市民のための名古屋市会を! Ver.3.0

一人の名古屋市民が「地域委員会制度」「減税日本」に対する疑問をまとめるサイトです。(since 2011/3/3)

名古屋城 木造へ一歩・・・ただし、あと何歩?

 このところ、当ブログでは新聞記事の引用を控えている。著作権に配慮すると引用とはいえそのまま記事を引く行為はよろしくないと判断しているからだ。

 しかし、今日の中日新聞の一面は引用させて頂く。

 それもカラーで、更に「中日新聞」のタイトルも含めて!

 歴史に残る「誤報」をこのように残し、恥を味わっていただきたい。

 以前、中日新聞河村たかしの減税政策に提灯をつけて「減税5%効果/市が試算」として、(名古屋市の財政局は、単純に加算するのは誤りだと説明したにも関わらず)「市内総生産年1128億円増」と記事を打った。

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 この大誤報の影響で、「減税ない方が経済効果増」(2017年11月16日、中日新聞紙面の表現)という再試算が行われても、名古屋市は河村流減税政策を続けている。

ichi-nagoyajin.hatenablog.com

 こんなトチ狂った政策*1を続けているのは全国広しといえども名古屋だけで、なぜ名古屋だけ、まともな経済理論が成立しないのか。それはこの地域で圧倒的シェアを持っている中日新聞が、2014年11月12日に掲載した大誤報を訂正しないからだ。

 そして本日のこれだ。

2023年3月25日 中日新聞一面

 「名古屋城 木造へ一歩」ご立派。中日新聞は今に至るも名古屋城木造化などという世迷い言を、あたかも真実であるかのように一面トップで名古屋市民に示してみせたのだ。

 提灯もあまり大きな蝋燭で照らすと燃えてしまう。

 これもそうなんだろう。

 いくつも問題が有る、そうした問題に触れないまま、名古屋城木造化ができるかのような記事は誤報と言わずして何と言えば良いんだろう。

 そもそも名古屋城木造化など、名古屋市民は希望していない。そのような民意は示されていない。更に言うと、それにともなって現在の天守建物の取り壊しについても、名古屋市は市民意見すら取ろうとしない。

ichi-nagoyajin.hatenablog.com

 こちらでも述べたように、平成28年に行われた「2万人アンケート」の結果は、「6割の市民が木造化に賛成した」などというものではなく「79%の市民は、木造化に反対、またはどうでもいいと思っている」と解釈すべきである。

 名古屋城天守木造化を盛り込んだ現在の保存活用計画に対するパブリックコメントには、木造化反対の意見が多数寄せられた(木造化に肯定的意見9件に対して、否定的な意見は140件だった)にも関わらず、その事実を名古屋市は隠蔽している。

ombuds.exblog.jp

 名古屋市北朝鮮か? ロシアか?

 これが民主主義を標榜する自治体の行為か?

 そしてこうした事実を中日新聞は一切報道しない。

 更に言うと、なぜ選挙の前になると、あたかも名古屋城木造化事業が進んでいるかのような誤報が流されるのだろう。先の市長選挙の直前、ちょうど今のような年度末。河村市長が文化庁を訪れて、基本計画を提出したというような報道が流された。しかし結局それは誤報だった。市長選挙が終わって、ほとぼりが冷めた頃に、基本計画は文化庁に受理などされていないことが判明した。

 どうせこの基本計画とやらも文化庁に突き返される。呆れた市民がその民意を示そうと思っても、選挙はもう終わっている。

 「人を欺く行為をして相手方を錯誤に陥らせ、相手方(もしくは第三者)に財産的処分をさせること」を刑法上「詐欺」と呼ぶらしいが、選挙の前に誤報を市民、有権者に知らせ、それをもって投票させ、議席が確定してからこっそり、誤報がなかったかのように継続報道をする行為はなんと呼ぶべきだろうか。

 中日新聞は「そう名古屋市が発表したことは事実だ」というのかもしれない。しかし、名古屋市の発表を鵜呑みにして市民に知らせるのであれば、単に名古屋市の広報紙、拡声器でしかない。1mmでも脳みそが有るのであれば、明らかな問題点ぐらい市民に知らせるべきではないのか。完全に河村市長は名古屋城天守木造化を選挙に利用している。

