市民のための名古屋市会を! Ver.3.0

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リチャード・クーさんの本を読んでみた(前編)

( アメブロ オリジナル )

$市長のための市会ではなく、市民のための名古屋市会を!-市政会2回チラシ2
リチャード・クーさんの本を読んでみた(前編)

(名古屋市会議事録【平成22年11月定例会】11月30日−29号)

◎市長(河村たかし君)
 まず、減税をしながら臨財債がふえてどうだという話ですけど、
 この話はずっと何遍も繰り返して議論をしてまいりましたが、借金だというふうに、ギリシャ国債と一緒にしてしまって、こういうのはやっぱり間違いなんですよね。
 残念ながら、本当に銀行で借りる人がいないんですわ、今、日本の社会で。

 その場合は貯蓄投資バランスに従って政府が使うと、その金を。

 それが国債であり、地方債であるので、現実に名古屋の市債の利息を払って大変だ、大変だと言いますけど、その利息をもらっておる人はほとんど実は日本の銀行なので、その銀行はだれに利息を払っておるかといったら、実は預金者である国民に払っておるわけですね。

 ですから、その構造が違いますので、ここはよほど気をつけてやらないと、僕も、日本の経済がこれだけいかぬようになったのには、これを形式的に名古屋の市債は借金だ、借金だと言って、どんどん市が独自にお金を使えなくなっていくと。

 そのお金はどこへ行ったかといったら、実は全部国債に回るわけなんですわ。銀行に余っちゃっているから。どんどん東京一極集中が進んでいってしまうと。これのデススパイラルは、これは皆さんのせいじゃないですよ、国が考え方を間違えておりますので、ここのところを変更しない限り、本当に庶民の生活は苦しくなるし、それから、東京と地方の格差は進んでいくということでございますので、単に数字だけで見るのは間違いだし、やっぱりこんなときに、税収が減ったときに起債を減らしてしまったら、即死になっちゃいますよね、名古屋の経済は。

 そこら辺のところはぜひお考えをいただかないといかぬと思っています。
 ということでございまして、あと、この辺は余り言わんでもいいか。僕の意見では信用ならぬと言うなら、リチャード・クーさんの本をぜひ読んでいただきたい、そんなふうに思います。

 ということで、リチャード・クー「日本経済を襲う二つの波―サブプライム危機とグローバリゼーションの行方」(以下、「二つの波」と表現)を読んでみた。

 先にこれだけは言っておきますが。私は経験上、経済学は宗教と変わりないと断じて居ます。ですのでほとんど経済学者の本は読みません(最後に読んだのが多分、クルーグマンだろうと思われます。そういえば、最近ポール・ポーストの著作は読みましたが、これも論点は経済的な予言ではありませんからね)
 以前にも書きましたが「経済学で昨日の出来事は説明できても、明日の経済の予想は説明不可能」であろうと思っていますので、元気いっぱい、自信満々経済学を振りかざして「明日の社会はどうなる、こうなる」という人が見落としている可能性を、あれこれ想像すると楽しくなります。
 なので今回取り上げるこのリチャード・クー氏の著書についての評価はいたしません。その主張について、私は正しいとも間違っているとも判断を下しません。まったくのニュートラルな立場に居ます。
 ただ、リチャード・クー氏が、河村市長が言うような主張をしているか。
 共著とか、経済学以外の本を抜くと、お一人で書かれた本としては最新刊の「二つの波」を読んで確認をしてみるという事になります。
 なお、同書の「はじめに」を見ると日付が2008年6月になっていますので、以下のクー氏の記述は当時の情報を元に語られているのでしょう。

 この「二つの波」とは米国のサブプライムローンの破綻に端を発する経済危機と、中国などの台頭による日本経済への影響を2つの波と表現し、その変化にどのように対応すべきかが述べられている。(その主張については保留)
 この第二章に「一時的な減税はやらないよりましだが、焼け石に水の可能性が高い」というセンテンスがある。

 サブプライムローンの破綻によって、米国内で)住宅価格の下落から個人がこれから貯蓄率を上げる可能性が高く、しかも実体経済における住宅在庫の問題が非常に深刻であることの二点を考えると、かなり長期間にわたって政府が景気を下支えする必要がある、という結論になる。(略)「政府による財政支出は確実に有効需要の拡大につながり、間接的にしか効かない金融政策に比べてデフレスパイラル回避の“保険”にもなる」と(サマーズ元米国財務長官は)言っている。(略)90年代の日本がバランスシート不況に陥っていた際、その事態を重視して、財政出動の必要性をずっと説いていたのが当時のサマーズ財務長官だった。(略)(同書p.118)

