1.ある会合における名古屋市職員の認識について
2.名古屋城木造化住民訴訟第三回公判で示された疑義
3.名古屋城天守復元60周年祭
現在、当ブログ主は「名古屋城天守の有形文化財登録を求める会」の事務局として、名古屋市を相手取って名古屋城木造化事業の違法性を指摘し、事業を停止すべきであるという住民訴訟を行っている。
8月22日に第三回公判が行われ、非常に興味深い出来事があった。
裁判の資料を整理してお示しする中で、この出来事の意味をご説明しようとしたのですが、そんな事を言っている間に、「現天守先行解体申請」を文化庁から蹴られ、事業自体、2022年竣工を断念してみたり、「求める会」としてもお知らせすべき「ビック・ニュース」があるので、久しぶりにお城の話をしてみます。
(当ブログでは、「河村たかし」の処遇に窮している。とりあえず市長として、多数の市民が、事実誤認の結果とはいえ市長として選んでいるのだから敬称を付けるべきとの意見は尊重したい。しかし、ここまで嘘を並べて、名古屋市の貴重な公金を浪費している者を「市長」とは呼びにくいし認められない。また、市民にここまで平気で嘘をつく人物については敬意など表することはできない。という事で、ここではこの住民訴訟に準じて「被告 名古屋市長 河村たかし」または「河村被告」と呼ぶことにする)
1.ある会合における名古屋市職員の認識について
さて、その前に。名古屋市内のある会合に出て、そこで名古屋市の職員が名古屋城木造化事業ついて市民に説明されていた。その方の業務については否定するものではないし、価値ある事だろうとは考えるが、いくつかの違和感を持った。
説明の中で次のような発言があった。
1)今回の木造復元においては建築基準法3条の適用除外を受けるのだから建築基準法の制限は受けない
2)現在天守の東側にある「外階段」は外観を考慮して取り外す
3)名古屋城は「史実に忠実」に木造復元される。
その方を糾弾したいわけではないのだから多分、私が説明を聞き間違えたのだろう。
しかし、こうした解釈で居るとしたら、それは大きな誤りだ。
(1)について。
まず、建築基準法の適用除外を定めた第3条にはこうある。
建築基準法第3条第1第四号
「第一号若しくは第二号に掲げる建築物又は保存建築物であつたものの原形を再現する建築物で、特定行政庁が建築審査会の同意を得てその原形の再現がやむを得ないと認めたもの」
当ブログでも旧法によって、名古屋城天守建物は「国宝」とされているが、それは焼失してしまったのであって、この条項で言う「建築物又は保存建築物」とは言えないのではと指摘したが、これについては重要文化財に準ずる扱いとするらしく、文化庁も名古屋市もそういった取り扱いとするらしい。これについては百歩譲る。
しかし、適用除外の為にはもう一つの条件がある。「建築審査会の同意」がそれだ。
そしてそれは、要求水準書などにも「法同等の安全性を確保すること」と謳われており、適用除外を受けるのだから、建築基準法の束縛を受けないかのような認識は誤りだ。逆に、法の縛りが無い状態で、どのように「法同等の安全性を確保すること」ができるのか。それがなされていなかった場合、災害発生以降、重大な責任が追及されるだろう。
(上記、要求水準書の p.10 「5.建築基準法」に「認定の要件として、構造及び防火・避難の安全性の確保が必要であるため、現行法同等以上の評定・評価の取得等が必要となる。現行法と同等以上の耐震基準を満たすこと。」とある)
(2)について。
名古屋市は木造天守においては外観を配慮して「外階段」を設置しないとしている。
しかし、建築基準法施行令第121条第3項で求められている「二方向避難路」を確保するためには、「外階段」を設置する以外にない*1。そこで「飛行機のタラップのような付帯設備を作って、それを使う」と説明されている。けれども、そのような付帯設備、または仮設の設備は「常に付けられる*2」のであって、それなら現在の「外階段」とどう違うのだろうか?
却って、構造物としての「外階段」なら目立たぬよう、調和を考えることもできるだろうが、可動性を付加した場合、今よりも目立ち、外観を損ねるのではないのだろうか。建物の側にも仮設ドアが必要となる。
外階段を付けずにすむ良い方法が一つだけある。「ヒトを入れないこと」だ。実物大木造模型として、ヒトを入れなければ外階段は要らない。ヒトを入れるのであれば、外階段は必須であり、「二方向避難路」は必須だ。
(3)について。
これが最も我慢ならなかった。
木造復元は「史実に忠実」に行われる??
