市民のための名古屋市会を! Ver.3.0

一人の名古屋市民が「地域委員会制度」「減税日本」に対する疑問をまとめるサイトです。(since 2011/3/3)

名古屋市が歪んでいる理由


3月31日の中日新聞発言欄に次のような投稿が掲載されたらしい。

掲載の事実は確認しましたが、文章は「瑞穂図書館を考える blog」より転載させていただきます。(入力が面倒なので)

(朝刊:50代 女性)
現場の保育士さんは、他人の子どもを預かるという大変な仕事にもかかわらず、決してお給料が高いとは言えない方々が大半を占めているらしい。こんな状況の中、名古屋市議会は報酬を大幅に引き上げる条例案を可決し、年800万円の報酬は4月からいきなり
1455万円になるそうだ。政務活動費を合わせると2000万円を超える。
「なぜ」の疑問に他都市との比較に挙げた市議さんもいたが他の先進国と比較してほしいと思う。景気が良くて税収が有り余る状況ならまだしも、いまこの金額を上げる理由がわからない。増額分630万円×市議数、これだけあれば名古屋市の保育士さんの月給を
万単位で上げられそうな気がする。

名古屋市会議員の報酬アップに反対する投稿が中日新聞の朝刊,夕刊に掲載されました : 瑞穂図書館を考えるblog

ブログ主の注記が入る。

※ 世界主要各都市の議員報酬は以下の通り(2009年度)
ロンドン : 780万円 パリ: 620万円 ミュンヘン: 320万円 ソウル: 480万円 シドニー: 260万円 いずこも800万円以下!
 ・労働条件がとりわけ厳しいと言われる名古屋市学童保育所。
 市内には191か所設置されており平均職員数は2、7名です。
 よって市議の報酬アップ分年間4億8750万円を全額学童保育士の給料アップに充当したとするとなんと月額8万円のアップとなります。

名古屋市会議員の報酬アップに反対する投稿が中日新聞の朝刊,夕刊に掲載されました : 瑞穂図書館を考えるblog

(夕刊: 春日井市 80代男性)
議員は公僕であるべきで選挙期間中は「皆さんのために働く」と訴えていたはずなのに報酬アップ引き上げを強行する姿勢に疑問を抱きます。企業のベースアップが軒並み前年割れし、中小企業は特に厳しい状況です。議員の皆さんも立候補した時の気持ちに
立ち戻り、身を律してください。

名古屋市会議員の報酬アップに反対する投稿が中日新聞の朝刊,夕刊に掲載されました : 瑞穂図書館を考えるblog

 ここでブログ主の注記が入る。

※ちなみに春日井市議会議員の年間報酬は約800万円。
政務活動費は名古屋市議会議員の月50万円に対しなんとたった月3万円です。

名古屋市会議員の報酬アップに反対する投稿が中日新聞の朝刊,夕刊に掲載されました : 瑞穂図書館を考えるblog


 まず3点の事実の提示をさせていただく。
 しかる後にこれらのご意見に反論を述べる。

 そして最後に、こういった事実を踏まえない偏った意見を掲載する中日新聞の蒙昧を指摘させていただく。


1.報酬に政務調査費(政務活動費)を加算して、あたかも議員報酬が高いかのように語ることは事実に反しており不当である。


 政務活動費の支出には自己負担率、按分が加えられる。
 50万円の政務活動費を満額支出しようとして、その支出項目の按分率が70%であった場合、21万円を自己負担しなければならない。

 これを図式化したものがこれだ。

政務調査費と議員報酬について(2011-10-20 )

 (このブログが書かれたのが2011年10月、平成23年である事にも注目してほしい、いったい何年、この議論を続ければ市民の誤解は解けるのだろうか。)

 「年800万円の報酬は4月からいきなり1455万円になるそうだ。政務活動費を合わせると2000万円を超える。」という発言は上記のように事実とは異なる。

 一般市民がこのような事実誤認をするのは仕方がない。
 しかし、その発言を、さも事実であるかのように紙面に掲載する中日新聞の報道姿勢は公正とは言い難い。

 また、まさかとは思うが政務活動費の実態を知らぬまま、この発言を紙面に載せているとしたならば、中日新聞は報道機関として不勉強に過ぎる。

 猛省を求める。

2.世界の主要都市との単純な比較は意味をなさない。

 上にあげられた「ロンドン、パリ、ミュンヘン、ソウル、シドニー」の各都市において、市(地方自治体)の責任と権限がどれほどのものであるか何も語られていない。それぞれ英国、フランス、ドイツ、韓国、オーストラリアにおいて、各都市にどれほどの事業を行わせているのか不明である。そのように制度が異なる中で、単純に「議員報酬」だけを比較することは何の意味も無いだけでなく、議論を歪めてしまう。


政令指定都市 名古屋市における 市議会ボランティア化がもたらすもの 名古屋大学法学部 研究生 梅村麻美子

 この報告書は、元名古屋市会議員(民主党・東区選出)である 梅村麻美子さんが、名古屋大学の研究生としてまとめられたものだ。

 上記の引用者注記でも述べられているパリ市の事例も入っている。
 梅村さんの報告書によると、パリ市会議員(人口220万人に対して163議席ある)の報酬は49,152ユーロ。1ユーロ=127円で換算すると、約624万円となる。
 引用者の注記はほぼ正しい。

