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武雄市図書館で読める雑誌は600点? バックナンバーは20点?

 これは非常に重大な問題を含んでいます。

 例えば今後、日本中に「武雄市モデル図書館」ができたとすると、最悪の場合、公立図書館という存在自体が機能しなくなる可能性があるのです。この懸念はけして大げさだとは思えません、以下にその理由も記述します。


 武雄市図書館が現市長の樋渡市長の指揮の下、CCCを指定管理者として導入するまでは雑誌の所蔵数は107点だったようです。

 http://www.nikkeibp.co.jp/article/matome/20130415/347565/

 現在の武雄市図書館にある雑誌タイトルは600点であると言われています。

 急増していて結構な事のように思われるかもしれませんが、この600点というのは図書館に併設された蔦屋書店の販売品としての雑誌タイトルも含まれています。

 ただ、武雄市図書館では併設された蔦谷書店の販売品である雑誌を、閲覧席で読むことができます。(通常の図書館では所蔵された雑誌等の記事を、制限の中でコピーすることが許されていますが、さすがに販売品のコピーは許されていないようです)


 純粋に武雄市図書館が所蔵品として収集している雑誌類は20点ほどのようです。

 Dropbox - Error
 武雄市図書館の公共図書館分担保存受け持ち雑誌と所感 - 突発非同期不連続


「新小牧市立図書館建設基本計画」には新聞や雑誌の在庫について次のように明示してあります。

3 各機能の面積と配置計画
 (2) 地域館機能
(略)
  イ 新聞・雑誌コーナー
    新聞約 10 紙、雑誌約 200 種、とします。バックナンバーとして1年分を保存します。(略)

新小牧市立図書館建設基本計画(31ページ)

 現在の武雄市図書館では、今まで図書館自体が買い取り収集していた雑誌を買い取らず、併設する蔦谷書店の販売品である雑誌を閲覧可能とする事で、利用者の雑誌閲覧の希望を叶えつつ、図書館の運営経費を抑えるとしているようです。

 今まで図書館の負担(つまりは武雄市武雄市民の負担)で買い取ってきた107点の雑誌類を買い取らず、市民の負担を軽減して、併設する蔦谷書店の雑誌を閲覧可能にする事で、従来以上の600点の雑誌在庫を閲覧することができるようにする。

 図書館は書店と併設する事で、ただで600点の雑誌在庫が持てる!

 一見良い事のように見えます。

 特に昨今は公共事業の費用に対して批判が厳しい。
 公立図書館といえども予算が削られる傾向にあります。

 そんな中で、雑誌の買い取り負担をなくし、それでいて閲覧点数を増やせるこのアイデア(ビジネス・モデルとでも言うのでしょうか)は優れた試みに見えるかもしれません。(そのように喧伝するメディアもあるようです)


 しかし、どこかおかしくはありませんか?


 まず、その600点の在庫は書店の在庫です。書店に置かれた雑誌は当然、最新刊が発行されれば、それ以前のバックナンバーについては返本しなければなりません。

 武雄市図書館でも事情は同じで、これらの雑誌のバックナンバーは閲覧することができません。バックナンバーが閲覧できるのは、図書館が所蔵資料として買い取っている20点ほどの雑誌だけです。


 一般的に、図書館の大きな意義の一つはこの「雑誌のバックナンバーの収集」にあると思われます。雑誌のバックナンバーは出版社自身にもバックナンバーの在庫が無くなる場合もあり、市場に任せきりにしていると必要な時に参照できないことが多々あります。
 これを補完できるのが公立図書館の存在です。


 またこの「武雄市モデル」でおかしなところは、こういった雑誌閲覧のコストを、出版社が負担するという構造です。

 大手書店などでは「雑誌の立ち読み」を自由にしている店舗があります。
 人気の雑誌などは立ち読みでボロボロになってしまい、結果として1冊が「見本誌」のような扱いとなる事もあるようです。
 こうしてボロボロになった「見本誌」は発行時期が過ぎると出版社に返本されます。
 出版社は返本を受けてもバックナンバーとして再販売する事はできませんから破棄することになります。つまり「見本誌」は出版社の負担で成立している事になります。

