「また一つ」*1詰んだ。
12月5日の名古屋市会・経済水道委員会で名古屋城天守木造化について議論が有った。その席上、名古屋市がいう「新たな昇降機技術」の公募結果について報告があった。
名古屋市長河村たかしは、名古屋城天守を木造化するに当たり、「史実に忠実な再現」を行うとして、エレベータの設置を拒否した。*2「木造天守にはエレベータは付けない」として、実験施設「ステップナゴヤ」を約1億円の費用をかけて新設、技術開発に8000万円、実機導入に2億円という巨費をつぎ込んでエレベータに代わる「新たな昇降機技術」を募集していた。今回公表された最優秀提案者は「MHIエアロスペースプロダクション」と言うらしく、MHI、言うまでもなく Mitsubishi Heavy Industries, Ltd. 三菱重工の関連会社だ。下関に同様の関連会社が有り、「MHI下関エンジニアリング」というそうだ、そこに次のような商品の紹介があった。
https://www.mhi.com/jp/group/mhise/media/876/download
「シップフリーモ(SF)エレベータ」
「エレベータ」だ、そもそも「昇降機」とは「エレベータ」の和訳でしかなく、「エレベータを付けず、昇降機を付ける」などというのは、幼稚な言葉遊びでしか無い。名古屋市職員や中日新聞も、河村と付き合うと知能が幼稚化するようだ。
この製品に文句はない、既存製品であれば信頼性も高いことだろう、しかし、既にある製品を選定するために、わざわざ実験施設だの必要だったのか?疑問が残る。
委員会での市当局からの報告では、このエレベータを何階まで設置できるかは判らないとのことだった。ところが同時刻に開かれた名古屋市市長会見で河村は1,2階までしか設置できない。というような見解を示した。それも「これで妥協してやったんだから、これ以上文句を言うな」とでも言わんばかりの態度で(正確な表現は「1、2階まで(上がれれば)合理的配慮と十分言える」)。
確か河村は「新たな昇降機技術」の公募開始の際に「障害のある人にも最上階からの眺めを堪能してもらう」というような事を言っていたと思うのだが。(名古屋城説明会における発言だったと思う)もはやそんな発言もどこへやら。
日本弁護士連合会からの「要望書」では、最上階までの11人乗り(現行同等)のエレベータの設置を求めている。エレベータの設置を認めない事は「人権侵害である」と断じている。
日弁連からこのような要望書が提出されているにも関わらず、それを無視するような河村の発言に、愛知県の障がい者団体が抗議文を提出した。
これに対して河村は「文書は読んだが(発言は)撤回するわけない」と明言。「(戦前の)国宝第一号だった建物を破壊する権利はない」と述べたと報じられている。
「国宝第一号だった建物」は現存せず、存在しない建物を破壊はできない。 今回作られる木造レプリカは、「(戦前の)国宝第一号だった建物」ではない。あくまでレプリカであって、レプリカが「国宝」になった例はない。(金閣寺は再建されても「国宝」になどなっていない)
更に言うなら、現存する鉄筋コンクリート天守は申請すれば「登録有形文化財」となる資格を有する文化財であり、それを破壊しようとしているものが、どの口でこれを言うのか。河村に「文化的価値の有る建物を破壊する権利はない」*3
結局、この「新たな昇降機技術」の公募とは何のために行われたのかと言えば、文化庁の復元検討委員会に天守木造復元を認めてもらうための法的条件を整備するために行われたものに他ならない。
名古屋市が平成27年(2015年)に策定した「名古屋城天守閣整備事業にかかる技術提案・交渉方式(設計交渉・施工タイプ)による公募型プロポーザル ・業務要求水準書」の第3章、第2節に「主な設計条件」が挙げられているが、これは名古屋市の要望することということではなく、特別史跡名古屋城跡に建てられている名古屋城天守の工事に必要な、文化庁文化審議会の現状変更許可を得るために必要な条件なのである。
この中で「7.バリアフリー化、バリアフリーに配慮したものであること」と明記されている。
文化庁はこれらの条件が満たされない限り、現状変更許可は出さない。つまり、名古屋城天守の木造化などできなくなったということだ。
