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政務調査費の人件費受取人公開について

 なんだかコメント欄に色々と書き込みいただいているお陰か、当ブログのアクセス数が跳ね上がっている。ありがたいことだ。
 本来であれば、アクセス数が多くなった時には「とっつきやすいネタ」というものを展開して繰り返しアクセスしていただくようにすべきだろうが、そんな器用な真似はできない。今日は条例の条文が幾つか出てくる。

 まあ、アクセス数を下げる「キラーコンテンツ*1」である数式まで、このブログでは展開しているのだから、今更という感じでしょうが。

 なるべく噛み砕いてお話をするつもりなので是非、最後まで読んでいただきたい。


 先週の中日新聞に「政務調査費の人件費受取人を公開に」として、河村市長が政務調査費の透明性を高めるための条例改正、または制定を考えているという旨の記事が載った。それも一面トップに。
 そしてこの報道は他の報道機関も追従した。

 本日の名古屋市長定例記者会見でもこの話題が再度出されたようである。
 http://www.asahi.com/articles/CMTW1310152400004.html

 常々、河村市長は政務調査費の扱い、性質について勘違いをされている。国会議員の文書通信交通費のような性質を持っていると思っているようだが、この両者はまったく異なる。

 また、この制度について河村市長は理解しようとしていないのだろうか。

 この会見でも次のような発言がなされたようだ。

 議長のところで(収支報告書を)閲覧というような制度になってますけど
 (略)
 (人件費の受取人の部分が)マスキングされてまして。
 例えば市長の私にマスキングしてないものを見せてもらうとか。もろもろ議長さんに丁寧にご説明にいかせていただきたい。

http://www.asahi.com/articles/CMTW1310152400004.html

 これだけの発言に幾つ事実誤認があるか。
 以下に説明させていただく。

 名古屋市政務調査費の閲覧は「議長のところで」はできない。閲覧場所は名古屋市会事務局内と規程に明記されている。(名古屋市会政務活動費の収支報告書等の閲覧に関する規程 第3条)
 名古屋市会政務活動費の収支報告書等の閲覧に関する規程

 この規程の中に「マスキング(いわゆる「黒塗り」)」についての規定は無い。

 マスキングを規程しているのは「名古屋市政務活動費の交付に関する条例」である。
 名古屋市会政務活動費の交付に関する条例

第7条 (略)

2 何人も、議長に対し、前項の収支報告書等の閲覧を請求することができる。

3 議長は、前項の規定による請求があったときは、非公開情報(※1)が記録されている部分を除き、収支報告書等を閲覧に供するものとする。

 ※1 名古屋市情報公開条例(平成12年名古屋市条例第65号)第7条第1項に規定する非公開情報をいう。

名古屋市会政務活動費の交付に関する条例

 この条例の第一項は収支報告書の保存期間を定義しており、それは5年である。
 つまり、5年以内の収支報告書に付いて、誰でも議長に閲覧を請求することができるというきまりが第一項と第二項で構成されている。

 第三項で例外規定が明記されている。「非公開情報は除け」とされているのである。
 これが「マスキング」の正体となる。*2


 では、その「非公開情報」を定めた「名古屋市情報公開条例 第7条第1項」を見ることにしましょう。
 名古屋市情報公開条例

第7条 実施機関は、公開請求があったときは、公開請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「非公開情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、公開請求者に対し、当該行政文書を公開しなければならない。

(1) 個人の意識、信条、身体的特徴、健康状態、職業、経歴、成績、家庭状況、所得、財産、社会活動等に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人を識別することができるもの

(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)

のうち通常他人に知られたくないと認められるもの又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの。ただし、次に掲げる情報を除く。

 ア (後述)
 イ (後述)

 (以下の各項については論点が異なるため割愛する)
(2)(事業を行うものの事業に不利益を与える情報について)
(3)(緊急避難に関する規定)
(4)(公益の為の自由な言論を疎外する可能性についての規程)
(5)(公共事務、事業の利益を損なう情報についての規程)
(6)(予め公表しない事を約した上での情報に関する規定)
(7)(法律、政令等により実施機関が公開しないと認める情報について)

