市民のための名古屋市会を! Ver.3.0

一人の名古屋市民が「地域委員会制度」「減税日本」に対する疑問をまとめるサイトです。(since 2011/3/3)

「なぜ日本の金利が低いのか」に真面目に答えてみる(中編)

(前編)
国債は借金ではない
「なぜ日本の金利が低いのか」に真面目に答えてみる
「河村流減税」を否定する4つの傍証
理屈と膏薬はどこにでもくっつく
流動性の罠

(中編)
IS−LM
貨幣が求められる割合
貨幣バブル
河村流減税の矛盾

(後編)
経済を収縮させる河村流減税
自らの墓穴を掘る主張
「市民税をお返しして」
国際的に「正しい経済理論」と思われるものの発言

IS−LM

 「IS−LM分析」とは、

このイメージのようなIS曲線

(財市場における投資:Iと貯蓄:Sの関係を曲線で表し、利子率:rと国民所得:Yの関係を求めた曲線)

とLM曲線

(貨幣市場における貨幣需要:Lと貨幣量:Mを曲線で表し利子率と国民所得との関係を求めた曲線)

で表される図です。


 日本の金利がなぜこんなに低いのかは、この二つの曲線の内のLM曲線によって説明されます。(貯蓄・投資バランスを表すIS曲線ではありません)

 その前に前提となる知識が必要です。

 「貨幣」とはなんでしょう。

 単純に「お金」ではありません。政府の発行した紙幣は、そのままでは「貨幣」ではありません。これが「交換」された時に「貨幣」となるのです。

 お金を溜め込んで餓死してしまったというような話を聞きますが、お金そのものには飢えを満たす力はありません。それによって食品を得る、食品と交換することができるので、お金は生きる糧になりうるのです。こういった「交換」が「経済」であり、お金を溜め込むだけで「交換」をしなければ「経済」に参加しているとはいえません

 この概念は後ほども出てくるので良くご理解ください。

 個人や企業が儲かっている、お金持ちになるというのは、文字通り「お金」を持っている事を表すのでしょうが、「社会の経済が活性化する」「国民所得が増える」というのは、特定の誰かがお金を持っている事ではありません。この場合所持自体には意味は有りません。

 「経済」とは「交換」であります。「経済が活性化する」とは、この「交換が活発に行われる」ということです

貨幣が求められる割合

 LM曲線のLとは何かと言うと。貨幣需要の事です。Lは”Liquidity Preference”の先頭のLを現していて、直訳すると「流動性(交換性)を選択する」ということになります。「流動性選好」と言われています。流動性、つまり交換をするということで、交換ができる「貨幣」を要求する、つまり貨幣に対する需要という事になります。

 では、Mとは何かと言うと。貨幣の量です。”Money Supply "のMで、「マネーサプライ、通貨流通量」などとも言われます。「貨幣供給」と言われているようです。

 このLM曲線は、貨幣に対する(交換に対する)需要と供給の関係を表しています。


 そして、このLM曲線の角度が問題です。この角度(傾き)は

 貨幣需要の所得弾力性(e) / 貨幣需要の利子弾力性(f)

 という比率で決まります。

 「貨幣需要の所得弾力性」とは何かと言うと、所得によって貨幣が求められる割合です。

 極端な例を考えて見ましょう。皆さんもそうでしょうが、ビンボーな学生の頃を思い出してください。100円手に入ったら、その100円ですぐに食品を手に入れていたはずです。(え?それほどビンボーだった記憶はない?こりゃ失礼)

 こういった場合は「貨幣需要の所得弾力性」は「1」です。手に入った所得がすべて換金されて何かに交換されます。
 逆に、得られた所得を一銭も使わないと言う事になれば「0」ということになります。
 この値は1981年から91年では「0.53」92年から2007年では「0.45」と落ちているようです。( 参照

 「貨幣需要の利子弾力性」とは何かと言えば、利子の変動によって投資をするかどうかといった判断が変わるということです。これは個人などでも、住宅ローン金利が下がれば持ち家を買う事を考えたり、買い替えを考えますよね。企業でも貸出金利が下がれば生産設備の投資などをしようと貨幣需要が発生します。

 図をご覧ください。今、簡単にする為にLM曲線を殆ど直線で描きます。*1

 便宜的に一点(赤い小さな丸)を、シーソーの支点のように定めてみます。

 分子である「貨幣需要の所得弾力性:e」と分母である「貨幣需要の利子弾力性:f」の関係、LM曲線の角度(傾き)は、図にあるように eが上がれば角度も急になり、eが下がれば水平に近くなります。

 eが低いということは所得によって貨幣需要が左右されないという事です。

 つまり、どれほど稼いでいても欲しいものが無い。買いたい物が無い状態か、逆に所得が低くても消費を手控えて貯蓄に回す必要があるような場合、eは低くなります。

 また、fについては下がれば水平に近づき、上がれば縦になります。

 現在は事実上金利がゼロに近い状態です。この状態では金利のちょっとした変化に資金需要は敏感に反応します。

 つまり、ゼロに近い経済状態ではちょっとした変化も大きな効果をもたらしてしまうと言う事です。
 金利10%の社会で10%から11%への変化はおよそ一割の変動ですが、金利1%の社会が1%から2%へ変動すれば十割の変動と捉えられます。

