まれたのが舟橋であった。舟橋は以前に県会議員の秘書を務めた経験がある。この秘書時代に「同じ釜の飯」を食った秘書仲間も幾人か、既存政党の議員として名古屋市会に当選していた。
 河村代表は市会会派「減税日本ゴヤ」の人事について当初「会派内で民主的に決めれば良い」と話していたが、少しでも議会の事が判っている人間であれば、そんなにたやすい話では無い事が判る。特に会派の幹事長というのは他会派との調整を行うのが職責だ。団長よりも他会派との折衝を行う能力が要求される。こうした事から会派の幹事長には舟橋を当てるという意向が強く後援者から示されていたらしい。この後援者の「隠然たる圧力」で舟橋が幹事長に据えられたという経緯。それは幹事長という立場だけは既存政党と対話ができる人間が就かなければ議会運営は進まない。という、少なくとも議会を知っているこの後援者の当然の判断だったのだろうが、この事が、この後援者の判断を支持する団員と、民主的な互選による役員選出が叶わなかった一部団員の間で不信感となり、軋轢を生むこととなる。

 また、舟橋幹事長が既存政党の議員と旧知の間柄であった事も、これらの不信感を抱いていた団員の中にあらぬ疑惑を起こさせる事となった。つまり「市民の手で庶民革命を起こすために作られた減税日本が、こうした後援者や既存政党と繋がっている一部議員の為に利用されるのではないか。舟橋幹事長は既存政党に利用されているのではないか」という疑惑だ。



 本来こうした疑惑は会派内の対話によって解消されるべきだったのだろう。

 そしてそもそも「既存政党に利用される」ということと「自分たちの政策的目標を実現する」という事柄とは相反する事もあれば、整合する事もある。ことさらに既存政党との間に壁を作って、一切の対話をシャットアウトすることは現実的ではない。大切なのは「自分たちの政策目標を実現する」事であって。それが既存政党の「発案」で実現できるのであれば、「既存政党に利用される」事もあって良いだろう。既存政党にそのような「発案」をさせるように仕向けるのも、政治的手法というものだ。不幸な事に減税日本ゴヤという会派は4年間の間、こういったダイナミズムに対して理解ができなかったようだ。彼等は常に「敵」と「味方」を作り、「味方の目標実現」だけを「願って」来ていたように見える。そう「願って」いただけ。濁悪な既存政党と手を結ぶよりも、清純な祈りをささげていた方が正しいのだろう。これは宗教か趣味であって、政治ではない。


 舟橋幹事長は幸いこうした宗教や趣味には興味はなかったようだ。玉置幹事が作成した議員報酬半減に向けた「改正案」の内容が既存政党に漏れている事を感じると、逆に各会派の中でこの「改正案」に賛成してくれる議員を説得にかかり、議会の多数派工作を推し進めた。
 名古屋市会の会派構成なら、減税(28)に対して公明(12)が乗っても民主(11)が乗っても過半数の38(総議席数75)を超すことができる。さらに共産党(5)も議員報酬の半減には賛成の意向を表明している。



 こうした既存政党との話し合いの中で、舟橋幹事長は次のような提案を受けた。
 「この減税日本ゴヤの議員報酬半減の改正案に賛成するのはやぶさかではない」「しかし、ここで報酬を半減という事になると、市民税は前年の所得を基準に徴取されるので急激な収入減は痛い」「既存議員については激変緩和措置として最初の6月の加算額(賞与)について考慮していただけないか」

 当初の「改正案」では報酬額は月額50万円。6月と12月にそれぞれ100万円を加算して年額報酬800万円となっていた。この6月の加算額に激変緩和措置として100万円を加算する事になった。



 3月19日に愛知県議会が閉会し、県議会選挙が本格化しはじめた。
 河村代表は市議会や市の行事には気もそぞろ、愛知県内を所狭しと飛び回り始めている。

 しかし、東日本大震災の影響で「減税」への支持が沈静化してきたことは明白で、減税日本の力となっていた風向きが微妙にずれてきた事が伺われる。

 河村代表の「庶民革命」のピークは政令指定都市として初めて住民投票を求める署名に対して36万人の賛同を得た事だろうが、この署名簿について大量にコピーを作成し、選挙に利用していたのではないかという噂が流れ始めていた。

 また、それに続く愛知県知事選挙、議会解散を求める住民投票、河村代表の辞職に伴う名古屋市長選挙。いわゆる「トリプル選挙」。この名古屋市長選挙に対して、対抗馬として立候補した愛知6区の現職代議士の補選が行われる事となった。この候補者選定がなかなか進まずにいた。

 リコール署名運動の頃の「暑さ」が過ぎ去った事は明白であった。



 4月5日。自民党民主党が共同で独自の議員報酬改正案を提示した。
 両党共同改正案の目玉は、 第三者委員会、「議員報酬検討会議」の存在にある。

 この条例案の中身は、先ず報酬については半減800万円を飲もうというものだ。そして同時に、学識経験者や無作為抽出によって選ばれた市民により構成される「議員報酬検討会議」を設置し、議員報酬のあり方について議論し、決定してもらおうというものだった。

