突然の衆議院解散で色々と思惑が狂っている。
なんでも印刷業界は大変な騒ぎのようで、選挙に使われるポスターなどは両面テープで裏打ちして納品されるそうだが、こういった両面テープを貼り付ける作業は手作業で行うらしい。この年末になって手作業の手が足りず、工賃が三倍に跳ね上がったそうだ。
確実に「アベノミクス」の効果*1が表れている。
我らが名古屋が誇る地域政党である減税日本も候補者を擁立して国政への橋頭保を築こうとしている。*2
愛知一区に立候補した広沢県議は、現選出区の瑞穂区から西区に立候補地を鞍替えしようとしていたそうなので、この愛知一区での立候補は、西区の有権者に対するアピール、「事前運動」ではという観測が為されている。
確かに、単純に「選挙」という行為だけ考えれば、事前に国政選挙に打って出ていて、その後に県議選に立候補するというのは「名前を売る」行為になるかもしれない。
しかし、当然国政と県政では政治的課題が異なる筈で、県政だの国政だの、そしてはたまた市政だのと立候補対象を見境なく替える行為は、いったい政治というものをどう捉えているのか、単なる「票取り合戦」と考えているとしか思えない。
そうした中、減税日本から新たな立候補者が出てきた。
衆院選:減税日本、愛知3区に増田成美氏が立候補へ
毎日新聞 2014年12月01日 11時41分(最終更新 12月01日 11時53分)2日公示の衆院選愛知3区(名古屋市昭和区など)に1日、新人の増田成美氏(41)が、地域政党「減税日本」(代表・河村たかし名古屋市長)の公認候補として立候補すると表明した。増田氏は「弱い者を助ける減税日本の思いを広げたい」と語った。同党による衆院選への候補者擁立は2人目。
http://mainichi.jp/select/news/20141201k0000e010141000c.html
この増田成美なる人物は前回の選挙で未来の党から愛知8区で擁立されている。
そして8月4日に発表された減税日本の緑区選出市議候補予定者でもある。
つまり、愛知8区で衆議院を狙い、来春緑区で名古屋市会に立候補する予定の者が、この度の総選挙で愛知3区で立つわけだ。勿論、愛知3区は昭和区、天白区、緑区を選挙区として持ち、広沢候補同様、「本戦」である来年の統一地方選挙の前の「事前運動」としての効果は抜群*3だろう。
同じ緑区の市議候補予定者とされた現職の余語市議は、増田候補のこの選挙運動にどのようなアプローチをするのだろうか?
なんとなく、ここでも減税日本、河村市長の制度設計の稚拙さが見える気がする。
既存政党が国政候補と地方選挙の候補を分別するのは、立候補の大義名分もさることながら、組織を維持するためにはしっかりとこれを分別しておかなければ、諍いばかりが起こるからだろう。確かに、減税日本は弱小組織で、ほとんどその実態は無いかもしれない。
それでもそれを組織として拡大させようとした場合に、こういった「思い付き」のようなアイデアを現実に移すというのは稚拙に過ぎる。
もう一つ、実はすでに減税日本の街宣車は走り回っている。
「今日は、河村たかしです。税金を1円でも安くする減税政策を、広沢をよろしく」
というような広沢候補(予定者)の名前1回に、河村たかしの名前が5回ぐらい出現する録音を流している。
1. 税金を1円でも安くする減税政策。
12/14衆院選向け公約発表 | 減税日本
2. 脱原発。イノチを大切にする。
3. ナゴヤをとにかく盛り上げる。
4. 河村たかし名古屋市政を国政に。パブリックサーバント(公僕)の政治。
5. 愛知1区、減税聖地奪還。
6. 税金を払う人が苦しみ、税金で暮らす人が楽をする政治をひっくり返す。
6項目あるように見えるが、結局減税と脱原発以外は何も言っていないに等しい。
更に面白いのは増田候補(予定者)の発言だ。報道にはこうあった。
「弱い者を助ける減税日本の思いを広げたい」
何が「弱い」と言っているのだろうか?
社会的弱者を減税日本が助ける?
