市民のための名古屋市会を! Ver.3.0

一人の名古屋市民が「地域委員会制度」「減税日本」に対する疑問をまとめるサイトです。(since 2011/3/3)

アベノミクスのキーとは

 今日は名古屋市政を離れて述べさせていただきます。

 私のツイッターTLに次のような記事が紹介された。
 http://matome.naver.jp/odai/2137290985472688501

 労働条件の酷さが何かと取りざたされる「和民」の宅配弁当サービスである「ワタミタクショク」の求人募集の条件が酷いという記事だ。

 この件では次のような記述もある。
 http://rocketnews24.com/2012/02/24/186417/

 この記事が書かれたのが2012年2月ということなら、すでに一年以上前から指摘されていることになる。逆に、一年以上前の問題を今になって蒸し返してきた。
 実は、このチラシの画像も古いものなのではないか?
 そう疑った私は、自分の目で見なければ信じない性質なので。情報を探ってみた。
 そうすると次のような情報に行き当たった。
 http://www.baitoru.com/chushikoku/jlist/kochi/kochishi/job16941709/?pname=unit1
 同魚拓
 【魚拓】ワタミタクショク株式会社 高知中央営業所の求人情報|バイト探しならバイトルドットコム(募集No.16941709)


 まず確認したいことは一番上の「職種」として「配達・配送 ・宅配便」となっているということだ。
 そして「経験・資格」欄に「車持込できる方」となっている。その車種は指定されていない。つまり、上の記事で扱われているとおり「道路運送法第78条」違反ということになる。( 参照


 さらに「待遇・福利厚生」を見ると「事前研修有」となっており「研修時の報酬は発生致しません」と記載されている。

 こんな事は違法行為だろう。こんな事がさも当たり前のように、求人サイトのコンテンツに載るような事を許してはいけない。

 事前研修について、「使用者の指揮命令系統下に置かれること」「義務として参加させられること」という要件を満たせば、当然報酬が発生する。これを支払わないとすれば不当労働行為だ。

 この研修期間はOJTとして業務の補助をさせられるのだろう。
 そうすると、その支払われなかった報酬は企業側にとって経費の削減となる。

 こういった不当労働行為を常態とする企業は、このように人件費を削減していく傾向がある。

 例えばこちらには「所定勤務重複等調整」と称して人件費を故なく控除していたと疑われる事例が報告されている。
 吉良よし子さん調査:ブラック企業ワタミ 死ぬほど残業し手取り6万円台(ナゾの天引きと社宅費除き) | キラキラ☆サポーターズ(吉良よし子勝手連)ブログ



 さて、ここでちょっと話を大きくする。
 現在の自民党、安部政権が掲げる経済政策は概ね正しいと私は思っている。
 経済政策というものは「常に正しい経済政策」などというものはない。
 資本主義社会においての経済政策は、その時々の経済循環の状況に合わせて策定されるものであって、現在のデフレ局面においては「積極財政」をとって通貨流通を拡大することが正しい。

 民主党の3年間の誤りは、その前の小泉構造改革に対する国民の賞賛に目がくらみ、小泉型構造改革を続けることが、正しい経済政策であると見誤った事にある。

 すでに、小泉政権末期には小泉改革によるデフレーターが発生していた。第一次安部内閣、その後の福田内閣麻生内閣と実はこのデフレーターに対応するために自民党は歳出拡大策に経済運営の舵を切ろうとしていた。

 しかし、国民にはそれが「構造改革を逆戻りさせるもの」として映り、民主党政権の誕生となった。その後鳩山民主党政権は、国民の声に押されるように構造改革路線を進め、歳出削減、「小さな政府」の実現に邁進してしまうのである。

 本来、労働者を支持基盤とする民主党政権下では「大きな政府」「高福祉」が進められるようなものだが、当時の日本において「歳出削減」「行政改革(行政の縮小)」に逆行するものは「政治を後戻りさせるもの」とされたのだろう。

 しかし、歳出削減政策は、当然の帰結として通貨流通の減少を引き起こし、デフレは深刻化していった。

 そこで昨年の衆議院選挙などで叫ばれた「国土強靭化計画」がデフレ退治で脚光を浴びる。

 やがてそれは「安部内閣三本の矢」「アベノミクス」と喧伝される。

 その骨子は
 1.金融政策(無制限の量的緩和
 2.財政政策(国土強靭化計画=大規模な公共投資
 3.成長戦略

 とされる。

 金融政策は通貨を発生はさせるけれども流通はしない。
 それは「紐では押せない」と表現される。日銀が金融緩和した通貨は銀行に滞留するだけである。それを財政政策として公共投資を拡大することで、国の支出として市場に流すことができる。