 「木造へ一歩」・・・果たしてあと何歩進めば、木造化ができるのだろうか。その一つのハードルが「収支計画」だ。2月17日に開かれた全体整備検討会議天守閣部会の第27回会合で、座長から「安全確保するなら、(天守建物の入場者は)1時間2500人でも多いかもしれない」と疑問が述べられ、年間360万人の前提が揺らいでいる。そもそも年間360万人の来場者が50年間続くなどとする試算自体が正気を疑わせるもので、それですら現在の建て替え505億円を賄うだけにすぎない。すでに想定外の「ステップ名古屋」の開設や、計画が遅延しているにも関わらず買ってしまった木材の保管料など追加費用が発生している。(この木材を買って、あたかも計画が進んでいるかのように見せかけたのも選挙の前だった)

 当然、木造ともなれば維持管理費は莫大なものになり、その負担は長く長く名古屋市民にのしかかってくる。金利を含めるとおよそ1000億円と名古屋市も認めている通り、すでにその収支計画は破綻している。

 しかし、この記事には1行もそんな事は書かれていない。

 ちょっと話題が逸れるが、地方議会の働きが見えないという意見を聞いた。このブログでもそれは「地方議会の働きが見えないのではなく、有権者が見ていないだけ」と書いた。議会ではこの収支計画の議論が行われているにも関わらず、それを有権者には伝えられていないだけだ。更に条例に定められた議会報告会を名古屋市は開いていないので、議会のこうした動きは市民から隠蔽されている。誰が隠蔽しているのか、河村市長と中日新聞だ。

名古屋市:名古屋市会 議会報告会(市会情報)

 もう一つのハードルが「バリアフリー問題」だろう。これについて記事では「上層階昇降機『引き続き検討』」と別項で述べているが、問題となった石垣レベル(内苑から高さ17m)までの鉄製スロープの問題は単に触れただけとなっている。

図-8.1.45 本丸内苑(地上)から小天守口御門へのスロープ立面図

 これは3月22日に行われた全体整備検討会議天守閣部会(第28回)に配布された基本計画の中の「図-8.1.45 本丸内苑(地上)から小天守口御門へのスロープ立面図」になる。有識者から「現在有る東側外階段が不評なのに、これはそれ以上に景観を損ねるのではないか」などと意見が出たらしい。河村市長は「聞いていない」といい、市の当局者は「説明した」としているらしい。そもそもこの距離、この角度を人力で上がれというのも無理があるのではないのか。車いすなどはこのルートを通って小天守まで登っていくこととなっている。(雨などではどうなるのだろう?)

図-8.1.55から57

 これは同じ資料にある「図-8.1.55」から「57」であり、小天守から大天守地階に至るスロープの状態が示されている。名古屋城天守には小天守から大天守に向かって橋台が設えてあり、ここも登っていかなくてはならない。そしてこのスロープの存在は、次の課題である「防災」にも関連していく。

 この図を見ると、およそ幅3m程度の橋台の通路の半分がスロープに専有されることになる。大天守の出入り口は幅2mに満たない。ここに発災時には2500人程度のヒトが押しかけ、脱出を計るとすると、相当に壮絶な事になりそうだ。

図-8.1.14 地階遮煙区画図

 これは「図-8.1.14 地階遮煙区画図」とされる。
 水色は引用者である私が着色した。名古屋城天守の災害避難路はこの水色の一箇所しか無い。つまり、大天守の出入り口に関しては2方向避難路が確保できていない。(現在はそのための外階段が設置されている)ここは「地階」とはなっているが、天守石垣の上に有り、内苑からは17mの高さが有る。(ChatGPT によると、高さ17mは一般のビルで4階から6階の高さだそうだ)

 この記事を書いた記者は意識していたのか不明だが、この記事には恐ろしい名古屋城天守の将来像が描かれている。これは有る方が私に言った結論とも符合する。その方は「河村に名古屋城なんて触らせたら、とんでもない事になる。名古屋市民は名古屋城を失うかもしれない。しかし、そうなって初めて名古屋市民は気がつくんだろう、自分たちが一体何を支持していたのかという過ちをね」

 記事には次のように書かれている。

天守台内部の石垣は保存状態が悪いとみられるが、現状では詳細な調査が難しく、現天守の解体後に詳しく調べる。木造天守の重みを支える基礎構造の方式も、石垣の調査結果を踏まえて検討する。

 まず、基礎構造の方式も決まらないような建築計画があるということに驚く。
 今まで検討されてきた「跳ね出し架構」が否定されて、事実上手段が無くなったのではとも思うが、この検討の結果、無理と判断されたなら、一体どういうことになるのだろう?

