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小牧市における住民投票報告

 ここのところブログを更新できておりません。
 小牧市の図書館問題にコミットしておりました。

 小牧市立図書館問題インデックス

 本日はこの問題について、某所の為に書いた原稿をアップいたします。


 小牧市における住民投票報告
 社会的共通資本としての図書館についての再確認
 (2015年10月7日 水曜フォーラム 向け原稿)

 10月4日、小牧市において「現在の新図書館建設計画に関する住民投票」が行われ、「反対」32,352票、「賛成」24,981票で、現計画は否決された。住民投票に法的拘束力はないが、小牧市の山下市長は、自身の進める図書館建設計画について、一定の見直しを迫られる事となった。

 参照:現在の計画のどこが問題なのか

 今回の住民投票における争点は主に次の3点に絞られていると思われる。
  1.「ツタヤ図書館」と呼ばれる運営形態の是非
  2.34億円から42億円に高騰した建設費(いわゆるハコモノ行政批判)
  3.官民連携や建設仕様など、元々あった基本計画(※1)に反する民意の軽視

 1.の「ツタヤ図書館」については、佐賀県武雄市、更にこの10月1日に神奈川県の海老名市で2号館が供用されるに及んで、その選書問題(※2)や書架分類(※3)、運営(※4)など、様々な問題が指摘されている。

 2.小牧市の説明では、建設費の増大は建設コストの高騰によるものとしているが、平成26年9月頃にツタヤ(正式にはCCCであるが、屋号としてのツタヤを使う、以下同様)より建設仕様のアドバイスを受けており、実際に現在示されている小牧市の案では吹き抜け構造や「本の山」など、基本計画にはなかった、一見図書館機能とは関係のない(というよりも、図書館機能を毀損する)華美な設計が盛り込まれている。これらが建設費用の増大をもたらしているのではないかという批判に応えきれていない。

 3.基本計画は丹念に小牧市民の民意を収集したものであって、市の直営であることなどが明記されていた。にも関わらず、山下市長が唐突に官民連携による図書館建設を言いだしたものであり、その方針転換について、市長は市民に説明もしていないばかりか、意見聴取もしていない。
 こうした市民意見の軽視が、署名運動へとつながり、今回の住民投票において現行計画に対する「反対」が過半数を占めたと言える。

 この住民投票にあたり小牧市は条例(※5)に定められた情報提供の一環として、住民説明会と「お知らせ」を配布した。この内容は建設推進に向かう市当局の意見だけを掲載したもので、同条例に謳われた「中立性の保持」が満たされていない。

 この「お知らせ」の中で、「新図書館」は蔵書数が50万冊であり、現図書館の28万冊から増大しているように説明しているが、基本計画では70万冊を謳っていたものであり、実は現計画では規模が縮小している。この理由として、住民投票後の市長会見で、山下市長は「建設費の高騰で規模を縮小した、基本計画にも設計段階で見直すと明記してある」と釈明したが、基本計画には蔵書数の見直しなど謳われていない。床面積や座席数について謳っているだけで、この説明は失当である。また、建設費の高騰を言うのであるならば、吹き抜け構造や本の山といった特殊な仕様と蔵書の間で、どちらを優先的に考慮するべきか、市民に情報公開して理解を求めるべきではないだろうか。

 また、現在の建設計画では「設計のコンセプト」として「3.ユニバーサルデザインバリアフリー化」と謳っている(※6)が、同時に示されている「本の山」や「壁状の書架」を見ると、高層の書架を導入することとなっており、とてもユニバーサルデザインとは言えない。(基本計画では低層書架を使うと明示されている)

 また、ツタヤが運営する海老名市図書館において、やはり高層書架を導入している為に「高い棚にある本をご希望の方は、スタッフまでお声がけ下さい」と案内板が設置されている。これではバリアフリーに反するだけではなく単純に運営コストの高騰をもたらす。


 さて、小牧市の山下市長は、住民投票の結果を受けて「無作為抽出の市民50人程度が参加する協議体を設けて問題点を検証、見直す」としている。(10月6日 中日新聞との単独インタビュー)山下市長はどこが問題なのか判らないからとしているが、こうした方法では問題点は浮き上がってこない。一般の市民を無作為抽出しても、現在の建設計画と基本計画の差を理解している市民は少ないし、一般の報道で取り上げられてはいても、ツタヤ図書館の問題点も、広く知られている訳ではない。上記のように、住民投票に係る住民説明会において、条例の記載を無視し建設推進の説明をしたのであるから、こうした協議会においても市当局に都合のよい情報だけを並べ、議論誘導する可能性はある。

 また、反対運動のグループにも、いわゆる「ハコモノ行政批判」から、図書館建設に反対していたグループもあれば、図書館の新設そのものには賛成しているが、いわゆる「ツタヤ化」には反対をしていたグループもいる。更には、現在の図書館を増改築して、建設費を低額で済ませるべきとする意見や、ラピオ(駅前商業施設)への移転を提案するグループもいる。