ふざけた事を言ってはいけない。
税のもつ富の再配分を否定し、納税が<できる>という社会的強者に対して有利な政策が「減税」政策である。
逆に、減税政策では納税<も>できないような貧困層には恩恵は無い。
減税日本の政策が「弱い者を助ける」ような事は無い。
全く逆だ。
まあ、それも判らないような「弱い」ヒトだから減税日本から選挙に出られるんでしょうけどね。
実はこの選挙で「減税」を打ち出している政党がある。幸福実現党だ。
幸福実現党 - The Happiness Realization Party
実はこの党について面白い話を聞いた。
幸福実現党は、新・新宗教と言われている「幸福の科学」の政党活動である。
宗教団体としての「幸福の科学」は宗教団体として、信者獲得の為に明確な「マーケティング」を行っているという。
つまり幸福の科学は「貧乏人を相手にしない」そうである。(あくまで「噂話」)
「幸福の科学」が対象とするのは地主や企業を引き継いだ2代目、3代目であるそうだ。
こういった富裕層は心の中にわだかまりを持っているという。つまり、この不況下で皆が苦労する中、自分だけが親から引き継いだ財産を得て幸福に暮らしている。自分だけこんなに幸福で良いのだろうか。こうしたうしろめたさがあるのだという。
そうした人々に「幸福の科学」は次のようなメッセージを与えるのだそうだ。
「お金持ちに生まれてきたのは、前世で善い行いをしたおかげである。今の世でお金持ち、恵まれた環境に生まれた事を後ろめたく思う必要はない。ヒトは善行を積めば、生まれ変わるたびに恵まれた環境を得る事ができる」
「だから、今生でも良い行いを積むべきだ(=お布施頂戴)」
つまり今、恵まれた生活ができるのは、前世の自分の行動によるもので、後ろめたく思うことは無い。そのように恵まれているというコンプレックスなど持つ必要はない。恵まれた環境に生まれた人に、自分自身を肯定する「論理*4」を与えることによって信者を獲得しようとしているというのだ。(あくまで「噂話」)
「幸福の科学」が富裕層をマーケティングのターゲットにしているとすると、「減税政策」を訴える事は整合している。「減税政策」によって恩恵を受けるのはまさに富裕層であり、彼らが言う「善行を積んだ人々」なのだから。
河村たかし率いる減税日本はこのマーケティングという観点からもズレている。
減税で恩恵を受ける富裕層は、河村たかしが見せるような偽物、偽悪的な名古屋弁には親和性はない。また彼が言う「庶民」という概念とも整合しない。
つまり、悲しいかな減税日本は幸福の科学、幸福実現党よりも政党としての戦略が稚拙だという事だ。河村市長は常々「減税政策が日本中に広がらないのは何故だ」と言っているが、ちゃんと「減税政策」はそのターゲット層にリーチしている。河村代表がターゲット層を見誤っているだけだ。
増田候補(予定者)は減税政策が「弱者」の為と思っているようだが、これはまんざら嘘ではないのかもしれない、本気で見誤っている可能性がある。ひょっとすると河村代表自身も見誤っているのかもしれない。減税政策について真摯に研究せず、強弁と言い逃れに終始した挙句、自らが自らの発言に自縄自縛になり、騙されているとすれば戯画以外の何物でもない。
さてさて、この減税日本の話は置くとして、こうした方針で主張を続ける幸福実現党はなぜ議席を確保することができないのか。それはたぶん、彼等にとって議席を獲得することは目的ではないからだろう。彼等にとっては今生で善行を積むことが目的だからなのだろう。*5
ただ、幸福の科学のこうしたマーケティングから外れた貧乏人として言わせていただくとすると、この考え方には全く与することができない。
前世で善行を積んだ人間が生まれ変わって今生で恵まれた環境を得る事ができる。とすると、今生で貧乏人は前世の悪行の報いという事になるのだろうか?
ハンディキャップを持って生まれた人間もやはり前世の因縁によって、それを甘んじて受け入れねばならないとでも言うのだろうか?
輪廻転生の概念を肯定する日本文化には、貧困やハンディキャップに対して、古くからこういった「オカルト自己責任論」が存在する。
そして、こういった考え方が格差の拡大や、社会的弱者への切り捨てを肯定する推進力を持つ。その前提が誰も見た事のない「輪廻転生概念」なのだから困ったものだ。
今、日本で静かに進行している格差の拡大と肯定、「セレブ」というような言葉に代表されるような社会的な軋みへの無理解。「引下げデモクラシー」やら「反知性主義」の蔓延。更にはヘイトスピーチなどにみられる排外主義(民族差別も「輪廻転生概念」を肯定すると正義となりかねない。「彼らは前世の因縁で被差別階層に生まれ落ちたのだ」という論理が成立してしまう。私はこんな考え方には断固として否定をする)
これらの根は同じ所に繋がっている。そしてそのあだ花の一つが河村代表の率いる減税日本なのである。