名古屋市の市議はこの3月12日に任期満了を迎える。
通常であれば地方議会は、任期満了の前30日以内に改選が行われ議会空白を生まないよう考慮されるが、名古屋市の選挙管理委員会はこの改選を4月12日の統一地方選挙の日程に合わせる決定を行った。その理由としては、年度末の予算審議をスムーズに進める為。統一地方選挙と同時に改選する事で、投票率の向上と選挙経費の軽減が図れるとの判断が有った。その結果、この3月12日から4月12日までの一か月間は名古屋市に市議会は存在しない。
なぜ、このような状態に立ち至ったかというと、それは4年前の議会リコールに原因がある。4年前、議会リコールにより、名古屋市会は一か月ほど早めに議会解散が行われた。(あの騒ぎは、たった一か月解散を早めただけとも言える)その為に改選後の議会は予算審議等、バタバタの騒ぎになった上に、選挙期日がずれこみ少なからぬ選挙費用もかかった。
議会リコールの影響で、現在の名古屋市会議員の任期はずれている。この任期ずれを放置すれば、以降改選の度に、余計な選挙費用と予算審議への影響が予想される。その為選挙管理委員会は、今年の改選で思い切って一か月の議会空白を設けてまで任期ずれを修正しようという判断をされたわけだ。
任期前30日以内に改選をする事になれば3月12日までに選挙が行われる。その為にこの平成26年度予算に市会議員選挙の予算が計上されていた。この選挙が4月に執行されることになり、予算が年度をまたいで繰り越される事となった。これについて総務環境委員会で審議が行われ、関連して委員間討論が行われた。
2月20日の総務環境委員会である。
この中ではリコールの是非にまで議論は及んだ。
そもそもこれ程様々な影響がある事を、リコールを求めた人々は理解していたのか?リコールを主導した人々は理解していたのか?そしてその影響を超えても尚、議会解散を求める意味が有ったのか?
リコールを求めた人々は理解などしていなかった。そのような説明は無かっただろう。それはリコールを主導した人々や河村市長においてもそうだったのではないのか。リコールの本当の意味、その影響範囲など理解せずに、リコールを求めていたのではないのか。リコール自体が自己目的化していたと思える。
また、そのリコールによって改選された現在の議会が、リコールの時に言われたような理想の議会に近い物だったのか。市民に開かれた議会になっていたのか。
皮肉な事に、リコールを受けて既存政党は非常に開かれた存在になっていると思う。
逆に東庁舎の中で最も閉鎖的なのが減税日本ナゴヤと言えるだろう。
当初、市民の傍聴を許していた「団会議」も今では傍聴は許されず、「会議中」の札がかかる扉は固く閉ざされている。
委員会の審議の中で、ちょうど4年前の出来事も語られた。4年前の出来事。そう、3・11東日本大震災である。リコールを受けての市議選の真っ最中にあの震災は起きた。
委員会の審議では発災を受け、即座に何かできることはないかと考えて、すぐに「あ、自分は議員ではないんだ」と無力さを味わったと言われていた。
この一か月の議会空白も、この経験があれば非常に危機感を持たざるを得ない。
その為、総務環境委員会からはこの選挙管理委員会の判断について、市民に理解を求めるよう特に付帯決議がなされた。
これほどのリスクを冒して、それでも議会を改選し、よりよい議会になったと言えるのならリコールや改選にも意味があると言えるだろう。しかし、誰がどう見てもこの4年間の名古屋市会が立派なものとは言えないだろう。数々の混乱、不祥事が起き、その大部分がリコールを肯定した人々の元から起こっていた。リコールをされ、まるで全否定をされた(社会の敵のような扱いを受けた)議員としては、一言言いたくなる気持ちは良く判る。
減税日本の市議の立場に立って少々弁護してみよう。
彼ら減税日本ナゴヤの市議の大部分は、リコール運動を展開していた人々の中から立候補表明を受けて選ばれている。彼らがリコール運動を主導していたと言っても、その責任の一端は有るだろう。しかし、リコールの判断は署名をし、住民投票を行った名古屋市民が下したものであって、彼ら議員たちが全ての責任を負うものではないだろう。
また、彼らがリコール運動に参画した段階では、既存議会に対する誤った情報が数々流され、それが故に判断を誤ったという事情もある。問題はこうしたミスリードを起こさせるような誤った情報を流した者にある。(「年収2400万円で80日しか働いていない」といったようなね)
しかし、そうした被害者であると言うのであれば、このような誤情報については「誤りであった」と認めなければならないだろう。こういった情報について誤りと認めなければ、誤情報を流した者と同じように、彼ら議員も自分自身が流した誤情報を信じる人々を騙すことになる。加害者と同じ岸辺に立つこととなる。
彼ら減税日本ナゴヤの市議たちはこの4年間、議会に入り、つぶさに市議会の実像を見てきたはずだ。果たして本当に、名古屋の市会議員は「年収2400万円で80日しか働いていない」というような存在だったのだろうか。リコール運動とは「保身をはかる議会と庶民の対決だ」と言えるものだったのか。
ここまで来てまだ「あのリコール運動は意味が有った」と思えるのであれば、もはや客観性を失い、正当な判断ができなくなっていると言わざるを得ない、人間は「コンコルド効果」であるとか「認知的不協和」という「認知バイアス」に陥り、正しい判断ができなくなる場合があることについてはこのブログでも幾度か取り上げている。
あのリコール後の改選で減税日本は「議員の総入れ替え」と訴えた。「せっかく議会リコール成立!ここでしがらみで現職入れたらなんともなりませんよ」とも言われた。それなのに来る選挙に、そのリコール対象となった議員を推薦するというのだ。これが「しがらみ」でなくてなんなのだろうか。
そんな事は細かい事だろう。
減税日本ナゴヤの市議たちは「一年生議員不慣れだ」が「一所懸命やっている」と言っているが、これですでに4年が経った。大学なら卒業する期間だ。そもそも「多選禁止」を言っているのだから「4年程度では議員の仕事ができない」などとは言えない筈だ。もし「4年程度では議員の仕事は覚えられない」と言うのであれば、同時に「多選禁止」を言う事は「議会を仕事もできない議員ばかりにする」という事ではないか。つまり図らずも、議会を市政も判らず市議会で仕事もできない素人ばかりにして、行政や市長の思い付きや過誤をチェックもできない存在に貶める事になるだけだ。
その傍証がこの委員会でも露見した。
一か月の議会空白のリスクを認識しているのかという問いかけに減税日本ナゴヤの委員は「議会が無いと災害が発生した際の救助や食料の手配ができない」というような回答を行った。勿論、災害発生時には行政は定められた要領、要綱に従って救助や食料の手配は行う、また専決権も認められている。予め予想される定型的な事柄への対応は、行政が迅速に自動的に行うようになっている。問題はこういった行動に民意や現場の声が届きにくいという事なんだろう。
これが議会空白のリスクだ。
昨夜地震が有った。
本当に、この一か月の議会空白の間に、この名古屋に3・11東日本大震災や1・17阪神大震災のような災害が発生したとしたならば、選挙など正常に行えるのだろうか。そんな事をしている場合ではなくなるかもしれない。
あの3・11の発災直後、津波警報が出ている中、港の堤防に上って海の様子を眺めていた危機意識の欠如したバカも居た。ヒトの不幸を願ってはならないが、あのまま波にでも飲まれて流されてくれれば今にある様々な問題も海の底に流れて行ったのだろうけど。
さて、この議論。図らずもこの議論自体が減税日本ナゴヤの問題点を改めて浮き出させる事となってしまった。その顛末は後篇に続きます。