 この住民投票をきっかけに、基本計画を軸として、小牧市に民意が再構築され、市民のための図書館が、市民の合議で建設される事を願う。

 民主主義とは市民の活発な議論から、社会を運営していこうという政治形態である。その為には、社会についての広範な知識が市民に開かれていなければならない。市民が偏った情報しか得られなければ、そこからは偏った判断しか生み出せない。この広範な知識を市民に提供する者が公共図書館である。市民は公開された情報を閲覧する権利を持つ。

 市民が、公開された情報を閲覧する権利を行使することと、消費者が娯楽として本を読むことは、行為としては同じ「個人が本を読むこと」であるが、その社会的意義は全く異なる。娯楽としての書物を提供し、同時に出版という業態や、作家を存続させるために、書店が企業として書物を販売することは、これはこれで社会的に意義がある行為だ。しかし、その書物に書かれている内容は、市民の共有知として、誰しもが知り得る必要がある。(雑誌に掲載された内容によって、個人が誹謗された場合など、その記述について、個人はその内容を閲覧できなければならない。または、柳美里の「石に泳ぐ魚」の事例など)

 つまり、消費者が娯楽としての読書の為の本を買う書店と、市民としての知る権利を行使する図書館では、その社会的存続意義は異なるのである。ツタヤ書店は、書店経営のノウハウから、図書館も運営できるとしている。増田社長は「本のレンタル屋だ。要するに図書館なんてものはない」と語っている。(※7)こうした見解の方が、社会的共通資本としての図書館運営に関与することは、日本の社会にとっても損失であると考えられる。



※1・・・   平成21年3月に策定された「新小牧市立図書館建設基本計画」。その策定にあたっては、市民意見や各種団体との懇談、パブリックコメントなどが盛り込まれている。(下記年表を参照)

※2・・・  武雄市図書館においては、佐賀県であるにも関わらず埼玉県のラーメンマップをそろえるとか、10年前の、すでに無効な資格試験の参考書を買うなどした。海老名市においては、8300冊のうち4000冊を料理関係の本にしたり、青少年に閲覧させるには不適切な風俗関係の書籍が選書されている。なお、武雄市の選書情報は2年間公表されてこなかった。(こうした隠ぺい体質も問題である)

※3・・・  ツタヤ図書館では一般的な書籍分類であるNDC(日本十進分類法)を使わず、独自の書籍分類で排架している。(また、この分類法は企業秘密として公表されていない!)新設された海老名市図書館では「旧約聖書出エジプト記」を旅行記に分類するなど、その独自性に注目が集まっている。
 海老名市中央図書館の謎分類メモ #公設ツタヤ問題 #海老名分類 - Togetter
 海老名“分類崩壊”図書館、ツタヤがこの先生きのこるには? - Togetter

※4・・・  武雄市においては、ツタヤ図書館化に伴って、大量の視聴覚資料が除籍された。併設されているレンタル・ツタヤに配慮したのではと疑問視されているが、明瞭な回答は無い。海老名市においても雑誌購読が大量に減らされているらしい。
 なぜ武雄市図書館にはCD、DVDなどが300枚程度しかないのか

※5・・・  平成27年9月15日 小牧市条例第37号 「現在の新図書館建設計画に関する住民投票条例」 「第9条 (情報公開) 市長は、住民投票の適正な執行を確保するため、市民が適切な情報に基づいて判断できるよう必要な情報提供を行うものとする。
2 市長は、前項に規定する情報の提供に当たっては、中立性の保持に留意しなければならない」
 現在の新図書館建設計画に関する住民投票条例(PDF)

※6・・・  住民投票説明会資料による

※7・・・  2013年8月27日「あすか会議2013」増田社長講演より
 カルチュア・コンビニエンス・クラブ増田宗昭社長「企画という生き方」 | GLOBIS 知見録


追記(10月7日):
 この増田社長に対する評価は厳しすぎると思われるかもしれない。
 しかし、「図書館の自由に関する宣言」にはこうある。

 4. わが国においては、図書館が国民の知る自由を保障するのではなく、国民に対する「思想善導」の機関として、国民の知る自由を妨げる役割さえ果たした歴史的事実があることを忘れてはならない。図書館は、この反省の上に、国民の知る自由を守り、ひろげていく責任を果たすことが必要である。

図書館の自由に関する宣言

 一方で増田社長はこう語っている

分類することによって提案型の図書館になるということなんです。 もっと分かりやすく言えば、図書館というのは元々情報検索のために作られたプラットフォームですが、現在は、目的がはっきりしていれば検索はネットで行えます。そのような時代において、リアルなプラットフォームも検索型である必要はなく、そこに行ったら楽しい、そこへ行ったら何かを発見できるという空間であるべきなのです。

http://shachomeikan.jp/taidan/10061995/3

 この歴史的反省に無頓着で(自己の反省すらいい加減な人なのだから)
 狭隘な価値観しか持たない者が、危険な「思想善導」を行おうとしているのが、
 「武雄モデル図書館」であるということだ。



小牧市図書館問題の経緯→密室の中で進む建設計画