 しかし、パリ市議会の議員には社会保険料、議員年金、交通費が別途支給されており、その他に出席手当(日本では批判され廃止された費用弁償)や旅費も支給される。さらに、スタッフ人件費として 約187万円/年 支給されている。そして、パリ市議会の本会議開催日数は20日だ。

 上記の梅村さんの報告通り、日本の地方議会議員は特殊でも恵まれてもいない。


3.単純な他都市との比較は意味をなさない。

 春日井市の議員との比較を掲載しておられるが、
 春日井市名古屋市では事業量が異なる。政令指定都市の事業量は異常なほど多い。

 春日井市は人口 約30万人、年間予算規模は955億円だ。そして事務事業数は約600件を数える。

 これに比較して名古屋市の人口は 229万人、年間の予算規模は2兆6626億円に上る。そして事務事業数は約1140件を数える。

 事務事業数というのはその気になれば道路の工事一件を一事業とも捉えられるので、単純な比較はできない。粒度を上げれば下げれば事業数は上がる。これは一般に事業評価をするときに使われる事業単位で数え上げたものだ。この事業数に公営事業は含まれていない。

 この春日井市名古屋市の議員の業務量と報酬を単純に比較する議論は事実を踏まえているとは言い難い。


 ここからは意見だ。

 確かに議員報酬を削れば6億円(1600万円を半減した場合)の予算が生み出せる。

 これは大きい。
 しかし、名古屋市の総予算、2兆6626億円に比較すると 0.02%のインパクトしかもたない。

 また、現在懸案となっている名古屋城木造化の経費が500億円とした場合、市債で賄うそうなので、金利1.2%でも年間 6億円の負担となる。 金利の、それも差だけで。


 そうした行政の問題を市民の代理として指摘追求する存在こそが市議会である。
 その市議会議員の報酬を 50% も削減して、(議席も減らしてしまって)追及を弱めれば、行政や市長はやり放題となりかねない。

 どうなのだろうか、それでもこの議会への6億円の支出は意味がないのだろうか?


 また、最後の夕刊の投稿について、中日新聞の姿勢に失望を抱く。

 まだ、今に至るもこうした縮小均衡論を振りかざすか。

 確かに民間のベースアップは不調に終わっている。だからと言ってすべてをそれに合わせる必要があるだろうか。(そういう意味では今回、議会が15%削減したのにも私は疑問を持つ)

 名古屋市の職員給与についても、当初、河村市長は人事委員会の引き上げ勧告を無視して引き上げを行わないと公言した。結局その方針は撤回されたが、公務員給与の引き上げを独断で停止する河村市長の姿勢をなぜ批判しない。

トマ・ピケティは来日した際に、日本のデフレ対策に、公務員給与の引き上げを提案した。先ごろ来日したスティグリッツクルーグマンも、日本経済に不足しているものは需要であると指摘している。国内需要を刺激するもの、それは所得の拡大が一番早い。つまり、ピケティもスティグリッツクルーグマンも、同じことを指摘しているのだ。

 それにもかかわらず、中日新聞の紙面には何周か遅れの縮小均衡論が載る。

 エキタス( AEQUITAS )の活動は「最低賃金 1500円」を求めている。
 
 国内経済を活性化するのは、こうした賃金の拡大、国内消費の拡大を求める声であって、それに反する言論は国内経済を疲弊させ、今以上に格差を拡大し、弱者を切り捨てるものだ。

 確かに、議員というのは特殊な職業で(229万人中75人(68人)しかいない)
 全体の経済規模に対するインパクトなど無いに等しい。

 しかし、大切なのは方向性なのである。

 自分たちが苦しいから、他も苦しむべきだ。

 という考え方は、このブログで度々紹介する
 「Allegory of the long spoons」という教えに反している。

 いつまで他人のスプーンを邪魔して、自分自身もひもじい思いをするのだろうか。


 議員報酬の半減など、地方自治、民主主義の破壊だ。
 とくに、それが議会によって審査されるべき行政の長である市長によって主導されるなど、民主主義を否定し、独裁を容認するようなものだ。そうした政治や経済に対する歪んだ認識が社会を苦境に陥らせている。

 減税政策、税を否定する考え方は、税による再分配を否定するものである。
 ここでも経済や政治の幼稚な誤解がある。

 幸いな事に、日本社会のすべてが経済や政治に対して歪んだ認識を持ってはいない。地方税減税を実施した地域は限られているし、議会議員の報酬を半額にしてしまったような例も限られている。(というか、破たんした地方自治体以外は名古屋だけだろう)

 なぜ、名古屋だけこの歪んだ、経済的に整合性も説明もつかない減税政策を続けているのか。民主主義、地方自治に反する議員報酬半減を続けようとするのか。

 それは、名古屋市民が事実を知らされていないからだ。
 名古屋のブロック紙である、絶大な占有率を誇る中日新聞が、こうして今日もまた、過てる論調で紙面を埋めているからだ。

 名古屋市は、名古屋市民は、市長や中日新聞のおもちゃではない。
 中日新聞記者は、事実に目を向け、そして深く考えよ。