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橋下大阪市長の従軍慰安婦を巡る発言について

 日本維新の会の共同代表でもある橋下大阪市長従軍慰安婦を巡る発言について、前回のエントリーで述べた事や、私がツイッター上で指摘したことなどをまとめておきます。

 まず、前回のエントリーのコメントで「(橋下氏は)ツミではないか」という質問をいただきました。私はそもそも橋下氏を「政治家」とは認めていません。名古屋における河村市長と同様、ケーシー高峰氏が「お医者風芸人」であるように、橋下氏も「政治家風芸人」であると思っています。

 また、一時は自民党政権も維新の会との連携などを模索して、橋下氏が国政に出てくれば閣僚に起用という話も無かったわけでは無いのでしょうが、これも河村市長の「南京問題発言」同様、外交上問題となる発言を不用意にするような者を好きこのんで入閣させることは無いでしょうから、その目も消えたでしょうね。
 
 しかし、こうやって2、3日たってみると判りますが、<やはり>橋下氏の発言に対する議論が様々に散逸し、結局、橋下氏の発言が「正しかった」のか「間違っていた」のか、容易に判断が付かなくなっています。
 (ここで、「容易に判断が付かない」というのは、今回の議論の全てを把握することが困難になったために、全体の判断が困難になっているということです)
 橋下氏を批判する人々(私もここに含まれます)は、橋下氏の発言の中から、批判すべき事柄を抜き出して批判をするのでしょうし、橋下氏を擁護する人々は、この一連の発言の中で一般的に肯ける部分を選んで橋下氏の発言を擁護しているようです。

 つまり、議論はここですれ違い、空回りすることになります。

 私は橋下氏の発言の中で、擁護派がフレームアップするような、一般的に肯ける発言については興味もありません。それはいっぱしの大人が、それもこのようにメディアが注目するオピニオンリーダーともいうべき人物が、少しばかり肯ける発言をしたからといって、それを賞賛する必要も無いだろうからです。

 逆に、私など批判派がフレームアップする橋下氏の発言について、肯定派が、まるで見えない、聞こえないかのように無反応なことには奇異を感じます。

 オピニオンリーダーの発言に批判されるような「部分」が「存在」したのであれば、それは注目に値しますし、その存在理由についても考慮する必要があるでしょう。

 そして、その「部分」の「存在」が、そのオピニオンリーダーの存在に深く根差している発言であり、その人の思想から必然的に出てきたような発言であれば、その人の思想自体を再検討する必要があるでしょうし、その人のオピニオンリーダーとしての存在意義にも疑問が突き付けられて当然であると思います。

 つまり、「無謬性の否定」が成立している。

 しかし、「信者」という存在はこういった論理性から離れているために「信者」なのであって、いつまで経っても橋下信者は橋下氏から離れる事はないのでしょう。

 けれども、論理的にオピニオンやその根底にある思想について考証し、批判すべき事柄に対しては批判し、それを残しておく作業というのは常に意味があると思っています。
 そういった批判する精神だけが文明を守るものであると思っています。

 橋下氏の発言の中で、特にツイッター上で行われた発言に注目しました。
 (理由1:本人がした直接的な発言であること。理由2:参照が容易なこと)

 そうした中で先のエントリーで次の2点について批判しました。

1.事実と遊離した発言をしている。(はっきり言って「嘘」を言っている)

戦場での性をどのようにコントロールするかは軍をマネジメントする最大の課題だ。

橋下徹 on Twitter: "戦争になれば、世界各国の軍は、兵士の性の問題に頭を悩ます。この戦場での性をどのようにコントロールするかは軍をマネジメントする最大の課題だ。これは厳然たる事実。米軍だけは、自由恋愛の「建前」を貫いている。しかしそれは建前であることは皆知っている。"