 同じ1%の変動が資金需要に与えるインパクト、つまり「利子弾力性」が大きくなります。

貨幣バブル

 「流動性の罠」を否定する根拠として「セイの法則*2」が成立するからだという議論があったようです。今でも、これを根拠に「流動性の罠」を否定する経済学者も居るようです。しかし、どうでしょうか?今の日本の社会を見てみると、「供給は需要を創出する」と言えるような状況にはないと思えます。

 毎年新商品が投入される電化製品、自動車などの工業製品について考えてみましょう。買ってみてもすぐに新型が出て、自分が手に入れた商品の性能が劣ってしまったり、価格が割高になってしまいませんか?今買うのを控えて、もう少し様子をみていよう。これがデフレ期の消費動向です。

 こういったケースも有ります。例えば、今買えば100万円かかる生産設備があるとします。これが一年後、90万円程度で手に入るとしたら、一年間買い控えた効果は、年率10%の貯金と同等と看做せます。

 バブルの頃は土地や株に「カネ」が流れ込んだ、不動産バブルがありました。今は「貨幣バブル」です。貨幣に需要が向かっているのです。「何も買うものがなくても、貨幣を持っておこう=流動性のわな」です。

高校生からのマクロ・ミクロ経済学入門 政治経済 現代社会 岩本康志 東大 「経済教室」日経H21.6.1 その4

 

流動性選好が事実上絶対的となる可能性がある。
…しかしこの極限的な場合は将来実際に重要になるかもしれないが、私は現在までのところその例を知らない。(J・M・ケインズ 「雇用・利子及び貨幣の一般理論」)

 「流動性の罠」に陥った社会では、LM曲線が水平に近づきます。

 標準的な社会のLM曲線がこの図でいう青いライン(1)であるとすると、「流動性の罠」に陥った社会のLM曲線は緑のライン(2)のように傾きが緩やかになり、水平に近づきます。

 上でもちょっと述べましたが、中央銀行(日本でなら日銀)が貨幣流通量(M)を増やすと言う金融緩和によって景気浮揚を行おうとするのは、このLM曲線を右にずらす行為を表します。

 青いライン(1)よりも緑のライン(2)の場合は、角度が水平に近いだけ、より大きくずらす必要がある、つまり同じ効果を得ようとする為にはより莫大な通貨供給が必要となる。逆に言えば、青いラインの頃と同等の金融緩和を行っても、緑の時期には効果が低いと言えます。


 IS曲線についても、こういった場合に貯蓄性向が高くなると傾きは急になります。

 そうなると、両方の曲線の交点は水色から赤に移行し、利子率と共に国民所得も下がります。この局面では金利を下げてもお金は投資には向きません。

 お金を貯蓄に回しても(名目金利が低いので)金利はつきませんが、物価も下がるので、実質金利が付くのと同様の効果が得られてしまうのです。

 こういった場合、上でも述べたように、通貨流通量を増やしても金融緩和を行っても結局効果は期待できません。「紐では押せない」のです。

 どうすべきかというと、基本的なケインズ経済学に立ち返る以外にないのです。

 つまり、「有効需要」を作ってやる事です。

河村流減税の矛盾

 「財政出動」をすべきなのです。

 つまり、「歳出の拡大」を行うべきなのです。

 ここで面白いのは、普通、「現在の日本において歳出の拡大を行え!」「財政出動しろ!」「有効需要を創出しろ!」「公共事業を拡大させろ!」というと、帰ってくる反論は。

 「今のような財政状態で、更に国債を発行しろというのか!」というような台詞なのですが、河村さんの支援者の方はこの反論ができません。河村さん自身が「国債は借金ではない」という「国債善玉説」に立っているので、反論ができないのですね。

 というか、ここで「河村流減税」の矛盾がわかりますよね。

 わかりませんか?

 国債が借金でない、市債は借金ではない」と言うのであれば、なぜそれを発行しての減税を行わないのでしょう?総務省がそう決めたから」「法律で決まっているから」?

 自分の減税政策への理解について「国や他の政治家が間違っている」という河村さんが、なぜここだけは総務省のお役人や、他の政治家が作った法律に諾々と従うのでしょうか?



*1:曲率は論点にはなっていないのでLM曲線が事実上リニアな直線でも以下の議論には差し支えない

*2:「常に供給は需要を創出する」つまり、作ったものは(価格はともかく)必ず売れる。とする仮説。