市民のための名古屋市会を! Ver.3.0

一人の名古屋市民が「地域委員会制度」「減税日本」に対する疑問をまとめるサイトです。(since 2011/3/3)

名古屋城についての事実確認と現状の推測(3)

名古屋市河村たかしの認識し、彼の口から語られる「名古屋城天守閣」の姿と、名古屋市が進め、具体的に竹中工務店が作ろうとしている「名古屋城天守閣」は異なるものとなっている。

国の施策であれば内閣内で不一致が起これば、倒閣運動が起きてもおかしくない。マスコミはこぞってその不整合を指摘するだろう。(中日新聞にしても、国政における内閣不一致には容赦ない)しかし、名古屋市の市政における市長のこの二枚舌には全く批判を加えていない。更に呆れた事に、市長の口車に乗っている。

平成30年2月2日に名古屋市オンブズマンが情報公開請求し、開示された資料がある。(29観名整第117号平成30年2月2日)

http://www.nagoya.ombudsman.jp/castle/180202.pdf

この中に件名を「名古屋城天守閣整備事業基本設計その他業務委託」とした「業務委託概要書」があり、4月27日に8億4693万6千円が支払われた「基本設計」の概要が判る。

つまり、これが名古屋市竹中工務店と作ろうとしている「名古屋城天守閣」の姿だ。

まず、「4.業務の内容」の「(6)関係法令等行政手続き業務」に注目したい。(PDFの10ページ)
「関係法令等に基づく行政手続きに必要な調査・実験、関係機関との協議、申請書類の作成及び申請手続きを行う」とある。

(ア)文化財保護法に基づく現状変更許可の申請に必要な業務
  (略)
(イ)建築基準法第3条の適用に必要な協議及び構造及び防火・避難上の安全を証明するための事前打ち合わせ
(ウ)消防法その他関係法令等に基づく各種申請に関する行政機関等との事前協議、申請に必要な調査・実験、申請書類作成及び申請手続き及び事前打ち合わせ
(エ)特別史跡名古屋城跡全体整備検討会議天守閣部会の事務局業務
・会議参加有識者の手配、事前説明、及び謝礼、旅費の支払い

?知らなかった。「天守閣部会」の参加有識者って、事業者である竹中工務店が「手配」して「事前説明」して「謝礼」払って「旅費」も負担しているんだ。
つまり、天守木造化の為の有識者会議で、こういうのをなんとかって言ったよな、一般的な言葉で、なんだったっけ?
なんか、映画の「シン・ゴジラ」でも出てきたよな、あ!思い出した「御用学者」だ。あの「役立たず」だ。

それはそれとして、(ア)〜(ウ)まで、見事なまでにできていないと思いませんか?
これで「基本設計」が出来上がったって、名古屋市は竹中に代金を支払っているんですから、うらやましい限りです。

さらにPDFファイルを見て行くと、16ページには「障害者差別解消に関する特記仕様書」という書面があり、それに続いて
ユニバーサルデザイン整備基準整備計画(変更)書」まである。(PDFとして59ページ)

こうした内容を見れば、名古屋市竹中工務店は「ユニバーサルデザイン」に準拠した「バリアフリー」に留意した設計を行おうとしていた経緯が見られる。これは至極当たり前の事に感じられるし、常識的な内容だ。(天守を木造化する理由自体は書かれていないし、それ自体は常識的な事とは思えないが)

こうして導かれるのは、伝統的な木軸構造ではなく、耐震性を備えたハイブリット構造の木材を使った現代建築の木造建築であり、内部に鉄骨階段(不燃素材で避難路を確保する必要がある)やガラスの防火壁、その他排煙やスプリンクラーなどを備えた、ハイテク木造建築の姿だ。当然ながら、エレベーターの設置も検討されている。
外階段は有るのか無いのか判別は付かないが、あの外階段を付けないまま2方向避難路が設定できるのであれば見せて頂きたいものであって、その人物は引田天功(古い!)よりも優れた魔術師だろう。

こうした資料を見るだけでも、河村市長の説明する「史実に忠実な本物復元」という姿と、実際に名古屋市竹中工務店と進めているハイテク木造が異なる事は理解できるだろう。いったいなぜ、こんな齟齬が起きるのか?

