市民のための名古屋市会を! Ver.3.0

一人の名古屋市民が「地域委員会制度」「減税日本」に対する疑問をまとめるサイトです。(since 2011/3/3)

政務調査費と議員報酬について

 昨日はアンドリュー・ジャクソンの事例を引いてポピュリズム政治の不幸な結末を見ていただいた。選挙権が所得(納税額)や性差、人種等を超えて、「民主的」に広がってゆくことは、生まれながらに平等であるべき人間性の発露としては当然の事ではあるが、選挙と政治の大衆化によって、国家を危うくする事も多い事は歴史の教えるところであろう。
 日本においても、大正デモクラシーといわれた民主主義の浸透が、結果として帝国主義的傾斜を許し、最終的に軍部の独裁からついには国家自身を失うという事態に至ったことは重く受け止めなければならない。

 かといってここで衆愚政治への批判をするつもりは無い。
 私は普通選挙(一定の年齢を迎えれば、収入、資格等に関わりなく選挙権が得られる制度)に対して肯定的であり、時に「愚行権の行使」とも思える政治選択にも容認的である。
 民主的な政治選択、政治決定には従うが(従わざるを得ないが)発言はさせていただくという態度ではいる。

 現代においてジャクソン流民主主義的な愚かな政治状況を演出するのはメディアである。現実を直視しない、または何等かの思惑に偏ったメディアというのは、その社会をメディアの操作者自身も気付かないところに連れて行く。これも先の戦争から得られた重い教訓の筈であろうが、残念な事に、未だに思い上がりを持つメディア関係者は絶えない。

 私に河村流民主主義とジャクソン流民主主義の共通点を指摘された方は、全国的に既存政党や、その他のまともな政党への懐疑心がまき起これば、大衆を扇動しやすいジャクソン流民主主義が全国を席巻するかもしれなかったと語った。つまり、議員報酬の過大な減額であるとか、小さな政府論の誤った帰結としての議員定数の削減を、あたかも「自分の身を切って政治に尽くす」というモーションに利用して政治的支持を獲得する者が全国的に現れるかもしれなかったと見られていたのである。
 大体において、こうやって「自らの身を切って云々」と広言する者の圧倒的多数が、単なる「偽善者」であり、その影にしっかりと利益を確保する道を握っているというのは、この世間の通り相場である。
 ブルー・ハーツ的に言うならば、「隠している、その手を見せてみろよ」というところである。

 今回、はしなくも河村流民主主義は様々な誤魔化しが露になり、完全に力を失った。全国的にはこれでジャクソン流民主主義が拡大することは無いかもしれない。そうであれば名古屋におけるこの4年間の政治的空白は、名古屋にとっては大きな損失であったかもしれないが、全国的に見ればメリットがあったのかもしれない。

 しかし、名古屋においても、この「狂態」とも言うべき河村流民主主義の損害を修復しなければならない。この修復が一日遅れればそれだけ名古屋にとっての損失も傷が深まる。

 河村流民主主義においては、議員報酬は半減、800万円が正しい政策であるとされた。しかし、実は河村市長から議員報酬が800万円であるべきその根拠は示されていない。

 また、河村市長が「政務調査費」についての理解を誤っており、その誤解があちらこちらで議論を曲げてもいる。

 最初のイメージをご覧いただこう。これはある市議が実際に自分の給与明細を公開し、そこから議員報酬800万円になった際に、どのような事が起こるか、説明したものである。(党派であるとか個人を断定できそうな記述に関しては処理をさせていただいた)

 これを見ると、現行の報酬額になる前の1400万円の頃でも、手取りの金額は35万円程度であった事がわかる。議員報酬は報酬であって、給与とは違うので手当て等は一切ない。またここで言う「共済掛金」は所謂議員年金の掛金であるが、支給については制度が廃止されたので彼らは受け取る事ができない。(追記(1)参照)

 この仕組みのまま報酬額が800万円に減額されるとこの試算では155,820円という手取り額になる。大学生のアルバイトでももう少し稼ぐ人も居るでしょう。


 この800万円に減額した場合の値をもう少し見やすくした表を作ってみた。

 控除部分は現行の値のまま「(2)」と減額したもの「(’2)」を並べてみた。

 減額してもせいぜい17万円強といったところで、20万円には至りません。

 では、この17万円強が生活費という事になるかというと、そうではありません。

 実は、この試算表と同時に、この試算についての市民有識者間でのやり取りを垣間見せるメモを入手しました。「議員報酬に対する●●●●氏の意見」(H23.9.4(日)11:00)と書かれた文章です。(個人を特定できるような記載については処理をさせていただきました)

 途中の計算は数値の取り違え(数値自体が小さく、読み取りきれなかった事による取り違え)もあるようですので、あまり注目しません。

 気になるのは最後の6行です。

 

「・これまでは月額50万円(少し前は55万円)の政務調査費が、実際個人に手渡されていたのです。
・一般市民で50万円月給受け取る人は少ないのではないか。
◎報酬+政調費=月約100万円でやれる政治活動をすればよいと考えます」 


 私はこの文章を書いた人を実際に知っていて、ある意味尊敬もしているので非常に残念な思いにとらわれます。政務調査費についての制度的説明の不足と、故意かそれとも理解ができないからか、間違った制度的説明を繰り返す河村市長のおかげで、こういった誤解をされる方が非常に多い(先日の庶民連の会合で話した減税日本ゴヤの市議の方も誤解をしていたと言われています)