 現在の科学では石垣の構造、耐震性を保証できるような技術はない。ましてや非破壊で解析、推測するとなれば、どの程度の信憑性が有るのか怪しい。

 更に以前、ニュース番組で取り上げられたが、事業者は木造構造の耐震性についてもシミュレーションを繰り返しているそうだが、いわゆる「震度6」程度の耐震性しか保証できていないそうだ。現代の建築、それも阪神大震災以降の建築基準に合わせた耐震性を保証することはできない。ある専門家は耐震性の確認には「どこかで一回組み立てて、揺すってみるしか判らない」と言っていた。

 ここで浅慮な人たちは「元の名古屋城天守は濃尾地震(推定最大震度7)でも倒れなかった、同じ構造なら震度7まで耐えるに違いない」などと反論してくるだろうけど、これは逆の話で、「元の名古屋城天守が倒れなかったとすれば、濃尾地震名古屋城における推定震度は、7以下だったのだろう」ということにすぎない。(震度7の古い定義は、「木造建築物は倒れる」であって、木造建築物が倒れなかったのであれば震度は7以下と推測するのが論理的に正しい)

 また、事業者の計画では、木造の柱や梁に鉄製の金具を入れて強度を得ているようだ。そもそもこうしたところからも「史実に忠実な再現」などできてはいない。

 つまり、現在の天守建物を壊して、石垣をむき出しにして調査した結果、石垣の耐震性が足らない、木造天守が保証するとしている耐震性では不足であるとした場合、その建築物の建築許可は出ない。新しい建築物には現代の建築基準が当てはめられるべきだろう。

 ここで、この計画当初の議論が蒸し返される。名古屋市名古屋城木造化において建築基準法第三条の「適用除外」を受けられるとしているが、4項には「原形を再現する建築物で、特定行政庁が建築審査会の同意を得てその原形の再現がやむを得ないと認めたもの」となっている。文化的価値がどうこう言ったところで、地震や火災が忖度してくれるはずもない。そんな建物にヒトを入れて、倒れたり崩れたりすればヒトは死ぬ。そして今の計画では、上に述べたように2方向避難路すら確保できていない。

 そんな殺人建築物に建築審査会の同意が得られるのだろうか。

 技術者として、ヒトが死ぬような物に許可が出せるのか。

 さてさて、中日新聞の後押しで、「木造へ一歩」踏み出して、現天守を壊したとしましょう、石垣を調査しました、とても耐震性を保証できません。積み直して良いんですか?新しい建築物を乗せるために遺構を強化して良いんですか?(遺構そのものを維持させるための強化はありますけどね)

 正直言って、昭和34年の現天守再建の頃は、確かに乱暴だった。天守石垣も相当にいじられたようだ。しかし現代の基準、コンプライアンス的にはそれは成立しない。昭和34年に「えいや!」で再建しちゃった名古屋城天守、当時だからできたことであって、こうやって石垣の構造、耐震性等を考慮すると、もう建物を作り直すとか、その中に人を入れるとか、そんな事は考えられない。

 更に、木造天守に建て替えても人が入れられないということに成れば、来場者計画にも狂いが出るだろう(木造でも、鉄筋でも外観は今と変わらないんだから)なら、そんな多額な計画にお金は出せないとなる公算も高い。

 とすると、10年後、20年後の名古屋市民は「まあ、天守は無くてもいいか、どうせそんなに訪れる場所でもないし、ここしばらく無いままで居たから慣れちゃった」とばかりに、木造再建計画はご破産となることも考えられる。

 そうなると、跡に残ったのはこの姿である。

 これは、戦後、モージャー氏が、GHQ文民スタッフ(civilian secretarial staff)として1946年4月から1947年1月に日本に滞在した際、撮影した写真の一部である。

rnavi.ndl.go.jp

 既に述べた某有識者の言葉通り、名古屋市民はお城を失う結果を迎える。

 たぶん、日弁連が人権侵害と指摘するような木造化計画に、文化庁は承認を与えないだろう、それどころか上に述べたような危険性の有る建物に建築審査会が同意するとは思えない。建築審査会の同意が得られなければ建築基準法第3条の適用除外も受けられない。また、現在公開されているこの基本計画の資料には「避難路」「避難計画」についての記載がない。名古屋城天守は避難路、避難計画の策定が必須の建物であり、それらが成立しないのであれば建築は承認されない。そして今に至るも「避難路」「避難計画」が示されていない基本計画など現代の公共建築物としての認否の条件が揃っていない。この報道には「天守整備案を了承」とあるが、その了承した有識者会議は我々の知らない情報(「避難路」「避難計画」)を持っているのか、人命にかかわる重要な見落としをしている。

