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市民税10%減税の実現を求める請願、徹底検証

請願番号:平成23年 第50号
受理年月日:平成23年10月7日
付議年月日:平成23年10月12日
付議委員会:財政福祉
件名:市民税10%減税の実現を求める件
請願者住所:名古屋市名東区高針(以下略)
請願者氏名:河村サポーターズ 代表世話人 船橋 旭(署名者数88名)
紹介議員:減税日本ゴヤ所属議員26名

(中村議長,富口財政福祉委員会副委員長は規定により署名ができない)
要旨、並びに事実の指摘、並びに批判:
(要旨について、後の議論のために必要なセンテンスで番号を振った。また、適宜改行を入れた。
 要旨本文については、センテンスの前に○でセンテンスの通し番号を示し、「」内にセンテンスの本文を置く。なお、要旨の原文中にはこれらの括弧は使われていない。
 事実の指摘については、「」外に平文として記述する。
 批判文(主観の相違による主張)については、センテンスの頭に ※ をつける。
 なお、これらの事実指摘、批判文については、様々な場所で指摘された文言が含まれる場合もあるが、全て当ブログの記述者である私の文責において記載される)

(1)「河村市長は、一昨年4月の市長選で51万人余の市民から支持されて当選し、今年2月の再度民意を問う形で行われた市長選でも66万人余の市民から支持されて当選した。」


(2)「河村市長は、この間一貫して市民税10%減税を主張し、」

 2009年4月の『河村たかしの名古屋政策』(以下:2009年マニフェストと表記)において、『(1)市民税10%を減税』の項目に、『減税の姿として、定率減税(金持ちはゼロ)、定額減税、子育て減税、勤労者減税、社会保障減税、それらのミックスなどもあり。』と記述している。「一貫して」という主張は事実と異なる。

(3)「市民は圧倒的な支持で河村市長を当選させたのである。」

 名古屋市有権者数は175万人であり。51万の得票は29.1%、66万の得票は37.7%である。

(4)「議会は、この2度にわたる名古屋市民の河村市長への信任を真摯に受けとめ、市民税10%減税を実現するべきである。」

 ※今次9月定例会において、減税条例は否決されていない。議論の中では減税の実現を求める議員の意見もあった。ただ、その実現について、予算措置が明確に示されなかった事により継続審議となったまでである。

(5)「市民税10%減税の意味は、まず税金、すなわち収入を減らすことによって、無駄を省き、行政改革を実行するということである。」

 ここで言う『行政改革』はどのようなものか、定義はおくにしても、市の支出を、減税によって減った収入に対応させるということは明白である事から、これ以降の議論においては、減税によって歳入が減った分は、歳出の削減をするものと解する事とする。
 つまり、減税で減った歳入を、市債の発行等で補い、歳出は変化させないということはしないことと解釈する。(以下:(5)のドグマと表記)
 ※『無駄』の定義はどのようなもので、誰が判断するのか?

(6)「財源をつくってからという発想では行政改革は進まない。過去において、国も地方もすべて掛け声だけに終わっている。」

 これまでの行政評価の取組み:名古屋市公式HPにおいて、平成14年度からの事業評価、予算縮減額が示されている。平成20年までは少なくとも毎年10億円以上の予算削減努力が見られる。

(7)「まず減税によって収入を減らし、すべての予算を見直して行政改革を進めることが基本的な考え方である。」

 2009年マニフェストには『市長のもとに「減税検討プロジェクトチーム(仮称)」を設置して具体的な検討を行い、成案を得る』とある。
 市民税10%減税検討プロジェクトチーム会議〈開催結果〉:名古屋市公式HPを見ると、市長の参加が無い。

(8)「減税の効果を問う議員がいるが、減税そのものがまず一番の経済的効果である。」

 マクロ経済学において『経済効果』と言えるのは『財の移動が発生したとき』である。平易な表現で言えば『お金が動いたとき』である。減税が為されるだけであれば、納税者が市に支払うべき税額が6%から5.4%に減っただけであり、お金の動き自体は減る。つまり『経済効果』はマイナスに働く。納税者側に残った0.6%分の減税額が全て消費(寄附も消費と解される)に供されれば『経済効果』はプラスマイナス0である。
 一般的にこのような政策においては、一定程度(20%〜80%)資金が預貯金に回される傾向があり、預貯金に回された比率だけ『経済効果』はマイナスとなる。