加えて僕が米軍に進言したのは、きちんと米兵の性的エネルギーをコントロールして欲しいと言うこと。これは時代を超えて、軍のオペレーションの最大の課題。

橋下徹 on Twitter: "加えて僕が米軍に進言したのは、きちんと米兵の性的エネルギーをコントロールして欲しいと言うこと。これは時代を超えて、軍のオペレーションの最大の課題。そして法律上認められている風俗業の活用を持ち出したが、批判する人は風俗業を知らないだろうな。"

 兵士の性処理が軍をマネジメントする上で「最大の課題」となったことなどないし、軍のオペレーション(兵站)の課題で最大となったことも無い。
 まったく無いわけではない。一定の「息抜き」が必要な事は常識の範囲だろう。映画「地獄の黙示録」などでも描かれたように、ベトナム戦争における慰安もあっただろう。

 こういった事例もあったようだ。
 特殊慰安施設協会 - Wikipedia
 名古屋における事例も描かれている。

 しかし何度でも言うが「最大の課題」ではない。

2.勝者の理論の押し付けを肯定してしまっている。

敗戦の結果として、侵略だったことを受け止めなければならない。戦争で負けるとはそう言うもの。これは中国、韓国との間の問題だけではなく、戦勝国全体との間の問題。もし日本の侵略を否定するなら、再度世界戦争を起こして日本が勝つしかない。馬鹿げている。

橋下徹 on Twitter: "敗戦の結果として、侵略だったことを受け止めなければならない。戦争で負けるとはそう言うもの。これは中国、韓国との間の問題だけではなく、戦勝国全体との間の問題。もし日本の侵略を否定するなら、再度世界戦争を起こして日本が勝つしかない。馬鹿げている。"

 中島岳志氏は次のように指摘しています。

「勝ちさえすれば自分たちの論理を押し付けられる」という構造こそが、パール判事が問題視した点である。この東京裁判の構造を橋下氏は追認している。「負けたから侵略だった」という論理は、「勝てば侵略じゃなかった」という認識とコインの裏表の関係だ。

中島岳志 on Twitter: "「勝ちさえすれば自分たちの論理を押し付けられる」という構造こそが、パール判事が問題視した点である。この東京裁判の構造を橋下氏は追認している。「負けたから侵略だった」という論理は、「勝てば侵略じゃなかった」という認識とコインの裏表の関係だ。"

 もう、これは議論としてどちらがどうという問題では無いように思える。
 どちらの主張が思想的に強度を持ち、どちらの発言を人間として重く受け止められるか。

 橋下氏に見られる「勝者の理論の押し付けを肯定する態度」は彼の大阪府大阪市における行政手法とも関連している。また、こういった幼稚な「多数派独裁主義」の過ちは、この名古屋における河村市長の手法とも連動する。

 選挙で多数を握れば、 それが民意なのだから実現すれば良いというものではない。
 多数決というのは民主的な推論でしかない。結論をそこから演繹してはいけない。

 より切実な少数者のニーズ(必要)を踏みにじって、多数者のウォンツ(欲求)を実現させようとすれば、踏みにじられた少数者の反発は社会に亀裂をもたらす。
 これが政治の「いろは」である筈で、こんなことも弁えられない者が為政者となってはならない。

 さて、前回のエントリーで取りこぼしたことなど。

3.橋下氏の論者としての陥穽。
 橋下氏は論争術などの本も書いており、自身も議論に強いと自負しているようだが、実はそんなに議論が上手ではない。強くもない。(敢えて言えば、議論の論点をずらして論争を収束させる、または逃げるのが上手なだけだ)

 野村修也弁護士といえば、いわゆる「国会事故調」で福島原子力発電所事故の問題を舌鋒鋭く追及した稀代の論客だろうとは思う。また、大阪市における職員の「思想調査」に加担したとして批判され、データDVDを金槌で叩き割った姿などが報道されもした。

 そんな野村弁護士が次のようなツイートを行い、それを橋下氏がわざわざリツイート(中継)していた。

橋下市長の言いたかったのは、次のことではないか。第二次世界大戦当時、軍に慰安婦が必要だという許されない考えを持っていたのは日本だけではなく、世界中で見られた現象。にもかかわらず、日本だけが批判されるのはなぜか。理由をしっかり分析し、謝罪した上で、誤解に基づく批判には反論すべきだ。

