§4.法整備の問題点
米国やカナダ、イギリスや欧州各国、タイやシンガポール、インド、ヨルダンなど、各国で人種や宗教、民族的出自、性的嗜好などをもつ集団に対する嫌悪をともなう扇動等を行う事は、刑罰を伴う違法行為とされている。
こういった立法の根拠は、各国国内の議論もさることながら国連が進めてきた「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(International Convention on the Elimination of All Forms of Racial Discrimination)」いわゆる「人種差別撤廃条約」の求めによるところが大きい。
International Convention on the Elimination of All Forms of Racial Discrimination
勿論、日本も1995年(平成7年)に同条約に加入している。
同条例条約第4条(a)及び(b)は次のように要請している。
第4条
(a)人種的優越又は憎悪に基づく思想のあらゆる流布、人種差別の扇動、いかなる人種若しくは皮膚の色若しくは種族的出身を異にする人の集団に対するものであるかを問わずすべての暴力行為又はその行為の扇動及び人種主義に基づく活動に対する資金援助を含むいかなる援助の提供も、法律で処罰すべき犯罪であることを宣言すること。
(b)人種差別を助長し及び扇動する団体及び組織的宣伝活動その他のすべての宣伝活動を違法であるとして禁止するものとし、このような団体又は活動への参加が法律で処罰すべき犯罪であることを認めること。
ところが日本政府は条約の求める立法措置を行っておらず、国連の人種差別撤廃委員会より問い合わせ及び要請を受けている。
「人種差別撤廃条約第1回・第2回政府報告審査フォローアップ 人種差別撤廃委員会『最終見解』における勧告への日本政府の対応状況 平成19年8月現在」
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinshu/pdfs/sabetsu.pdf
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinshu/pdfs/kaito3-6.pdf
勧告12.人種差別の禁止全般について、委員会は、人種差別それのみでは刑法上明示的かつ十分に処罰されない事を懸念する。委員会は、締約国に対し、人種差別の処罰化と、権限のある国の裁判所および他の国家機関による、人種差別的行為からの効果的な保護と救済へのアクセスを確保すべく、本条約の規定を国内法秩序において完全に実施する事を考慮するように勧告する。
対する日本政府の回答は次のようなものである。
「我が国は、憲法の保障する表現の自由等の重要性にかんがみ、本条約の締結に際し、右保障と抵触しない限度で第4条(a)及び(b)の義務を履行する旨の留保を行っているが、かかる範囲での処罰立法義務については、10で回答したとおり名誉棄損等既存の刑罰法規で充分に担保されている。(以下略)」
文中の「10で回答」と言われる内容は、個別具体的な名誉棄損や信用棄損に対する名誉棄損罪や侮辱罪、信用棄損・業務妨害罪を示し。特定の個人に対する脅迫行為に対して刑法の脅迫罪があり、実効的な暴力行為には傷害罪、暴行罪があると述べているに過ぎない。
勧告で求められている「人種差別それのみ」でなされる処罰に対して日本政府は立法意思が無い。
その為今日のように、明白な人種差別を目的とした「在特会」の街宣やデモが各地の警察に要請された際に、警察では「表現の自由」としてこれを認めなければならず、「韓国人は出て行け」「叩き出せ」「殺せ」「死ね」などという罵声が日曜日の平和な町に響き渡り、時として暴力行為が起こる事となる。
警察や地方自治体がこれらの行為を抑制をするためにも「人種差別それのみ」に対して警察、行政が対応できる立法措置が行われなければならないだろう。
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