市民のための名古屋市会を! Ver.3.0

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名古屋城木造化は是か非か

 本日(6月17日)の名古屋市会、経済水道委員会に「名古屋城整備検討報告書」なるものが提示されて議論が行われた。
 「名古屋城整備」というものの主たる論点は「名古屋城天守閣の木造化復元」についてである。

 本日の中日新聞一面にはその一部が「リーク」されて掲載されている。情報源は言わずと知れた事。

名古屋市当局とかけて、ヒョウタンととく、そのココロは、一番上に抜け穴が開いている」

 委員会においては、このリークも問題になっていたが、記事の論調と委員会における当局の意向も少々異なっているようだ。

 この報告書や、名古屋城木造復元について、どのような問題があるか、共産党の田口市議が判りやすく解説をされている。

名古屋城天守閣の「早期の木造復元」は、こんなに問題がある: 田口かずとのブログ

1)木造復元の意義が不明確
2)優先順位が正しいのか?
 名古屋城の全体整備から見ると天守閣以前に整備するものがあるのでは?
3)長寿命化はできないの?
 名古屋の現天守閣は築後56年、大阪城は改修を経て84年経っている。
4)木造による史実に忠実な復元計画は困難(報告書)
 報告書でも1階部分は鉄筋コンクリートとする等本当の復元には否定的
5)文化庁の示したという方針の拘束性
 文化庁は完全に木造しか認めないと言う訳ではない。
 バリアフリーや耐火設備など完全復元を求めている訳ではない。
6)博物館機能はどこへ?
 現在の天守閣は展示スペースが広く取られているが、復元化すると取れなくなる。
 収蔵品の展示スペースはどこに取るのか?
7)市民意向アンケート
 現天守閣の改修:71%、木造復元:15.3%
8)財政的に今やる必要があるのか?
 約322億円(報告書)かかる事業を行う必要があるのか?


 田口市議の論点整理は判りやすい。
 (1)の木造化の意義と(7)の市民意向という観点から付言すると、昨年1月16日の「懇談会」も興味深い。

政治を語る時に大切な前提(4) - 市長のための市会ではなく、市民のための名古屋市会を! Ver.2.0


 現天守閣復元に寄付いただいた市民の(追記:中から、市当局が把握できている)方々、およそ130名(縁者含む)に、建て替えについて懇談会を設けた際に、どのような意見が有ったのか、また、どの程度の方々が参加されたのか。それが垣間見える。

 共産党の田口さんの意見としては「天守閣より市民の暮らし」と主張されるのは理解できる。主張にも一貫性がある。

 私も個人的には反対だ。名古屋城天守閣は空襲で焼け落ち、それを昭和三十四年に市民の声と浄財で再建されたのだ。市民が戦後復興の希望として建てたものが今の天守閣であり、名古屋市民が誇りを持つに相応しい「本物の名古屋城」であって、今、多額の予算で木造化できたからといって、それと市民が作ったお城とどちらに価値があるか。

 木造化に拘って、この市民の作った城を崩すというような乱暴な行為は、市民の名古屋城への愛着と戦後の再建への志を軽んじる行為でしかない。

 しかし、しかしです。

 行政行為、経済政策という観点からすると、実は別の意味も見えてくる。

 かのケインズは「ピラミッド建設」すら経済を刺激すると言っており、積極財政論としては「名古屋城天守閣木造化」は大いにやるべきなのかもしれません。

http://genpaku.org/generaltheory/general10.html


http://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/tba/images/stories/PDF/Fujii/201201-201203/presentation/20120322councillors.pdf

 経済政策というものは、積極財政論が正しいのか、均衡財政論が正しいのか、どちらが正しいかという問題ではありません。通貨流通が滞っている時、不況やらデフレの時には積極財政論を取るべきであり、好況加熱、インフレ進行の際には均衡財政論に立つべきです。つまりはバランスが大切なのです。

 「名古屋城天守閣木造化」を経済政策としてみた場合、ケインズの言う「ピラミッド建設」にほど近い。ケインズいうところの「古典経済学原理の知識のせいでもっとましなものを実施できないようであれば、富を増やすのに貢献してくれるかもしれません」つまり「『無駄』な借り入れ支出なるものが、実はそれでも全体としては社会を豊かにするのだ」という事です。