河村市長は自分が何をしゃべっているのか理解できていないのではないかと疑っている。
そういう人をどういうのか、敢えて私は言いませんが。民主主義とは恐ろしい制度で、そんな人でも「民意」があれば地方自治体の長に成れてしまうわけだ。

さて、このPDFの16ページ「障害者差別解消に関する特記仕様書」に戻ってみると、そこに「障害を理由とする差別の解消の推進に関する名古屋市職員対応要領」という文章が引用されている。

名古屋市のオフィシャルなWebサイトに文書が掲載されている。

「障害を理由とする差別の解消の推進に関する名古屋市職員対応要領」

一部を引用する。

(2)障害者差別禁止の基本原則
 権利条約(引用者付記:「障害者の権利に関する条約」(略称:障害者権利条約)平成18年 国連 "Convention on the Rights of Persons with Disabilities" https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinken/index_shogaisha.html )は第2条において、「『障害に基づく差別』とは、障害に基づくあらゆる区別、排除または制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のあらゆる分野において、他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を認識し、享有し、又は行使することを害し、又は妨げる目的又は効果を有するものをいう。障害に基づく差別には、あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定を含む。)を含む。」と定義しています。
(略)
同条第2項(引用者付記:障害者基本法/昭和45年法84号/第4条(差別の禁止))に、「社会的障壁の除去は、それを必要としている障害者が現に存し、かつ、その実施に伴う負担が過重でないときは、それを怠ることによつて前項の規定に違反することとならないよう、その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならない」ことが規定されました。
(略)
(3)法の基本的考え方
 障害者基本法が目指す「全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会」を実現するためには、日常生活や社会生活における障害者の活動を制限し、社会への参加を制約している社会的障壁を取り除くことが重要です。
 このため、法は、<障害者に対する不当な差別的取扱い及び合理的配慮の不提供を差別と規定>(引用者付記:本文においては、<>の間は太字、下線となっており強調されている)」

さて、この文書2ページに「発行者」の名前がある。
名古屋市長 河村たかし

名古屋市河村たかしは、この文章によって、名古屋市は障害の有無によってヒトを「区別、排除または制限」してはいけないと宣言しているわけだ。そして「全ての人権及び基本的自由」というものを「享有し、又は行使することを害し」たり、消極的にも「妨げる目的又は効果を有するもの」を「障害に基づく差別」としているんですよと、教えてくださっているわけだ。そこでは、「あらゆる形態の差別」があり、「合理的配慮の否定」も含まれている。

「合理的配慮の否定」、すでに竹中工務店の基本設計にガラスの防火壁が明記されている様子が見て取れる。(すべての情報が開示されているわけではないので、どの程度の設備が付加されているかは不明だ)

天守閣部会の委員でもある広島大学の三浦教授も「完璧な復元は不可能であるのだから、安全の為の設備付加は有り得る」とされているようだ。

つまり、ここで「社会的障壁の除去」を「必要としている障害者が現に存し」ている段階で、「実施に伴う負担が過重でない」のなら「必要かつ合理的な配慮がされなければならない」

「合理的配慮の不提供」を何と呼ぶか、名古屋市河村たかしは「差別」と呼んでいるのである。



エレベーター設置を求める障害者に対して「甘えるな」とか言う者は、よろしい、その言葉、ご自身が老齢となり、足が不自由になった時にも覚えておいていただきたい。ぜひ長寿であられんことを!*1

名古屋城天守建物は文化的建造物だからバリアフリーよりも伝統的構造を優先すべきだ」というヒトは、すでに竹中工務店名古屋市が設置を進めようとしている防火・防災の為の設備に対しても同じ事を言ってくれ。その上で訪れ、地震なり火災なりに遭えば良い。無責任でヒトの命を何とも思わぬ人非人のたわごとにしか聞こえない。

なににせよ、こうして自分で「障害を理由とする差別の解消の推進に関する名古屋市職員対応要領」を提示しておいて、自分自身で破る。自分で「差別」と呼んでいる行為を自分で行う「名古屋市河村たかし」とは何なんだろうか?

名古屋市職員諸子、残念ながら、組織のトップが、これほど言っている事とやっている事(更に言えば、言っている事の間)が不整合で破たんしている状態では、その下でまともな行動は無理と思った方がいい。不条理が絶えず君たちを押しつぶすだろう。君たちが矢面に立つ必要は有るのだろうか?

断じてない!

こんな人物の為に名古屋市は有るのではない!
君たちは、こうしたトップや上席者の為の道具ではない、全体の奉仕者として、矜持を持って行動すべきだ!

「兵士よ。奴隷を作るために闘うな。自由のために闘え」(チャールズ・チャップリン「独裁者」より)

続く

いよいよ次回、この名古屋城天守木造化問題の核心、最大の問題、そして最高に醜悪な問題について触れます。


*1:こういう問題をジョン・ロールズは「無知のヴェール」と呼んだのだが、そうした20世紀の知見が失われ、不勉強で見識の低い、乱暴な議論が蔓延っている。社会が劣化していると言わざるを得ない。劣化した社会の民意が選択した結論はより深刻に劣化しているという事だ。