考えてみれば明白だ。名古屋市は日弁連から、バリアフリーについて、現存する鉄筋コンクリート天守以下に後退することは「人権侵害」であると指摘されているのだ。文化庁がこのような計画に対して認定を行い現状変更許可を出せば、日弁連は文化庁に対して意見書を送るなり、法的措置を取るだろう。そもそもエレベータの設置を河村が拒む理由は、客観的なものとは言い難い。恣意的な河村本人の好き嫌いでしか無い。そのような問題で文化庁が日弁連と事を構えるわけがない。結局、今まで通り「受理せず」という結論以外に成りようがない。
河村は本年度末の来年3月、文化庁に現状変更許可を得る書類を提出すると言っている。*4
予言しよう、来年の3月に河村は東京の文化庁を訪れ、「何か」を提出するだろう。そして新聞は(今までの例を見れば特に中日新聞は)「名古屋市、文化庁に名古屋城天守木造化計画を提出」ぐらい書き立てる。この言葉は嘘ではない、文化庁の窓口には提出されて、置かれてはいるだろう。しかし、「受理」ではない。
なぜこんな猿芝居が繰り返されるのか。気が付かない名古屋市民や中日新聞の記者はバカという以外にないだろう。市長選挙、来年の統一地方選挙。そうした選挙の直前に、河村は毎度毎度、あたかも名古屋城問題が進んでいるかのように見せ、さらに河村自身、メディアに露出し、選挙の事前運動をするため、イベントを作っているに過ぎない。
つまり、名古屋城問題で河村が文化庁に出向くのは選挙目的でしか無い。
そして選挙が終わり、人々の興味も失せたころに、文化庁から「不受理」の知らせが届き、話は振り出しに戻る。振り出し、上に書いたように事業者への要件定義を示したのが平成27年(2015年)、来年の4月にこうした三文芝居が繰り返されるのであれば、すでに8年間同じことを繰り返している。
8年もの行政の遅延、虚偽を諾々と伝え続けた中日新聞は、将来、歴史家から厳しい指弾を覚悟すべきだろう。
ここで話をもう一度整理してみよう。河村の希望とする「史実に忠実な再現」と「現代社会の求めるバリアフリーの条件」、この両立を探るために名古屋市は実験施設「ステップナゴヤ」を1億円で作り、技術開発に8000万円、実機導入に2億円という巨費を積んだ。しかし日弁連から「人権侵害」と指摘されるような対策しか提案できなかった。
ということは、この両者は現実的に両立しないということであり、河村が幼稚にも繰り返す「史実に忠実な再現でなければ、作らなくて良い」という言葉通り、木造化天守など作らなくて良いし、そもそもできないということだ。
実験施設「ステップナゴヤ」を1億円で作って判ったことは、「史実に忠実な再現」と「現代社会の求めるバリアフリーの条件」は両立しないという事実だ。
日弁連の要望書を軽視してはならない。今日本全国で様々な公共施設が建て替え、建て直しをされている。そうした際に旧来の施設よりもバリアフリーの条件を軽視する傾向があると言われている。現に名古屋城のすぐ横で建設されている愛知県新体育館についても、そうした指摘がある。
news.yahoo.co.jp
主には予算的な都合のようだが、現状で得られているバリアフリーの条件、障害を持つ人々のアクセスを後退させることは、今まで得られていた公共サービスの減退であり、そうした社会からの排除に他ならず、当事者には容れることなどできない。今、名古屋市で「史実に忠実な再現」などという極めて恣意的で文化的な理由によってこうした排除が正当化されてしまえば、全国の施設でも転用される可能性がある。
文化庁がこのような「障害者排除」「人権侵害」の計画に許可を出したなら、どのようなことになるか容易に想像できる。河村は想像できないようだ、名古屋市職員は想像できるが黙っているのだろう、中日新聞の記者はその想像ができないのだろうか。
文化庁文化審議会の審査を受けるためには、復元検討委員会に「基本計画」を提出する必要がある。
12月5日の委員会にもこの基本計画進捗状況が報告されている。それによると第8章の「復元計画と利活用」については「取りまとめ中」とされている。
・・・・つまり「特別史跡名古屋城跡木造天守整備基本計画」は「取りまとめ中」なのである。令和4年12月に。