 政務調査費の支出について簡略に図式化したのが左の表です。

 政務調査費は個人か会派に支給されることとなっており、名古屋市会においてはすべて会派に支給されています。各会派はそれぞれ会計責任者を置き、各議員は政務調査費の支出を会計責任者に請求し、それを受け取るというような処理をしています。
 議員一人当たりの政務調査費の総額は50万円です。

 今、上で試算したように、議員の手取り額が15万円程であるとしましょう。
 (上では17万円強であるとしましたが、作表の都合で比率が把握しやすい15万円で議論を続けます)

 政務調査費の支出には「按分率」というのが決められています。たとえば、議員が持つ鉛筆ひとつでも政務にも利用されますでしょうが後援会活動といった政治活動や、あるいは個人的な利用にも供される事でしょう。政務調査費はあくまで、名古屋市の市議としての仕事、作業に対して名古屋市の市民が費用負担をいたしましょう。という性質のお金ですので、議員の個人的な使用分については議員の個人的な負担を求めます。政治的な活動(支援をしてもらうための後援会活動など)も市議としてではなく、私的な行動ですので政務調査費からの支出は許されません。つまり、議員の持つ鉛筆は数%は政務調査に供されても、残りの数%は自費負担が求められます。これらを「按分率」と言い、細かく規定が決められています。
 ここでは、ざっくり按分率が50%として説明してみましょう。
 つまり、この鉛筆は半分は市議の所持品として名古屋の為に使われ、残りの半分は市議の個人的な利用や、公的な市政とは異なる用件で使用されるとみなすわけです。

 この市議がこうやって活動費として20万円の支出をしたとします。
 その按分率が50%であれば、政務調査費からの支出は10万円で、市議の自己負担は10万円という事になります。

 この場合、市議の残りの可処分所得、生活費は5万円です。


 これが「報酬」と「給与」の相違です。
 「報酬」というのは個人事業主の売上げに似ています。
 このように業務を遂行しようとすれば、そのための経費が必ずかかります。その経費も含んだ「売上げ総額」が「報酬」であって、この「報酬」から生活費を多く残そうと思えば経費を少なくすれば良い訳で、つまり仕事をしない市議の方が生活費が多く残るという事になります。

 たとえば目いっぱい活動して、月に100万円の活動をしたとしましょう。按分率は50%なので、この100万円の50%、50万円は政務調査費から支出されます。つまり、政務調査費は全額支出される事になります。
 しかし、その為には自己負担も50万円となります。その月の給与を全額つぎ込んで、更に貯金か議員以外の収益から35万円を補填しなければなりません。

 (1400万円の報酬において、手取り額がおおよそ50万円弱で政務調査費の上限が50万円であったのは、手取り額を全額政務調査に入れて、政務調査費も全額支出すると、丁度、市から支給されるお金がすべて政務に支出されるというバランスだったようです。
 このような状態であると、議員本人への生活給としての市からの支給金額はゼロですから、事実上のボランティアということになりましょう)

 政務調査費というのは制度上、支払を求めるためには報酬を削らなければなりません。巷間言われたような「第二報酬」という性格ではないのです。

 ちなみに、衆議院議員に支給される「文書通信交通滞在費」(月額100万円)は、第二報酬的な性格が高く、その支出先が不透明なままでも許されます。この金額が年間1千2百万円で、河村市長の語る「政務調査費」の説明が、しばしば「文書通信交通滞在費」の性質と混同されているとは指摘されているところです。


 さて、どうでしょうか。
 議員報酬800万円。

 今、現在市長命令で「減税条例の成立を求める住民投票条例」の原案が市当局において作られているといいます。市長にはスタッフが2万5千人いて、更に市長室の経費も不透明なまま使い放題です。

 翻って、市議の報酬が手取りで15万円であるとか、霞を食べて生活する事を覚悟して、全額政務につぎ込んでみても、せいぜい政務調査費とあわせて30万円程度の経費しか使えません。(食費も、自宅の家賃も払わずにです)

 こんな状態でまともな議会が形成できるわけがないじゃないですか。
 完全に制度設計が狂っています。

 私は、できるならば、市議においても政策立案ができるようなスタッフを雇い入れる程度の経費や報酬は保障すべきであろうと考えます。このような非現実的な制度の議論を放置して海外視察議論に現を抜かす危機感の無さに哀れみすら感じます。

 あれ?最後は石が変な所に飛んでいきましたね。(西に1kmばかり、ずれましたか)


追記(10月21日):議員年金について。
議員年金の制度は廃止となり、6月以降この掛金も発生していないそうです。
今の市議は3月から5月までの掛金を払っていましたが、廃止決定以降の掛金に関しては100%返納されるそうで、4年後の任期満了時に掛金が戻されるとの事です。

追記(10月30日):
政令指定都市間の比較資料を作ってみました。
作ってといっても、あちこちのデータをくっつけただけなので
余り正確ではありませんし、古い資料になっています。

しかしおおよそのアウトラインを掴むには充分有用であろうと思います。




市長のための市会ではなく、市民のための名古屋市会を!-市政会2回チラシ2