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一人の名古屋市民が「地域委員会制度」「減税日本」に対する疑問をまとめるサイトです。(since 2011/3/3)

「職員採用口利き疑惑」について

 6月20日の当ブログの記事について「判りづらい」という声をいただいた。
 文章が読みにくいとか、長ったらしいというのは今に始まったことではないのでお許し願いたいが、どうも昨年暮れに表ざたになった「職員採用口利き疑惑」について、一連の流れをご存じない方もいるようなのでここで整理してみる。

 2012年12月21日にこの問題は表ざたになった。

 それを遡る事2年

 2010年4月に嘱託職員の採用試験が行われた。任期は1年で最長2年更新できる。報酬は27万円程だそうだ。業務内容は保険料の未納世帯に督促を行う仕事。この時の募集では16人の採用枠に126人の応募があった。

 この時、応募者の一人*1について、自民党の長老議員である渡辺義郎市議から職員に採用を要請する「口利き」が行われ、筆記試験で成績が未達だった受験者の答案を改竄し、合格者としたといわれている。*2

 2012年4月に匿名の通報が市*3にあり。
 2012年8月ごろまでに、市は内部調査(関係者への聞き取り)を行い。答案改竄の実行者である当時の係長、及び指示を出したとされる、課長、部長の3名を「虚偽有印公文書作成罪」「同 行使」ならびに「公務員職権濫用罪」に当たるとして愛知県警察本部に刑事告発を行った。

 この段階で事態は公表されていない。
 市の説明では、県警から捜査に影響があるため、処分が決定するまでは公にしないようにとの要請があったとされる。

 ところが、処分の決定が行われる以前、2012年12月20日にマスコミに情報が漏れる。そして、翌日の21日に各紙が記者会見を受けて紙面に事態を公表することとなる。

 2012年12月28日 河村市長は市長会見で、この問題を大きく取り上げ、弁護士による調査チームを設置して徹底した調査を行うと言明。

 2013年2月 にやっと調査チームが始動する。

 この調査の次第では、市長である自分自身にも処分をしなければならないと名言。


 4月には任期満了を迎えるので、それまでに処分を出すのかと思われた。

 ところが、一向に報告も、処分も出されなかった。

 2013年4月3日 中間報告書公表(市長選挙公示直前)
 http://nagoya.ombudsman.jp/data/130403nagoya.pdf


 ところが、この「中間報告書」に瑕疵が見つかる。
 上記のリンクに、名古屋市オンブズマンがサイトに掲載している同「中間報告書」のPDFファイルがあるが、5ページ目、次のように報告されている。

平成21年9月下旬頃から(略)
そして、これらの委員会審議の状況は、職員が机上のパソコンでイントラネットを通じて視聴できるもので、丙らも実際に上記の審議状況を視聴していた。

 しかし、委員会審議のインターネット(同一構内ではイントラネット)中継は平成23年2月定例会から行われており、当時は行われていない。

 即座に、この指摘が行われ、結果として市長任期中には、市長自身へも含め処分を下すことができなかった。


 2013年5月24日 検察の判断が下り、3名ともに「不起訴(起訴猶予)」となる。
 検察が「不起訴」とした理由は公表されていない。


 2013年6月18日 市としての3名への正式な処分が下される。
 当時の部長 免職
 当時の課長 免職
 当時の係長 定職6月

 市長 減給10分の5、3月
 (その他略)

 http://nagoya.ombudsman.jp/data/130618.pdf


その他、気がつくこと。
1.様々なイベントのタイミングが政局絡み臭い

 中間報告の発表タイミングが市長選挙の直前までずれ込んだ。または、市長選挙に合わせるように、無理やり半煮えの中間報告でも発表しようとした。

 河村市長が市長選挙候補として行った街頭演説でも、この問題は大きくクローズアップされ、結果として既存議員、既存議会への批判、不信感を拡大させることにつながった。

 「既存議員や既存議会が、「税金で極楽」をやっている市の職員、お役人と結託して、自分たちだけ甘い汁を吸おうとしている。河村市長はこういった既得権益を破壊する人だ」というステレオタイプで、判りやすい。しかし根拠の曖昧な話が、まことしやかに語られた。

 また、今回の処分は6月18日に下された。
 この処分には注意深く見ると根拠がない。
 上記のように「中間報告書」には瑕疵が有り、全体的な真実性に乏しい。
 中間報告書の修正版を待つか、最終報告書を待って処分を下してもよかったのではないか。

 または、弁護士による調査チームなど要らない。上記のように実行者の事実と、それに関する上席者の証言が得られているのだから、内部処分はすでに2、3月の時点で可能であったという意見もある。