 出版社が1冊を「見本誌」として負担しても、大手の書店であれば、そのコスト以上の販売利益を見込める事から、このような扱いを容認しているのでしょう。

 本来であれば出版社はボロボロになった「見本誌」の返本を拒否して、大手書店に買い取りを求める事も出来るでしょう。しかし、特定の出版社が大手書店にこのような強硬な姿勢に出たら、その出版社に対して書店はどのような姿勢をとるでしょうか。

 つまりこれは大手書店という、取引上優位に立つものが、出版社という劣位の取引先に、自身で負担すべきコストを求める行為に見えます。


 もしも「武雄市モデル図書館」が全国に広がり、あっちでもこっちでも、図書館が雑誌を買い取らず、併設した書店の雑誌を「立ち読み」できるようにしたとします。そうすると、出版社はその負担に耐えられるでしょうか。

 ただでさえ、出版不況で各出版社も経費の削減を求められています。
 やがてこうした「立ち読み」に対しては、書店に買い取りを求める出版社が現れるかもしれません。出版社数社、または業界団体として是正を求める事も考えられます。
 そうなると「武雄市モデル図書館」でも併設した書店の雑誌を自由に閲覧できるといったようなアイデア(ビジネス・モデル)は破綻します。

 または、現在、一部の雑誌で行われているように雑誌に封印がされるかもしれません。
 封印が切られた雑誌については出版社が書店に買い取りを求めるかもしれません。

 この場合でも「武雄市モデル図書館」で閲覧できる雑誌は縮小することになります。



 図書館のあり方を定めた法律に「図書館法」があります。

 この第三条7項に次のような条項があります。

(図書館奉仕)
第三条  図書館は、図書館奉仕のため、土地の事情及び一般公衆の希望に沿い、更に学校教育を援助し、及び家庭教育の向上に資することとなるように留意し、おおむね次に掲げる事項の実施に努めなければならない。
(略)
 七  時事に関する情報及び参考資料を紹介し、及び提供すること。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO118.html

 新聞や雑誌に記事が書かれるという事は、公衆に広く伝えられるという事です。

 当事者であればその内容について知る権利があります。

 出版物というものは著作物という商品には違いありません。
 それは出版社や著作者の所有物であり、販売に供する商品です。

 しかし、その記述されている内容は社会の共有物です。
 
 誰しもが知りたいと思い、適正な手続きを踏めば閲覧できるようにするべきです。
 その為に、出版社は販売機会の損失になっても図書館に著作物を所蔵し、閲覧させ、その一部を制限の中でコピーすることを容認しているのでしょう。

 公立図書館はこうした観点からすると、著作物の権利者の権利を侵害しています。
 しかしその権利侵害は、公衆に広く伝えられた著作物の内容について、誰でも閲覧して内容を精査できるべきという社会的な要請を満たすために許されているものです。

 その代り「公立図書館は、入館料その他図書館資料の利用に対するいかなる対価をも徴収してはならない(図書館法 第十七条)」と定められているのでしょう。

 「武雄市モデル図書館」はこのバランスを突き崩しています。

 今は一館だけで展開されていますから許容範囲なのでしょうが、全国的に展開されたなら、どのようなリアクションが起きるか判りません。


 公立図書館で雑誌(時事資料)が閲覧できない。

 雑誌(時事資料)のバックナンバーが参照できず、記事が刹那的に消費されるだけになる。

 これでは図書館法第三条第七項に定められた公立図書館としての機能が果たせません。
 これでは公立図書館として成立しません。

 公立図書館が供する公共サービスは、公的な負担の下で適正、適切に賄われるべきで、私企業である大手書店が、取引における優位性を以て劣位に置かれた私企業である出版社に負担を強いるような形で成立させるような事があって良い筈がありません。また、そんな事が長く続く訳がありません。


 「武雄市モデル図書館」が全国に展開されれば公立図書館のあり方そのものが破壊されてしまいます。


武雄市図書館に行きました(Ⅲ)2013 年 08 月



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