名古屋市は竹中工務店と平成29年5月9日に「名古屋城天守閣整備事業基本設計その他業務委託」の契約をしている。
そして、平成30年3月30日に基本設計業務は完了したとして、代金約8億4千万円が、平成30年4月27日(支払期日)支払われている。
この基本設計業務の細目を決めた「業務委託仕様書」の第23条では「建築基本設計は、以下の項目について行う。/(1)基本計画書」と明記されている。
ところが、平成30年3月30日に竹中工務店から名古屋市に提出された「成果品目録」には「基本計画書」が記載されていない。
これが、私達が戦っていた裁判の一つの骨子だ。「基本設計業務は完成しておらず、その代金支払いは違法だ」
結局、判決としては名古屋市の主張が容れられた。施主としての名古屋市がそうと決めれば、契約事項は如何様にも変更可能ということだろう。しかし、名古屋市は管理責任を持っているが、その権能は無制限ではない、行政の大原則は「主権在民」であって、その市民に(代表としての議会に)示した契約事項が守られていなければ違法な取引でしか無い。
私たちは戦略的に2審までで裁判を止めた。その理由は広言しない。
これからも、河村のジタバタを高みの見物と決め込むつもりだ。
追記:
名古屋城木造化事業は「詰んだ」
中日新聞は一度、検証するべきだ。
名古屋城天守の木造化については名古屋市は散々市民に説明会を行っているが、現在の鉄筋コンクリート天守の「破壊」については、その是非を市民に聞いていない。
平成28年に行った「2万人アンケート」では、「現天守閣の耐震改修工事を行う」の項目に「概ね40年の寿命」と書き加えているが、この根拠はない。専門家からは否定されており、実際に「平成の大改修」を行った、大阪城天守閣*5では「40年の寿命」などとは考えられていない。つまり、明らかな嘘の記述によって形成された「民意」なのである。
木造復元に賛同する民意など幻想である。
そもそも木造天守は現在の鉄筋コンクリートと外観はほとんど同じである*6。
それよりも、木造というのは現在の鉄筋コンクリートよりも維持費、修繕費がかる。
最近、SNS上に現在の「清洲櫓」の様子が投稿された。
瓦屋根に布団が引っかかっているように見えるが、雨漏り対策だそうだ。投稿者も「情けなく思ってしまう」と言っていたが、私も同様だ。今の名古屋城管理組合の状態を見ると、木造化された大天守でも同じような「雨漏り対策」がされるのではと思えてしまう。
本当に、名古屋市民は、中日新聞はこんな事で良いと思っているのか。
令和5年度予算要求に対する財政局査定内容に対する市民意見
財政局財政部財政課予算第一係御中1.住所
(略)
2.氏名
(略)
3.ご意見をお寄せいただく事項名、局名及び番号
事項名:
名古屋城天守閣の整備
局名:
観光文化交流局
番号:
56追加
(p.37)
4.ご意見の内容
名古屋城天守木造化再建について、
市長河村は「史実に忠実な再建」を掲げた。
しかし法的にバリアフリーを満足させなければ再建は行えない。そこで、名古屋市は「史実に忠実な再現」と「現行法に叶うバリアフリー」の
2つの要望を満足させる新たな技術を公募するとして、
令和元年より階段体験館「ステップナゴヤ」を約1億円の費用をかけて新設、
新技術開発に8000万円、実機導入に2億円という予算も計上し
全世界に向けて(市長会見)技術の公募を行った。それにも関わらず、昨年12月5日に公表された公募結果では、
現存する天守よりも上層階に来客を運搬できる昇降技術は実現できなかった。このような状態では昨年10月24日に日弁連より要望を受けた要件は満たせず、
再建される木造天守建物は人権侵害となってしまう。つまり、上記巨費を投じ、3年以上の歳月をかけて、
全世界に呼びかけたものの「史実に忠実な再現」と「現行法に叶うバリアフリー」の
条件を満たせる技術は、現存しないということが判明した。そうであるならば、即刻名古屋城天守木造化再建について再考すべきで、
当該予算についても漫然と保管費用等を支払うのではなく、
売却を進めるなど、費用負担の軽減に務めるべきである。
復元事業の進捗情報 | 復元事業の進捗情報 | 名古屋城公式ウェブサイト
木造天守閣の昇降に関する付加設備の方針