名古屋市情報公開条例

 つまり、この第7条の(1)〜(7)までに挙げられている情報を「非公開情報」として、「市民の知る権利を尊重し(略)民主的で公正かつ透明性の高い市政の推進に資することを目的と(同条例1条)」して定められた「名古屋市情報公開条例」であっても、これらの情報に付いては公開できませんよと定めているのである。

 議長は(事実上は議会事務局は)この条文に従って「マスキング」を行っているのであって、議長が恣意的に、すき好んで、または隠そうと思って、マスキングをしているわけではない。

 この(1)〜(7)の内の(2)〜(7)は「政務調査費の人件費を受け取った個人」についてとは関係の無い条項なので割愛した。
 また(1)については一般に言う「個人情報」である事は明白だ。

 「個人情報」については、名古屋市は「名古屋市個人情報保護条例」が定められている。この(1)の条項も、この保護条例との整合性を取るための規定であることが伺える。

 ちなみに「名古屋市個人情報保護条例」には次のような条文がある。

(利用及び提供の制限)
第11条 実施機関は、個人情報を取り扱う事務の目的以外の目的のために、個人情報を当該実施機関内で利用し、又は当該実施機関以外のものへ提供してはならない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。

(7) 個人情報の提供を受ける実施機関が、法令等の定める所掌事務の遂行に必要な限度で当該個人情報を利用する場合であって、当該個人情報を利用することについて相当な理由があるとき。

名古屋市個人情報保護条例

 つまり当たり前の事だが、個人情報を持つ実施機関はそれを利用する事に相当な理由がある場合は、この個人情報を利用しても良い。

 上の記者会見で河村市長は「例えば市長の私にマスキングしてないものを見せてもらうとか」と言っているが、市長が議会事務局に政務調査費の領収書を見せろと言った際に、わざわざ「マスキング」したものを出すとは考えられない。
 政務調査費の支出に付いて、市長が調査をする事が「法令等の定める所掌事務の遂行に必要な限度」を越えるとはとても考えられない。(勿論、市長がその知りえた情報を、所掌事務の遂行以外の目的で他に口外すれば違反となる)

 市長ですら、政務調査費の受取人情報がマスキングされて窺い知れないというようなこの発言は、事実誤認もはなはだしく、あたかも議長や議会、議員の側が政務調査費を「マスキング」して隠蔽を諮っているかのように語るミスリードであり、プロパガンダと言えるだろう。
 そもそも河村市長は市長として実態的に政務調査費の支出に付いて調査しようとしたことがあるのだろうか?これもネグレクト、怠業を決め込んでいるのではないか?

 
 もう一度、話題を「名古屋市情報公開条例」 に戻す。
 同条例第7条では「非公開情報」を除き、当該行政文書を公開請求者に公開しなければならないと定めている。その「非公開情報」は(1)〜(7)の7種類であり、その内の(1)はいわゆる「個人情報」となっている。

 そして(1)については「ただし、次に掲げる情報を除く」と「ア」と「イ」の除外規定が定められている。(ここ、非公開情報の除外規定、と、否定が二重になっているので注意。非公開の除外なので、公開してよい情報という意味である)

 この内、「ア」については公務員等の業務に関わる場合の除外規定である。公務員の副業禁止規定に引っかかるので「政務調査費の人件費」を公務員等が受け取るわけは無いから論点から外れる。
 問題となるのは「イ」の規定だ。

イ 当該個人が、実施機関が行う事務又は事業で予算の執行を伴うものの相手方である場合において、当該情報がこの条例の目的に即し公にすることが特に必要であるものとして市長が定める情報に該当するときは、当該情報のうち、当該相手方の役職(これに類するものを含む。以下同じ。)及び氏名並びに当該予算執行の内容に係る部分(当該相手方の役職及び氏名に係る部分を公にすることにより当該個人の権利利益を不当に害するおそれがある場合にあっては、当該部分を除く。)

