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若者の志を挫く縮小均衡論

この正月休みに衝撃を受けた事柄があったのでその話をしてみたい。
ご覧になった方もいるかもしれないが、NHKで12月28日に放送された「事件の涙『そして、研究棟の一室で〜九州大学 ある研究者の死〜』」の事である。

NHKドキュメンタリー - 事件の涙「そして、研究棟の一室で~九州大学 ある研究者の死~」

西日本新聞が事件のあらましを残している。

九大箱崎キャンパス火災 元院生の男性 放火し自殺か 身元判明、福岡東署|【西日本新聞】

昨年、9月7日に移転、廃止を控えていた九州大学の研究棟(「院生長屋」と呼ばれていたようだ)から出火、現場から男性の遺体が発見された。男性は出火現場の部屋に出入りしていた「職業不詳」の46歳の男性。部屋の内側に目張りがしてあり、遺体の近くに灯油用のポリタンクが置かれていることなどから、男性が自ら焼身自殺したものと推測された。

その後、この男性は九州大学の卒業生であることが判る。

男性の半生を追うと言葉を失う。

男性は小学生、中学生の頃はクラスでトップの成績を残す優秀な子供だったそうだ。しかし、家庭の事情から高校進学を諦め自衛隊の幼年学校に進む。家庭(母親)に負担をかけずに学び続けられる道だったからだろう。その後21歳になって九州大学法学部に進む。この時特にドイツ語に堪能だったそうだ。どれほど自らを律し、志を持っていたのだろうか。
九州大学法学部で学んだのは憲法、特に「法の下の平等」について研究をしていたという。
自身が恵まれない環境に生まれ育ち、そうした不条理を乗り越える社会の実現を願っていたのだろうか。大学での学び、さらに修士課程、博士課程と進んでも経済的な環境は改善できず、アルバイトを続けつつ学んでいたようで、最終的に博士課程は修了できずに卒業するという事になってしまう。(2010年博士課程中退という事になるのだろう)
これも、怠業と言う訳ではなく、博士論文の出来に納得がいかなかったからだという。
その後700万円の奨学金の返済をしつつ、法律やドイツ語の非常勤講師で糊口をしのぎ、研究を続けていたようだ。
一昨年の4月に専門学校の非常勤講師の職を「雇い止め」にあい、5,6月の月収は15万円弱となってしまったようだ。同月から昼間に週4回、宅配便の仕分けアルバイトをはじめ、さらに12月からは夜も4回、別の肉体労働のアルバイトも掛け持ちしていたようだ。
夜のバイトを週6日に増やし、研究室に寝泊まりするようになるが、研究室の移転によって、大学から退去も求められた。

700万円の奨学金返済を抱え、4つの学校の非常勤講師を務めて40才、月収が15万円弱。

その頃、この男性はある人に語ったそうだ。「学力や能力があっても、その先に行くためには常に経済力が必要になってくる」なんとも絶望的な響きだ。

国は大学改革と称して大学院生を大量に増やしはしたが、その先のポストについては削減の方向にある。大学における講師や助教授、教授という職ですら、単年度の契約が増え、大学に残って研究するには経済的な余裕(つまりは、実家が裕福であるという条件)がなければ成立しないのだろう。

こんな国、亡ぶしかないのではないのだろうか。

放送終了後、ツイッター上で様々な人々が意見を出しており、その中にはやはり奨学金を抱え、その返済をしつつ非常勤の講師をしているという「ポスドク」の人々の「他人事ではない」という意見が多くみられた。

日本は、資源がない。唯一あるのは戦後営々と築いてきた産業の基盤であり、高い教育水準だ。つまり、ヒトという資源以外に日本は優位性を保つことはできない。そのヒトを育てるべき教育の現場が疲弊している。

そこには歴然と「親の経済力」という壁が立ちはだかっている。

私の知人にも東京の大学に入学できたものの、東京での生活費を工面できずに地元名古屋の大学にとどまったというケースを見聞きしている。(親が国会議員で、国会議員宿舎から大学に通うようなことができればよかっただろう。さらに、自分が卒業して議員宿舎をろくに使わなくなったら、その親が「国会議員宿舎は国会議員の既得権だ!廃止すべきだ!」と騒ぐような事をして恥ずかしい思いをしなければ)

能力と意志のあるものに、教育の機会を与え、ヒトを育てる。それこそが社会の力ではないのだろうか。国や社会が、つまりは公助によって機会の均等が与えられない社会は歪んでいる。

親の経済力によって志をもった若者がその夢を挫かれていく。

こんな国、亡ぶしかないのではないだろう、というか亡んで当然だ。

以前触れたように、均衡財政論、縮小均衡論を振り回す者は、重大な犯罪を行っている。
財政赤字がどうした、人口縮小に合わせて経済も収縮させるべきだ?
大量消費を止めて「足るを知り」消費を控えめにすべきだ?