ふざけないでいただきたい。
名古屋城跡に、昭和20年。何があっただろうか。
5月14日、米軍による名古屋空襲で、大天守をはじめとする建造物は焼失した。
これは「史実」ではないのだろうか。
そして、昭和34年に何があっただろうか。
総工費6億円の内、1/3である2億円あまりを市民からの寄付で賄った現天守の再建だ。
これは「史実」ではないのだろうか。
こうした「史実」を無視して、特定の、つまりは焼失前の時点を「史実である」とし、木造化するという事は、こうした歴史の中の事実を隠蔽し、隠してしまう事ではないのか。
特定の歴史を「史実」と言い、特定の歴史を「史実から隠す」これは歴史修正主義にも通じる暴挙であり、文化破壊だ。
文化とは、あるがままの事実を受け入れ、それを次代に受け継いでいくことだ。そうした歴史の積み重ねが、文化であり文明だろう。事実を歪曲するところに真っ当な文化も文明も根を生やさない。
こうした議論が行われてこなかった。
保存活用計画に対して、こうした異常性の指摘がなされているにもかかわらず、その保存活用計画に対するパブリックコメントを隠蔽しているのも名古屋市だ。
名古屋市「名古屋城跡保存活用計画に対する市民意見まとめは手引に従い1か月でwebから消えた」
こうした議論から逃げに逃げ、問題を隠しに隠し、ついにその矛盾によってにっちもさっちも行かなくなったのが、今の名古屋城木造化計画だ。
実は、課題はまだある。まだ可視化されていない課題もあるが、そこに行き着く前にとん挫している。
2.名古屋城木造化住民訴訟第三回公判で示された疑義
名古屋城木造化事業における住民訴訟についてはこちらが最も手軽だ。
第一回で原告側の主張(訴状)が提示された。
第二回公判までに修正がなされて、さらに異例の一時間に及ぶ裁判官口頭調査が行われた。
つまり、裁判官主導で訴状の意味について、不明確な部分の確認が行われた。
この二回の公判で訴状が整理された。
そして、その訴状について、被告河村たかしの代理人(弁護士)による答弁書が提示されたのが第三回公判となる。
ここで興味深い出来事が起こった。
被告側に対しても、裁判官より指摘、質問事項が示されたのである。
1)「スケジュール感」という言葉
2)基本設計の黒塗り
3)文化庁「復元に関する基準」
1)「スケジュール感」という言葉
住民訴訟に先行する住民監査請求においても問題と考えられるのがこの「スケジュール感」という言葉だ。
どういうことかというと。名古屋市の「要求水準書」には次のような記述がある。
木造復元に際し、実施設計に着手する前の基本設計の段階において、文化庁における「復元検討委員会」の審査を受け、文化審議会にかけられる。
甲第1号証 名古屋城天守閣整備事業にかかる技術提案・交渉方式(設計交渉・施工タイプ)による公募型プロポーザル 業務要求水準書.pdf - Google ドライブ
これは「第2章.業務の概要及び計画条件」という章の「第4節.敷地に関する事項」の中の「1.敷地条件」の「(6)特別史跡における条件」の中で、上記「史跡等における歴史的建造物の復元に関する基準」に続いて「その他、下記事項による」のなかの2(マル2/特殊文字なので丸を表記せず)として明記されている。
これらの表題の一部をもう一度抜き書くと「計画条件」の「敷地に関する事項」の「「敷地条件」の「史跡における条件」の「その他、下記事項」となり、私の読解力では「業務のための条件」にしか読めない。
つまり、文化庁の「復元検討委員会」の審査は「実施設計に着手する前の基本設計の段階」で受けるという業務の条件だ。
これが基本設計の「条件」であるなら、公知の事実として「復元検討委員会」の審査など受けていないのだから、基本設計の条件を満たしていない。
しかし、名古屋市はこの文章は「スケジュール感を示したにすぎず、条件ではない」というのだ。いったいどこに「スケジュール感」という言葉や、解釈を許す箇所があるのか教えてほしい。また、その前後は厳しい「条件」が並んでいる。
「掘削行為を行ってはいけない」とか「地中を荒らす恐れのある行為や杭の打設は、認められない」というのは、事業者が誤って行いそうな事ではあるが、文化財保護法の観点からは重大な事項だ。(本丸御殿においてこれが行われて問題となっている)
併記している項目がこうした厳しい「条件」であるのに、この「マル2」だけ「スケジュール感」を示したものだとするなら、その両者を分ける表現はどこにあるんだろうか?