野村修也 on Twitter: "橋下市長の言いたかったのは、次のことではないか。第二次世界大戦当時、軍に慰安婦が必要だという許されない考えを持っていたのは日本だけではなく、世界中で見られた現象。にもかかわらず、日本だけが批判されるのはなぜか。理由をしっかり分析し、謝罪した上で、誤解に基づく批判には反論すべきだ。"

 もう一度確認しますが、この野村氏の発言を橋下氏はリツイートしているのです。
 では、この野村氏の問題意識を橋下氏は共有しているのだろうか?

 橋下氏は次のようにツイートします。

慰安婦の活用を真摯に反省して、慰安婦の方にも配慮し、二度と繰り返さないよう決意するのは当然としても、

強制連行の有無は、日本だけ特殊な性的奴隷を使っていたのかどうかにかかわる重要な要素。ここを日本は明確にしてない。だから世界からも特別に非難をされている。

橋下徹 on Twitter: "慰安婦の活用を真摯に反省して、慰安婦の方にも配慮し、二度と繰り返さないよう決意するのは当然としても、強制連行の有無は、日本だけ特殊な性的奴隷を使っていたのかどうかにかかわる重要な要素。ここを日本は明確にしてない。だから世界からも特別に非難をされている。"

 敢えて二段に分けました。
 前段はエクスキューズですが、橋下氏自身も自身の論拠の危うさ、反論の風力にたじろいでいる様子が伺えます。

 問題は後段。

 「日本だけ特別に批判される」(そもそも「だけ」であるのか?という疑問もあるが)という理由が、「性的奴隷を使っていた」=「強制連行」があったとされるから。
 だと橋下氏は推定する。そして「 ここを日本は明確にしてない。だから世界からも特別に非難をされている」と断定する。

慰安婦の活用は恥ずべきことだし、二度と繰り返してはならないことは分かっている。

しかしそれはあなたの国でも同じことをやっていた。あなたの国では現地女性を活用していた。皆、恥ずべきことをやっていた。日本だけ特殊な性奴隷を活用していたわけではない」と激論してでも主張しなければならない

橋下徹 on Twitter: "「慰安婦の活用は恥ずべきことだし、二度と繰り返してはならないことは分かっている。しかしそれはあなたの国でも同じことをやっていた。あなたの国では現地女性を活用していた。皆、恥ずべきことをやっていた。日本だけ特殊な性奴隷を活用していたわけではない」と激論してでも主張しなければならない"

 というような発言もしている。

(追記:投稿後の見直しで気が付きましたが、この橋下氏のツイートでは、日本が特殊な性奴隷を活用していた(つまり、強制連行が有った)ことを認めてしまっていますね。「日本だけ〜ではない」と言っているだけですからね。)

 ところで、「強制連行の事実はなかった」と主張できるのだろうか?
 強制連行=性的奴隷の有無(というか不存在)を明確にできるのだろうか?

 橋下氏は政府見解を援用して「強制連行を裏付ける資料は特定できなかった」としている。裏付ける資料が特定できなければ「なかった」と言えるのか?

 もとより、終戦間際から東京裁判の時期にかけて、国内法はもとより、国際法的にも問題がありそうな資料は大量に処分された。(大部分は焼かれた)
 そのため明確に政府の関与によって従軍慰安婦を強制連行したような証拠も残っていないようだが、同時に「不存在」を証明するような資料も残ってはいない。

 ( モンパルナスの怪人(初沢克利) on Twitter: "読めますか?日本軍慰安婦は国策でした。
私が吉川春子参議院議員の秘書だったときにこの目で見た資料です。「警保局」「海外渡航婦女子ノ取扱」などの文字。戦前の内務省警保局が日本人慰安婦たちの渡航のための通達を出していました。塩川民子。 http://t.co/vxrSTdTr9x"
 従軍慰安婦が国策であったと思われる資料の一部/もちろん、ここから強制連行を敷衍する事は無理がある)