名古屋市情報公開条例

 「当該個人が、実施機関が行う事務又は事業で予算の執行を伴うものの相手方である場合」つまり、政務調査費の支出先とされる個人はこれに当たることは明白だ。

 「当該情報がこの条例の目的に即し公にすることが特に必要であるものとして」つまりこの情報公開条例の目的である「市民の知る権利、民主的で公正かつ透明性の高い市政の推進」に「特に必要であるものとして」

 「市長が定める情報に該当するときは」第7条1項の「非公開情報」とされた「個人情報」であろうとも、除外できる(公開できる)と定められているのである。


 つまり、市長は特段、条例を改正したり、新たに条例を作るというような作業をしなくても、この「第7条(1)イの規定」に従って、「市長として定め」れば個人情報であろうと公開できるのである。

 そしてつい最近もこの規定を実際に使って情報公開された例がある。
 名古屋市:名古屋市情報公開条例に基づく告示(市政情報)

名古屋市告示第125号

名古屋市情報公開条例(平成12年名古屋市条例第65号。以下「条例」という。) 第7条第1項第1号ただし書イの規定に基づき、条例の目的に即し公にすることが特に必要である情報を次のように定め、平成12年10月1日から施行する。

平成12年4月1日

名古屋市長 松原 武久

1 交際費の支出を伴う交際に関する情報であって、当該支出に関するもの
2 食糧費(公営企業会計にあっては、会議費又は備消品費のうち一般会計の食糧費に相当するもの)の支出を伴う審議会、打合せ会議、説明会等及び式典、イベント等並びに意見交換、情報収集、交渉、折衝等に関する情報であって、当該支出に関するもの

名古屋市:名古屋市情報公開条例に基づく告示(市政情報)

 市長が決断すればやれないことはない。

 「議長に要請する」だの「条例改正、制定」だのと、また議会との争点を作るように見せかけて、その実現がなされないと、議会を「市民の知る権利」を疎外し「民主的で公正かつ透明性の高い市政の推進」に抵抗する勢力であるかのように見せたいのであろうが、そんな小芝居は既に底が割れている。

 本当に「市民の知る権利」を確保し「民主的で公正かつ透明性の高い市政の推進」を図りたいのであれば、さっさと、市長としての指示を出せばいいのであろうし、それができないのであれば、「市民の知る権利」を疎外し「民主的で公正かつ透明性の高い市政の推進」に抵抗しているのは、河村たかし市長本人ということになるだろう。



追記:
本日(10月16日)の中日新聞、県内版に「名古屋市議政調費領収書公開/市長が透明性要請へ」と市長定例会見で行われたこの問題の要約が載っている。
この記事では。

市長は、議会が透明性を確保する措置をしない場合、政調費による人件費の受取人の全面公開などを盛り込んだ条例案を、早ければ市議会十一月定例会に提案する意向を示している。

と書かれている。

 「議会」は「措置」をする事はできない。議長は条例で決められたようにしか扱うことができない。

 市長は新たな条例案を持ち出さなくても、即座に透明性を確保する「措置」をとることができる。

 議会はこのような条例案が提出された場合、それを否決する可能性が高い。
他の条例、個人情報保護条例であるとか、情報公開条例との整合性が取れなくなる可能性があるからだ。(河村氏はこういう思い付きによる制度設計の矛盾に無頓着なので、自らの政党、減税日本が崩壊寸前であることにお気づきでないようだ。ご自分の政党が崩壊するのはご自由だが、名古屋市まで同じような思いつきで歪ませないでいただきたい)
 また、このように、条例案の提出そのものが、その本来の目的(知る権利や透明性)を離れ、河村市長の人気浮揚策としての<いわれなき>議会批判に政治利用されている。

 市長自身が上記のような「措置」を取り。更に、自身の政党における疑惑を晴らす努力をしてから、他に言うべきなのではないだろうか。
 少なくとも説得力が無さ過ぎるだろう。


*1:本当の意味のキラーコンテンツだね

*2:以前、私は「市長自身が黒塗りをしている」と書いた。この条文をそのまま読めば「議長が除く」事になっているので、議長が黒塗りしているのではと指摘する人が居るかもしれない。その議論は後に譲る