 つまり、天守木造化など実現できず、その結果として名古屋市民は名古屋城を失うことは避けられる、そしてこの2023年3月25日に中日新聞の一面を飾った報道は事実と異なる報道となる。

 有識者会議のうち石垣部会に所属されている千田嘉博奈良大学教授は次のようにツイッターに投稿されている。

 今一度、現天守の耐震改修と木造化の双方のメリット、デメリットを公平に市民、有権者に示し、現在進められている名古屋城木造化事業が正当なものであるのか、本当の民意を問う必要がある。この事業はあまりに嘘が多く、矛盾が多い。事実を見つめ、それを市民、有権者に示し、事業を正常に戻す必要がある。


追記:名古屋城木造化に対して、「バリアフリーを実現しなければ木造化できない、身障者のせいで国宝になる建物を再建できないのか」などとする批判を見た。
 「史実に忠実な再建」と「現代の法に準ずるバリアフリー」の追求のために、名古屋市はステップ名古屋などを開設し、国際的な技術コンペを行ったが、この両者は両立しないと結論が得られた。
ichi-nagoyajin.hatenablog.com
 どちらかを選ばなければならないなら「史実に忠実な再建」をということなんだろうが、上で述べたように現在の計画は「史実に忠実な再建」などではない。そこかしこに現代技術が組み込まれている。その上に「元の名古屋城の設計図が有る」などとする報道も聞いたが、そんなものはない。木組みや接ぎ木の方法など、内部構造を調査した資料はない。あるのは外形図面や写真である。

 そして「現代の法に準ずる」ための問題の最大のものは防災対策であると考える。上にも述べたように地震や火災は文化財だろうと「国宝」だろうと忖度などしない。来場者の命を守るためには厳格に「現代の法に準ずる」必要がある。

 あたかも身障者差別を助長するかのような議論が起こること自体、名古屋市は行政として無責任を恥じるべきだ。「現代の法に準ずる」議論は、身障者だけではなく、すべての来場者のためでも有る。身障者が暮らしやすい社会は、健常者にも暮らしやすい。行政はそう告知してきたのではないのか。

 もう一度いう、来場者の命を守るためには厳格に「現代の法に準ずる」必要がある。

 そもそも城の本質的価値は素材や内部構造などにはない。消失した名古屋城が国宝になった際の説明文にも「五層楼の壮大な城である」ことや「有名なる黄金の鯱をいただいている」とあり、そうした価値はすでに昭和34年の再建で修復されている。

ichi-nagoyajin.hatenablog.com

 木造化しても外観は変わらない。そんな木造化に果たして意味があるのだろうか。その500億円を使って堀周辺の櫓や二の丸庭園などを改修したほうがより城郭としての価値が上がるのではないのだろうか。つまり、以前の全体整備計画に戻したほうが良いのではないだろうか。

特別史跡名古屋城跡全体整備計画(全文) 平成18年9月 名古屋市
https://mega.nz/file/xkxDRSpA#8ZX-tzZXuEX5Mb1IMEZyAg5K65AsaRtOqThDS-8jLng

特別史跡名古屋城跡全体整備計画(概要)
https://mega.nz/file/U5Ixla6a#W_-AvcOc8uZ4nIsneN1GJBAxOx8zItKXpQCUcEG25oE



本日引用した「23/3/22(水)特別史跡名古屋城跡全体整備検討会議 天守閣部会(第28回)配付資料」は名古屋市オンブズマンの公開している資料による。
http://www.nagoya.ombudsman.jp/castle/230322.pdf

その他、名古屋市オンブズマンは、この名古屋城問題でも多大な貢献をされている。
名古屋市民オンブズマン・タイアップグループ

そのオンブズマン組織が存続の危機にあるそうだ。
ombuds.exblog.jp

どうかご支援をお願いしたい。


追記:
2月17日に行われた名古屋市有識者会議、「天守閣部会(第27回)」会合の資料を見直してみると、名古屋市は上に示した「大天守の出入り口に関しては2方向避難路が確保できていない」事を認識し、日本建築センターの評定において指摘されているにも関わらず、対策していないことが判る。
ichi-nagoyajin.hatenablog.com


*1:経済が冷え込んでいるときに、市中の経済を刺激する公共投資を削減し、貯蓄性向の高い富裕層への優遇減税を行うという「河村流減税政策」