 そもそも橋下氏の言うように「強制連行の有無」を議論の対象とし、「なかった」として論陣を張るとすれば、いくら「激論してでも主張し」たところで賛同は得られまい。
 そもそも根拠が無い


 結果として、この問題は存在も不在も証明などできないし、議論にも馴染まない。
 そのために、政府は政府ではない第三者基金)を設置して、補償に努めているのではないでしょうかね?これが現実的な「落とし所」といったものの筈です。
 慰安婦問題アジア女性基金デジタル記念館

 このフレームに対して不用意に棹差して議論を蒸し返す行為自体が、つまり、今回の橋下氏自身の発言のような不見識が、いつまで経ってもこの問題に対する日本への批判が収まらない理由なんじゃないですかね。(「犯人は自分自身だった!」というショートショートのようなストーリーですね)

 従軍慰安婦も、
 南京大虐殺も、

 その不在の証明は困難を極める上に、多分薮蛇になるだけです。

 非常に興味深いのが、河村名古屋市長は「もしも本当に、南京で大虐殺なんてものがあったのなら、土下座せなならんですよ」というような発言を繰り返していた。
 今回、橋下大阪市長も「従軍慰安婦を強制連行したなんて事実があったのなら、一億二千万人総懺悔してでも謝らなくてはならない」というような発言をしていることだ。

 パフォーマンスを優先して、そのくせ発言を裏付ける思想や根拠が薄弱な者ほど、発言が大げさになる傾向があるのでしょう。

 その他、ツイッター上で気になったコンテンツなど。

日本維新の会石原慎太郎共同代表は14日午後、橋下徹共同代表(大阪市長)が旧日本軍の従軍慰安婦制度は必要だったと発言したことについて「軍と売春はつきもので、歴史の原理みたいなものだ。それを踏まえて発言したと思う。彼はそんなに間違ったことは言っていない」と述べ、問題はないとの認識を示した。

BLOGOS on Twitter: "【橋下氏の慰安婦容認】石原慎太郎氏「軍と売春はつきもの」と擁護 - MSN産経ニュース http://t.co/GW9OepubmV"

 まさに愚者に誉めらるるは恥なり。

 その石原などのニセモノではなく、本当の三島由紀夫の親友でもあった美輪明宏さんの歌。
 「祖国と女達(従軍慰安婦の唄)」
 http://www.youtube.com/watch?v=a9QVn8ZmA4w&feature=youtu.be

 同、歌詞
 sokoku

 従軍慰安婦の模様を赤裸々に描いたとされる水木しげる氏の「総員玉砕せよ!」の一シーン(存在がばれると「一部の一生懸命熱心な人たち」がコンテンツを消していくようで、このリンクもいつまで有効かは不明)
 http://web.archive.org/liveweb/http://blog-imgs-16-origin.fc2.com/d/j/1/dj19/IMG_0008.jpg
 本編ではもっと衝撃的な描写もあります。まだ未見の方は是非一度読まれるべきです。

総員玉砕せよ! (講談社文庫)

総員玉砕せよ! (講談社文庫)



追記:ニューヨークタイムズが論説を載せています。
最後のセンテンス

It’s hard to believe that anyone who espouses such outrageous views as Mr. Hashimoto has much of a political future in Japan or anywhere else.

Toru Hashimoto Defended Use of Japanese 'Comfort Women' - The New York Times

ある人は次のように訳しました。
「橋下のように非道な見解を持つ人間が、日本のみならずどんな国でも政治家としての将来があるとは、到底信じられない」
注意深く訳すとしたら。
「橋下氏のような とんでもない見解 を持つ人間に、 政治的将来があるとは、日本のみならずどこであれ 信じることはできない」 
といったところでしょうか。


追記(令和2年4月5日):
wam-peace.org