 事態を大きく見せようとして、不必要な調査チームを作ってしまったことで、いたずらに処分が遅れてしまったとも言えなくはない。

 ともあれ処分が下された6月18日という日付には意味がある。

 市長への減給処分は議会の議決を要する。
 つまり、参議院選挙までに処分を確定させるためにはこの日付までに処分を下す必要があった。

 つまり、中間報告も市長選挙絡み。最終処分も参議院選挙がらみの政局を横目に見た対応と思われる。

 これで、また、参議院選挙でこの話が蒸し返されて、ステレオタイプの議会批判、陰謀論的議員批判が展開されるのだろう。


2.処分を受けた市の職員は一銭の利益も得ていない

 処分を受けた「当時の部長」「当時の課長」はそれぞれ処分時に「局長級」「部長級」の地位に居た。ところが「免職」を受けたわけで、退職金も出ない。とすると、遺失利益はどれほどのものになるか想像もできない。
 それに引き換え、この嘱託職員について、期間ギリギリの2年勤めたとして
 27万円×24ヶ月=648万円

 まったく、引き合わない。この金額にしても別に寝ていてもらえるわけではなく、不正採用とはいってもちゃんと働いていたわけだ。


3.渡辺市議について

 検察は渡辺市議について最初から不起訴の方針だったようだ。
 つまり、職務権限であるとか、口利きによる権限、命令系統の立証が困難と判断したんだろう。

 結果として、「当時の係長」が答案を改竄した事は事実としてあるだろう。
 これについては改竄した答案があるのだから、唯一の物証と言って良い。

 つまり、証言や事情を勘案しても、この物証で「虚偽有印公文書作成罪」「同 行使」は立証できるだろう。(それでも「公務員職権濫用罪」は微妙だろうと思われる)

 けれども検察はこの「当時の係長」も不起訴にした。
 利益を得ていない事と、すでに受けている社会的制裁の大きさを勘案したのかもしれない。

 すると、それ以上に、その係長に指示をしたとしている課長、部長については、唯一要件を構成できるものは関係者間の証言だけで、公判の維持ができないと判断したのもうなずける。


 と、遡って行くと、その先に居る渡辺市議については、果たしていったいどのようなやり取りがあったのか、そのやり取りは渡辺市議のどのような権限(力)で行われたものか。

 法的な追求が困難と判断した理由も察しがつく。

 ここで判り易い思い込みや、安っぽいドラマのような陰謀論に加担する事はそろそろ卒業するべきだと指摘したい。犯罪であると言うのであれば、それは告発するほうに立証の義務があることは文明国では当然のコモンセンスである。

 あやふやな根拠で、刑事責任を言い立てる事は文明自体をくずかごに投げ捨てる行為に等しい。

 もしも、実行者である係長の過剰な「慮り」が影響してこの事態を招いたとすれば、事は渡辺市議の手の届かないところで転がっていたのであり、それをもって渡辺市議を告発するのは酷というものだろう。

 というよりも、数々の冤罪こそ、こういった構図が生み出していることを思い出すべきだ。

4.この3人への処分は

 当時の部長 免職
 当時の課長 免職
 当時の係長 定職6月

 と、実行者よりも上席者の方が重くなっている。
 また、そもそもこの課長、部長の「違法事実」を裏付ける証拠というものは、関係者間の証言でしかない。

 上でも指摘したがこういった供述だけで構成された「違法事実」がどれほど冤罪の温床になっていることか。

 この重い処分が、事態をより大きく見せようという思惑からの物であったとしたら。

 なぜ、大きく見せる必要があるか?

 既存の議会や、「税金で極楽」な市の職員に既得権が有るのだという、判り易い物語を市民に語るためなのではないか?


 今、河村市長は議会に百条委員会の開設を要請している。
 その意を受けた減税日本ゴヤでも、議会内に百条委員会を設置できないか模索しているようだ。

 この要請や模索は無駄な努力に終わる。

 理由は簡単だ、
 「すでに処分が下っている事柄」を暴き立てても意味がないからだ。

 逆に、まだ何か暴き足りない事柄があるのであれば、なぜ処分を急いだ。

 その矛盾に嵌まり込んでしまうので無駄だ。

 また、そもそも。

 その百条委員会設置は「社会正義」に適う物か?

 ここで市当局、議会、既存議員の違法行為が有るかのように騒ぎ立てることだけが目的となっていないか?

 それは私利私欲、政局的思惑でしかない。

 そのような歪んだ調査が市民の為の結論を導き出せる謂れはない。

 そもそもその経費であっても市民の浄財ではないか。

 市民の浄財を私的な思惑から消尽させようというのが「処分を下した後に、まだ百条委員会を設置させようとする河村市長の姿」ではないか。

 本気で百条委員会を設置すれば、検察以上の調査ができると思っているのであれば、それはおめでたいを通り越して、少々気がかりになるほど現実認識に一定の問題を抱えていると思わざるを得ない。*4

 もっと、ありていに言えば「お花畑で踊っている方がお似合いだ」


*1:後に、2人だったという情報もある (次、脚注に続く)

*2:(前、脚注からの続き) その情報によると、二人のうちの一人は試験成績が合格圏に達していた為に答案の改竄をしなかったとされる。

*3:市長ホットライン

*4:河村市長自身、百条委員会を設置して何かが出てくるなどとは期待していないだろう。