裁判官からもこのもっともな疑問が提示され「スケジュール感というのは、どういう意味ですかね」と次回までに説明が求められている(合掌)
2)基本設計の黒塗り
前回の第二回公判で、被告河村たかしの代理人から、「基本設計が未成立というのであれば、原告においてどこが未成立なのか指摘してもらわなければ反証のしようがない」という発言があり、それに対して、私は「基本設計図書の大部分が黒塗りなので内容については判りません」と応えた。
裁判官より、「成果品目録」が基本設計成果品として収められているのであれば、それが分かる方法はないですか。
現在、黒塗りで何が何か分かりませんから。という指摘があった。
甲第17号証 名古屋城天守閣基本設計業務 基本設計説明書(部分)
被告河村たかし代理人がどのような対応をするのか、期待しているところです。
3)文化庁「復元に関する基準」
文化庁は「史跡等における歴史的建造物の復元に関する基準」を定めており、そこに
ウ.復元以外の整備手法との比較考量の結果、国民の当該史跡等の理解・活用にとって適切かつ積極的意味をもつと考えられること。
とある。これは上記「要求水準書」にも示されている。
ところが名古屋市は大阪城において行われた「アルカリ回復工事」を考慮していない。業者に見積もりを取るなどして、効果の評価や費用等を考慮していない。
「2万人アンケート」などで名古屋市が市民に説明していた「耐震改修をしても40年しかもたない」という説明はおかしい。「耐震改修」というのは建物の震災に対する耐性を高める改修で、建物の寿命を長期化するものではない。建物、特に鉄骨鉄筋コンクリートの建物を長寿命化するには、この「アルカリ回復工事」などの手法があるのであって、大阪城においては実際に施行された。先行事例について踏襲するのが行政の素直な在り方だろうに、名古屋市は大阪城において行われたこの先行事例を参照していない。これは異常だ。また、上記文化庁の基準からも脱落している。
これは、基本設計業務とは直接関連しない論点ではあるが、被告河村たかしの代理人弁護士が、「2万人アンケート」による民意を云々という主張をされたために、反論としてこちらが掲げた中で提示された論点ではあるが*3、この文化庁の基準について、被告河村たかしの答弁はいかがかと問われていた。
3.「求める会」のビッグ・ニュース!
本年、令和元年(西暦2019年)は、現在の名古屋城天守が昭和34年(西暦1959年)に再建されてから、60周年となります。人間で言えば「還暦」に当たります。
平成30年5月に、耐震性への危惧として現天守を閉鎖してから、すでに一年五ヶ月が経とうとしております。
名古屋市は2022年竣工予定の木造天守のために、「現天守の先行解体」を文化庁に申請いたしましたが、有識者会議「石垣部会」の反対に遭い、また文化庁から求められた条件を満足させられなかったことから、許可は得られませんでした。(詳しい事情については、情報開示されておらず不明です。市民に事情の説明は有りません)
こうした状況の中で、現名古屋城天守は還暦を迎えるのですが、名古屋市としては公式には何ら行事を行わないようです。解体するにしても、いや、解体するのであればこそ、名古屋の街を60年の永きにわたって見守ってくれた、名古屋のシンボル、名古屋城天守に対して、何らかの行事を執り行い、その歴史に対して敬意を表するべきであると考えます。そこで・・・!
名古屋市が何もやらないのであれば、市民が勝手に行います。
日時 : 10月21日 (月) 午後6時より
場所 : KKRホテル名古屋 4階 菊の間
(中区三の丸1丁目5-1 電話:052-201-3326)
会費 : 無料(カンパは大歓迎です)
参加資格:名古屋城天守の60周年を祝いたい心
内容は、名古屋城天守の歴史や、現在の木造化事業についてのお話や、ご参加いただいた方々のフリースピーチになる予定ですが、何よりきれいに名古屋城天守が見られる部屋から、その威容に触れ、60年の感謝を捧げたいと思います。お気軽にご参加ください。
月に一回程度、北区にある「北生涯学習センター」で「名古屋城の有形文化財登録を求める会」の月例勉強会を開きます。
10月4日(金) 18:30~20:30 第1集会室
11月11日(月)18:30~20:30 第1集会室
※どなたでもご参加いただけます、参加費無料。
名古屋城天守閣木造化事業基本設計代金支払い住民訴訟
次回、第四回公判は10月9日(水)午後2時より
名古屋地方裁判所 第1102法廷 です。
(傍聴希望の方は、15分前に整理券が配られ、抽選となる場合があります。お早めにお越しください)