 サブプライムローンの破綻から起きた信用収縮を「バランスシート不況」とみなして、財政出動を求める。そして財政出動は金融政策よりも有効であるとする主張は、ケインジアンともみなされるリチャード・クー氏の真骨頂の主張なのだろう。

 そのサマーズ氏が今のアメリカ政府と議会に対して「早急に財政出動を実施すべきである」と言っているのは、現在のアメリカが以前の日本と同じ状況にあるということであり、ここでアメリカ当局が政策を間違えると、同国もかつての日本と同じように、デフレスパイラルに陥りかねないからである。
 では、今のアメリカ政府はどこまで対策を打っているのか。
 このサマーズ氏の精力的な努力の結果、08年の2月に1680億ドルの減税が決まった。これはサマーズ氏などが「金融政策だけでは対応できない。財政出動が不可欠だ」と強く主張したためである。
(同書p.120)

 おお!良かったですな。サマーズさんたちの提唱した減税政策をクー氏も評価しているみたいですよ。しかし、続きがあります。

 それではこの減税で充分かと言うと、私は二つの意味で不充分だと思う。
 一つは、これが「減税」だということである。先述したように、人々がこれから貯蓄を増やしたり、ホーム・エクイティ・ローンや住宅ローンを払わなければいけない時に減税をやっても、そのかなりの部分が貯金やローンの返済に回ってしまい、需要の拡大につながらない可能性が高い。したがって、1680億ドルの減税でも、実際に需要に回るのはその半分か三分の一ぐらいだろうと言われている。(略)
 それでは家計や銀行がバランスシートの修復を最優先している時には、どのような景気対策が最も効果的かと言うと、それは政府が自らお金を使う公共事業の拡大である。
(同書p.121)

 あれあれ、「減税」の効果については懐疑的ですよね。減税や各種補助金、更に極端な場合は「ヘリコプターマネー」とも言われるバラ撒き政策は、貯蓄に回る比率が高く経済浮揚効果が低いことは「経済学の常識」ですからね。
 ここでは公共事業の拡大をクー氏は勧めています。
 クー氏はケインジアンであるとみなされていますし、「大きな政府」指向なんですよね。ですからバランスシート不況時には、経済の収縮を伴う国債の償還よりも、財政出動を求めるのです。

 「行政改革を行い、減税をして、歳出を削減する」河村流減税政策とは正反対なんですよね。

 「減税」に比べ「公共事業」は全額が需要創出につながるので単位当たりの財政赤字に対して景気浮揚効果が最も大きいのである。(同書p.122)

 今の名古屋においても震災に接ぐ円高の進攻で経済は毀損されています。

 たとえば、名古屋の中長期経済政策である「中期戦略ビジョン」によれば法人設立件数を平成24年には4500件、30年には5100件を目標に掲げています。事業所数では30年に10万件を目標としています。しかしこの「中期戦略ビジョン」は河村市長によって裁判所に叩き込まれています。市長が河村氏でなければ、<誰であろうと>、今頃はこの値について議論がなされ、新たな政策や財政出動が図られていることでしょう。
 しかし今、名古屋市地方自治体として財政出動は図れません。なぜか、河村市長が「減税政策」にこだわってしまっているので大胆な財政出動によって、大きく市債を発行するというような事ができないからです。
 あるいは、市債発行高が過大になっても、ここでは財政出動すべきなのかもしれません。けれども、「減税政策」によって、市政の手足が縛られているのです。


本日のおまけ:
 ・10月の中ごろ、河村市長が突然減税日本ゴヤの市議団控え室にあらわれたそうな。
 そして唐突に「わしは本当に知らんかったんだから。
 則竹の件は6月5日に聞くまで知らなかったということははっきりさせておきます」
 と、語ったらしい。

  「あれ?6月1日ではなかった?」という突っ込みどころもありますけど、

 こんな時期に何をわざわざ?

 という、初秋とはいえまだまだ暖かい昼下がりのできごとでございましたとさ。

日本経済を襲う二つの波―サブプライム危機とグローバリゼーションの行方/リチャード・クー

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