 「天守閣木造化」自体は無駄であり、往時の名古屋市民の志を踏みにじる行為ではあっても、経済原理からいうと「全体としては社会を豊かにする」可能性はあるのです。


 ・・・ただし、ケインズのいうような積極的な経済政策に立つのであれば、です。

 しかし、現名古屋市長の河村氏はこの立場には立てません、いや、自らこの立場を否定して、政策立案しているのが河村市長なのですから。

 河村市長が唱える「減税政策」は非常にユニークな存在です。多分、世界史上にも類を見ないユニークで個性的な政策です。(中世ヨーロッパでは脆弱な王家が税を納める中小地主に政治的圧力を加えられたような場合、こういった例があったそうだ)
 一般的な「減税政策」は、単に税率を下げたり控除条件を付けたりする減税で、これは単純に納税者の可処分所得を増やし市中の通貨流通を増やします。(それでも、乗数効果は低いのが常識ですが)
 しかし、河村流減税政策のユニークなところは、この減税財源を歳出削減で賄うとしているところです。歳出とは(乗数効果も高い)市中への通貨流通そのものですから、それを減らして(乗数効果の低い)減税政策を行ってしまうのですから、これは均衡財政論です。通貨流通を減らす措置です。つまりはケインズ経済学とは全く逆の経済政策を続けてきたのが河村氏の減税政策なのです。

上記の理屈を数式で示すとこうなる。
「正しい経済学」が導く減税の意味(後編) - 市長のための市会ではなく、市民のための名古屋市会を! Ver.2.0

名古屋市の市債発行残高が減るという事は、通貨流通が減るという事。
市債現在高の推移(平成25年度末)
 

 つい先日もある会合で河村市長を肯定的に捉えている方が「名古屋城天守閣木造化」には経済効果があるとおっしゃっていました。天守閣木造化の経済効果を肯定的に捉えるのであれば、現在が通貨流通の滞った、デフレ期である事を認識しているのですから、であるならば、河村流減税政策については否定的であるべきです。河村流減税政策について肯定的な主張をされる方が「名古屋城天守閣木造化」を(それも経済効果を理由として)肯定的に主張されるとすれば、それは矛盾そのものという以外にありません。



追記:通常、議会に提出される報告書が、それ以前に新聞紙上に掲載されたならば、議会は「緊急理事会」を開いて、事情を確認するそうです。

それほどこうした「リーク」にはマスコミにとって価値があるという事でしょう。そして、それを流した「穴」にとっても。

しかし、議会に諮ってもまれる前の報告書には当局の見落としも多く、確かに本日の議会でも様々な指摘が有った。
紙面では文化庁があたかも「木造化以外認めない」かのような強い拘束力を持っているかのように書かれていたが、事実はそうではないようだ。

市民に情報を開示する事は重要だが、そうであるなら開示した情報について、議会での議論もしっかりと掲載されるべきではないだろうか。

市当局の一方的な言い分だけを掲載して、あたかも決定事項のような表現で市民に情報を示す事は市民をミスリードする事につながる。また、議会の活動を市民に見せていない。そしてそれは裏返して言えば「議会の活動が見えない」と市民が思う原因をマスコミが作っている事になる。



追記:結果として「報告書」にも着工は本丸御殿整備終了後という事で、2018年以降になるようだ。しかし、本丸御殿整備終了後にすぐに天守閣を建て替えちゃうの?折角、本丸御殿効果で来園者増が見込めるのに?
普通、2年や5年は新築効果による来園者増を受けてから、造り直すのでは?

そして、金シャチ横丁ってどうなったんでしょうね?
このままだと、水資源機構は動きそうもないし、整備計画も進んでいない。

なんとなく、体よくホームレスシェルターを閉鎖したってだけになっていませんか?



追記:
読売新聞が丹念に取材してくれて面白い記事に仕立てている。

 名古屋城の歴史を見ると、徳川家康が1612年、城大工の中井正清に天守と本丸御殿を一緒に建造すると、人手や材木のやり繰りが難しく、共に中途半端に終わってしまうので、天守を先に造れとの命令を出した文書が残っている。

http://www.yomiuri.co.jp/local/aichi/news/20150617-OYTNT50214.html

 家康の戒めに逆らう河村市長という図は面白い。
https://archive.is/EM5pk