 議会というのは行政当局を審査、監督する立場にある。
 そうであるなら、その議会の報酬について行政当局や市長が口を挟むべきではない。行政当局や市長からしてみれば、議会の力は弱い方が良い。議会を弱体化させるにはその報酬を減額して、高い見識や能力を持った人物が、議会に参画できないようにすればいい。また、議会が自ら、議会の報酬について云々することは「お手盛り」を生みやすい。
 それが減額であろうと、議会が自ら自分たちの報酬を左右するというあり方はケジメを超える。「第三者= 議員報酬検討会議」によって名古屋市会の議員報酬について、客観的な金額を定めてもらおうというのがこの自民党民主党の共同提案である。
 これは改選前の議会において「議員報酬を決める第三者委員会を設置する」という方針を踏襲したものだ。



 4月12日、 名古屋市役所東庁舎、減税日本ゴヤ控室。
 玉置幹事はいささかうんざり気味だった。減税日本ゴヤの提出する議員報酬改正案、今日はその改正案について団会議にかけるという日になっている。勿論、すでに改正案については全員に配布済みであった。しかし読んできている者が半分にも満たないようなのだ。それはまだ良い。問題は目を通してきた者についても、ろくにその内容を理解できていないことだ。「こんなまどろっこしい書き方しないで」と言われても、既存の条例に合わせて作るのが「改正案」なのであるから仕方がない。そもそもこの改正案はすでに河村代表が数度にわたって議会に提出して、否決されているものを基礎においているが、驚く事に、河村代表が市長として改正案を議会に提出している事すら知らなかった者もいた。いったい、選挙で「3大公約」を訴えていたのはなんだったのか疑わざるを得ない。「ちょっと、まって。もう一度整理して説明して」
「ですから、期末手当は」
「6月のも期末手当で良いんだよね」
「はいそうです」うんざり気味に説明を続ける「期末手当に関しては、基準日、6月1日ですが、その基準日の前、六か月の間、どれだけの期間、議員で居たかという事で割合を乗じて決められます、ので、私たちは(4)の『三か月未満』となり、100分の30を掛けた金額となります」
「つまり、3掛けってこと?」
「そうです」
「なら、僕らは6月のボーナスは30万円しかもらえないって話?」「それなら、年の報酬も800万円ではなくて730万円じゃない」数人の議員から不満の声が上がる。
「確かに、そうですが、任期最初の期末手当だけですから・・・」
「僕たちは報酬800万円は約束してきたけど、730万円になるなんて聞いていない」
「なんとか、年額の報酬として800万円になるように調整できないのか」「こんな月額制にせず、年俸として示せばいいのじゃないのか?」「執行部はこういった大切な事をもっと早く説明すべきじゃないのか」

 執行部に説明しろって、そもそも議員報酬の規定なんて例規集を見れば書いてあるのだから、そんなもの自分で見るのが当たり前じゃないのか。選挙の際、有権者に議員報酬についてアレコレ言ってきたはずなのに、その仕組みすら理解せずにいたのだろうか。今になって他人に説明しろというのはあまりに無責任だろう。玉置幹事は堪忍袋の緒が切れた。
「判りました、ご説明が至らなかったことについては謝罪いたします。責任をとって幹事職を辞職させていただきます」さすがに辞職を口にすると反論は収まった。

 舟橋幹事長が引き取って「説明が遅れた事については謝ります。今週末、15日にこの改正案を議会に提出しなければなりませんので、提出者のご署名をお願いします。執行部の不手際については幹事長として、この私も幹事長職の辞表を提出させていただきますのでご容赦ください、よろしくお願いいたします」舟橋が幹事長職辞職を口に出して横に座っていた則竹団長は驚いた。



 「平成23年議員提出議案3号
 名古屋市議会の議員の議員報酬及び費用弁償等に関する条例の一部改正について

 名古屋市議会の議員の議員報酬及び費用弁償等に関する条例の一部を改正する条例を次のとおり定めるものとする。
 平成23年4月15日提出
提出者
鈴木孝之、中村孝道、田山宏之、玉置慎吾、林なおき、余語さやか、堀田太規、金城ゆたか、のりたけ勅仁、加藤 修、山嵜正裕

(以下本文略)」

 ちなみに提案者になっていない者は「(敬称略、姓のみ)園田、鹿島、山田、黒川、近藤、松山、冨口、浅井、河合、宇佐美、片桐、荒川、湯川、富田」


 この時、中村孝太郎は議長であったので議案に対して中立な立場を保たなければならなかった、その為議案提案者となっていない。大村光子も所管する総務環境委員会の委員長となっていたため提案者となっていない。舟橋幹事長は同時に議会運営委員会の委員長であったので提案者となっていない。


 こうして1年生議員、名古屋市会議員となって3か月も経っていない素人議員たちが作った条例案が、名古屋市会に上程される事となった。減税日本ゴヤの提出する条例案を「3号議案」それに対する自民党民主党の共同提案になる条例案を「4号議案」として、名古屋市会において議員報酬半減に向けた政治闘争が開始される事となった。


さて、いよいよ両案の対決が現実となった名古屋市会。
戦の行方は。

次回、「真・庶民革命」第3回「議会は酷薄な戦場」
にご期待ください。