 しかしここまでで終われば単に財政状況を悪化させるだけにとどまる。如何に国内経済を活性化させことができるか。国の浮沈は民間経済の状況にかかってくるのである。

 ところが、ここで考え違いが起きている。


 そもそも「和民」グループの創設者である渡邉美樹氏は、このアベノミクス理論には懐疑的だそうだ。

 また、自民党内部からは成長戦略のために、正社員の待遇を柔軟にして、企業にとって雇用しやすい環境を整え、企業の参入ハードルを下げようとする考え方があるようだ。

 完全な間違いだ。

 そもそも参入ハードルを下げなければ起業できないようなら参入しなくてもよい。

 雇用は企業の責任であり、国家、政治の責任でもある。

 雇用者を搾取することが生産性の向上であるというような経営者は要らない。



 ここで考えていただきたい。

 上記の「ワタミタクショク」であるとか居酒屋の「和民」において、不当労働行為で人件費が削減されているとする。つまりこのような企業は本来かけなければならない経費(人件費)を不当に下げて、その分販売価格を下げているのかもしれない。*1

 消費者は一見「安ければ良いじゃないか」と思うかもしれないが、ここに合成の誤謬が起こる。

 「和民」が不当に販売価格を下げることができれば、正当に労働対価を支払い、「和民」よりも経費(人件費)が高くなる真っ当な競合他社は競争に負けることになる。
 つまり、「悪貨は良貨を駆逐する」ことになってしまうのである。

 または、「和民」が提供する廉価なサービスというのは、違法な若者の労働の上に提供されるということになる。こんな事が続いてよいのだろうか?そしてそれは持続可能だろうか?


 このような違法行為によって経費を削減する企業は、真っ当な企業の競争を阻害する。

 日本の経済にとっても邪魔な存在でしかない。

 さまざまな業種にこのような企業がある。

 不当な廉売、プライスレースによって市場を席巻している企業は、しかし実はそこで働く労働者を搾取することで成り立っているのである。

 最近、次のような「アネクドート」があるらしい。

 ある経済界の集まりに和民の渡邉氏、ユニクロの柳井氏、そしてトヨタ豊田章男氏がそろって談話していたという。
「若者はしっかり働くべきだ、12時間労働で月15万円の給料でも十分じゃないか」と渡邉氏。「若者の所得を国際化すべきだ、年収100万円もありうる」と柳井氏。
 そして豊田氏が「最近、若者が車を買ってくれないんだよね」

 どのような考え方が国の経済を破綻させようとしているか、すでに明白だろう。

 経済というのは「循環」だ。

 貨幣を国の中にあまねく行き渡らせ、活発に回転させることが経済の活性である。

 日銀は金融を緩和した、通貨はどんどん銀行に流れていく。
 その銀行に滞留した通貨を国債によって借り上げ、公共投資も活性化していく。
 企業間では通貨は流通するが、それは国内経済のほんの一部でしかない。

 もっとも重要で、もっとも大きな部分に通貨は行き渡っていない。

 アベノミクスの本当のキーは、「労働分配率」にあるのである。
 これはスティグリッツクルーグマンも指摘している。

 そういった意味で渡邉美樹氏を参議院議員選挙の候補とした自民党アベノミクスを理解していないといえる。

 そして、本来、「労働分配率」を真っ先に訴えるべきの民主党、連合は立ち腐れたままでいる。



 注意していただきたいが私はここで「和民」およびそのグループ企業が「ブラック企業である」とは決め付けていない。実際に募集の中に違法な疑いのある条件が記載されている事を指摘しているにすぎない。

 本業である名古屋市政に引き寄せて若干の補足を。

 河村流減税政策は「民間に金を回す」と言っているが回らない。減税では乗数効果が低すぎる。*2

 また、そもそも河村氏の「税金をお返しする」という表現はおかしい。
 地方税の減税は徴収率を削減するものであって還付するものではない。

 これは小さいようで大きな違いだ。

 河村流減税では、市の歳出が削減される。市の歳出削減は、それを請け負う各企業の売り上げの削減につながる。または雇用の削減につながる。事実、名古屋市は河村流減税の為に毎年市職員を削減している。(それも対象となるのは弱い立場の臨時職員が多い)

 この歳出側だけ着目してみても経済循環が小さくなることが判るだろう。

 そして地方税の削減は還付ではなく徴収率の削減として実施される。
 つまり、地方税徴収対象者は天引きされないだけなのだ。
 ここでも通貨は移動量を減らしている。

 河村流減税政策は経済を活発に回すのではなく、回っている経済を減速させる政策なのである。

 なので「住民の中の経済格差が十分に小さく、かつ経済が過熱している時」であれば、その過熱した経済を減速させるためには有効である。

 そうは言っても、恩恵に預かるのはお金持ちから優先となるので、富の再配分とは逆の働きをする。*3


*1:その分を経営者、企業所有者が利益として得ているようなら正真正銘の搾取だ。

*2:これもスティグリッツクルーグマン、そしてリチャード・クーなどが指摘していることだ(このブログのバックナンバーを参照されたい)

*3:そもそも税の効果として「富の再配分」がある。それを否定するのが河村流減税なのだから、富はより偏重することになる。