はたまた、財政赤字が酷いのだから、生活保護や失業給付、年金を押さえるべきだ?


そうした誤った経済学によって、この国はまさに滅びつつある。

2018-08-20 縮小均衡論の罪

まさに、少子化はこうした誤った経済学、均衡財政論、さらにその結果としての人件費の圧縮、非正規雇用の拡大が原因であり、その為に数十万人の生まれていたであろう子どもたちが生み出されなかった。

一旦生まれた命を奪うことは重大な犯罪だ。しかし、当然生まれてきたと推測される命を奪う事は、現在の法律では裁くことはできない。だが事は同じだ。政治的判断の誤りによって生まれてくるはずだった命を奪い、その親の世代の生活を貧しいものに落としめてきたのだ。

この九州大学の彼にしても、ここまで誠実に学に向かっている人であるなら、当然の事として学に向かう生活が与えられるべきだろうし、そうした安定した生活の中で結婚し、家庭を築き子どもを設けているべきだろう。そして親がこれほど誠実に学に向かっている家庭に育った子どもは、また優秀な力量を身に着ける可能性を秘めていたはずだ。そうした当たり前の可能性を潰したのは、この国であり社会だ。

構造改革だとか、郵政民営化に拍手を送ってきたアンタであり、私だ。

国家財政が赤字である、公的セクタが赤字であるとは、日本においてはそれが個人の金融資産、または企業の内部留保に流れ込んでいるだけであって、つまりは通貨の所在がアンバランスであるに過ぎない。法人税率を上げ、私企業に積み上がった、この動かない資金を公的セクタに移せば、公的セクタの資金は確実に(単年度で)流動するのだから、経済が活発化するのは理の当然だ。

税とは、ボンクラ政治家が書いたような、役人の私有物ではない。官僚が懐にいれるようなものではない。国家予算、地方自治体の予算は確実に単年度で流動する。税を下げ、歳出を削減するという事はこの流動量を下げることに他ならない。この国は構造改革というヌエのような経済政策以降、この流動性を下げ、アホのように経済を収縮させることに血道をあげてきた、更にそれを進めようとしている。

まさに、滅びの道を歩んでいる。こんなバカな国、亡べばいい。

公務員給与はその地域の消費の原資であり、私企業の給与水準の算定基準でもある。これを下げれば経済は縮小していく。

生活保護も、失業給付も、年金も、「無駄な国家財政からの支出」などではない。これらも確実に消費の原資であり、経済活動の起点となるものだ。これを縮小すれば国家経済は縮小する。

こんなバカな経済理論妄言からは一刻も早く決別しなければならない。

キミのお金はどこに消えるのか

キミのお金はどこに消えるのか

追記:そういえば橋下徹三角関数など要らないとか言ったそうだ。こうした事を「押し付ける教育」を批判したそうだが、義務教育とは一定の基準までは好きも嫌いも子どもたちに「紹介」する必要があるだろう。

その紹介は「押し付け」にならざるを得ない。

また、一般の人々にとって数学など要らないと言いたいのだろうか?実は数学というのは「概念」を構成する基本であると考えられる。

数学嫌いというのはこうした概念を厳密に捉える事を厭う行為であり、つまりは厳密な思考から逃避する態度に他ならない。これなど、本当に彼の減税日本の東大生(もどき)のY元市議のキャラクターのままだ。彼女の乱雑な論理構成には呆れるほかないが、その根底に数学の無理解、論理学の軽視があるような気がする。論理学ができないものが修士や博士課程の論考を、それが文系であってもできるとはとても思えないのだが。

更に言うと、昨今注目されている「人工知能」の基盤技術はそのすべてが数学を基礎に置いている。今後、人工知能は国や社会の成り立ちの基盤として深く広く浸透するだろう。つまり、国や社会の力とは、その国や社会の計算力によるともいえる。そしてその基本は数学だ。

数学を軽視する国や社会は、やはり滅んでいくしかないだろう。というか、橋下徹の言葉なんぞに騙される社会など滅んでしまえばいい。

本当に、いい加減目を醒ますべきだ。

追記:
大学、教育学部の競争率がのきなみダダ落ちしているらしい。

国公立大学で倍率の低い学校【2018年度受験用データ】 | ライフハック進学

教員の職場環境の劣化が、教員を目指す若者を減らし、
結果として教育の質が低下する。

そうした質の低下はまた、教員の職場環境を劣化させるだろう。
(志のあるものほど、こうした歪の犠牲者になる)

縮小均衡とは、「効率化」に繋がらない。
「余分な物を切り捨てる」つもりが、
大切な物から切り捨てられていくのが縮小均衡なのだ。

それは単なる社会の毀損でしかない。



おまけ:
デンマークの経済や産業、企業は?国王や首相は? | BRAVE ANSWER