(9)「この他、減税には次のような効果がある。まず、税金を安くすれば地域の企業が活性化する。」

 上記に見たように減税は『経済効果』にとってマイナスに繋がる。
 減税額が利用される消費対象にとってはプラスであろうが、(5)のドグマによって歳出は削減されるので、この歳出を売上げとしていた企業にとっては減税は売上げ減に繋がる。

(10)「また、減税は市内への企業や市民の誘致にもつながる。」

 9月定例会において指摘されたように、『超過課税』を全国で唯一導入していない静岡県において、特に企業誘致や人口増加が見られたという報告は無い。
 参照:『課税自主権について 平成20年4月23日』:内閣府 

(11)「さらに、寄附の制度が整備されれば、市民の寄附という形で減税分を地域社会の様々な企画のために使うことができる。減税分を自分の意思で公共のために使うことができ、市民参加型の市政へ市民を動機付けることができる。」

 拡充、修正は今後も必要であろうが、すでに寄附の制度はできている。参照:『個人住民税の寄附金税制』:政府広報オンライン
 名古屋市においても不十分であるが紹介されている。参照:『税額控除等』:名古屋市公式HP
 愛知県の公式ページには丁寧な説明もついている。参照:『個人住民税の寄附金税制の拡充について(条例により指定した寄附金)2011年5月27日』:愛知県公式HP
 ※寄附制度の整備と、市民参加型の自治行政を指向しているのは、名古屋市よりも愛知県の方であるという事だろうか。

(12)「今や世界は、環境問題や資源の枯渇問題等により、これ以上資源を浪費する時代ではなく、デフレ社会の中で経済成長も限界に来ている。恐らく名古屋市の収入が今後ふえることは期待できない。」

 「名古屋市の収入が今後ふえることは期待できない」という主張は上記(9)及び(10)と矛盾しないだろうか。

(13)「様々な意味で経費を削減し、持続可能な定常型福祉社会を目指す時代だからこそ減税が必要である。」

 神野直彦東京大学名誉教授:財政学、並びに廣井良典千葉大学教授:公共政策などの提唱する、『持続可能な定常型福祉社会』においては、社会保障の拡充と負担の公平性を再評価しているのであって、この主張と減税とは方向性がまったく逆である。
 ※ 減税を是とし、且つ『持続可能な定常型福祉社会』を指向する立論をされている論者を具体的に挙げていただきたい。そうでないと、この請願の要旨は単なる空論に終わってしまう。

(14)「そのためにも市民税減税を実現し、官から民へ、つまり地域委員会やNPOという形で市民自らが参加して公共を担う市民社会をつくることに意味がある。」

 地域委員会を担うのは地域予算であって市の歳出から賄われる。市民税減税が地域予算の拡充と相反する事は(5)のドグマで明白であり、この主張とは矛盾する。

(15)「以上の観点から、市民税10%減税の実現は、名古屋市民が河村市長を2度にわたって支持したことからも名古屋市民の民意である。」


 文意が不明確である。
 名古屋市民の民意は、市民税10%減税の実現であり、
 それは名古屋市民が河村市長を2度にわたって支持したことから導くことができる。
という意味であるならば、文章としては成立する。この際「以上の観点から」という言葉がどこにかかるのかが不明である。
 「以上の観点のような(メリットのある)市民税10%減税の実現は」という文意であれば文章としては理解できる。つまり、ここまでの論述が「市民税10%減税の実現」を肯定するための立論であると仮定した場合である。

 ただ、(2)でも述べたように、2009年マニフェストにおける減税政策の定義が異なっており。2009年時の支持者には「金持ちはゼロの定率減税」を求めた市民が含まれる可能性を阻却できないし、2011年に実施された名古屋市長選挙においては、所謂三大公約を掲げて支持を得たのであり、市民税減税だけが支持されたとする根拠は無い。

(16)「ついては、次の事項の実現をお願いする。
1. 市民税10%減税を早急に実現すること。 」




 整理してみると、
A)事実誤認を含むセンテンス
 (2)、(6)、(7)、(8)、(9)、(10)、(11)、(13)
以上8箇所

B)主張間の矛盾
 (9)、(10)の主張と(12)の主張
 (5)の主張と(14)の主張
以上5箇所2点

C)疑問のある主張
 (3)、(4)、(15)
以上3箇所となる。

 これらの齟齬を含む請願については、紹介議員が調整すべきものであると考えるが、名古屋市会の品位を守る意味からも、一旦取り下げ、再考の後に再提案をされた方が良いのではないかと考える。
 または、アクリル容器にでも詰めて、後世の市民が末永く語り継げるように市会図書館の玄関脇にでも掲示して置いていただきたいものである。勿論、請願者89名の氏名を明示して。