本日も23日(月曜日)の市長会見について問題点を指摘する。(というか、既にタイトルに結論は書いてしまったわけだけど)
本日の中日新聞(県内版)に「名古屋市長会見詳報」として会見の様子が一問一答形式で掲載されている。大見出しは「愛知1〜5区必ず擁立」と、衆議院議員選挙で減税日本が名古屋市の全選挙区に候補を擁立するという話が選ばれているが、そんな事はどうでもいい(※1)
守山区の守山市民病院に関するやり取りは、この記事によると次のようになる。
―東部医療センター守山市民病院(名古屋市守山区守山)を民間譲渡する方針に関し、市民から不満が挙がっている。
「民間の方が、かえって医療サービスは充実するんでは。民間だから公益性がないというのはおかしい。(譲渡は)何だかんだと文句ばかりの現状よりも市民の皆さんのためになると思ってのこと」
(中日新聞平成24年1月24日 朝刊「名古屋市長会見詳報」より)
これらのやり取りについての、実際の会見の様子を取り出してみました。
名古屋市:平成24年1月23日 市長定例記者会見(市長の部屋)
から見られる「記者会見動画」のおよそ41分程度経過した時点から3分ほどです。
"名古屋市病院局「東部医療センター守山市民病院の今後のあり方に関する説明会」” において「減税をするのなら、その予算を守山市民病院の存続に振り分けて欲しい」「名古屋城を木造化するお金があるのであれば存続を」「民間譲渡に不安がある」というような声に対して、民間でも命に係る大事な仕事をしてる。焼肉屋が生肉を出したり、ふぐ料理だって民間で出すから、民間だからと不安がる必要は無い。(※2)
というような話なんでしょうかね?
河村市長は「不安」の意味を「民間病院では公的病院ではないから市民は医療の質として不安を持っている」と思っているようだが、これは違うだろう。勿論、民間病院でも医療を提供されるのであれば、安心して受診できるように医療関係者を揃えたり、資材は準備されるだろう。
市民はそんな事を心配しているのではない。
まず、現在の診療科(現在でも縮小されているが)が存続できるのかという不安があるのだろう。民間病院であれば勿論採算によって診療科は選別されてしまう。コストがかかり、利益に結びつかない小児科や産婦人科(既に無いが)が蔑ろにされるのではないかと不安を感じているのだろう。
さらに、市がこれまで経営して、結局赤字体質を改善できなかった。ここで民間に譲渡しても、病院としてどの程度存続させることができるか市民には見えない。
一時は、介護老人ホームなどへの転用も噂に出たようで、そうなればいよいよ医療施設としての安心はなくなる。
河村市長は論点をはぐらかしているだけで、市民の抱える問題点に応えていないだろう。
そもそもこの問題は所謂「医科大学における医局制度」(※3)の問題も関連しているのだろうと思う。私が見聞きしている範囲では、大学側が医師を確保しなくなって、公的病院などでは人事政策が流動的になっているようだ、この守山市民病院もそういう流れの中から、医師にとって人気が無くなったようだ。
そのような中で、3年前に「緩和ケア」に特化すると言う方針で設備投資もしたが、本質的な医師確保にまでは至らなかったようだ。(この設備投資も今回の批判の対象となっている)
つまり医師不足が問題の根底で、医師が不足するので、医師に対する過重労働状況となり、それがまた医師不足を助長する。また、医師不足のあまり診療科が維持できなくなり、それが来院者数の減少、稼動病床数の減少にも繋がった。
更に、そのような状況であるにも関わらず、名古屋市が東部医療センター、西部医療センターへ「経営資源の集中と選択」を打ち出しているために、地域医療としての守山市民病院の医師にとって希望が保てなくなった。これも、医師不足を助長した。(※4)
ここで「民間であれば」柔軟に、条件を変更するだろう。つまり早い話が守山市民病院勤務の医師だけ条件を上げるわけだ(これも、行われたようだ)
しかし、こういった悪循環に陥った際には、大胆にインパクトをもって対策を取らなければならない。結局、循環を断ち切ることができずに、ここに至るという事なんだろう。
今回の「市民に対する説明」も、既に民間譲渡が決定してからの「事後説明」的な会合になってしまい、市民から理解を得るのが大変なのかもしれない。
または、譲渡する民間に対して河村市長が言うように、何も心配要らないような条件でも提示するのだろうか?
そんな条件を呑んでまで参入する民間資本は無いかもしれない。
昨日のエントリーにコメントいただいた方が指摘されていた。
神野直彦東京大学名誉教授などが言われていることで。ヒトの欲求には、二つの種類がある。すなわち「ニーズ(基本的必要)」と「ウォンツ(欲望)」で、「ウォンツ(欲望)」については、個人が民間セクタから自由に、市場原理によって欲求を満たせばよい。しかし、「ニーズ(基本的必要)」については市場原理に任せてしまうと歪が発生する。本来必要とされる人々の手に届かなくなったり、特定の一部のヒトだけに過剰に供給されたり、酷い場合には供給する送り手自体が市場原理に駆逐されてしまうことも考えられる。
この守山市民病院も、市が経営するとすれば赤字であろうと存続して、災害などの際には心強い社会的基盤となる。しかし、民間譲渡して市場原理の中に投げ込めば存続自体が無理かもしれない。
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様々な公共サービスは全てそうなんだが。そもそも「黒字」にする必要は無い。
特に、病院は「黒字」になるほど周囲の人口が増え、医療ニーズが高まっているのであれば、それこそ市場原理から民間の病院が新しい病院を開設するだろう。
民間でできないことだから公的セクタが行う価値がある。
そして、ここで出される「赤字」はすなわち地域に対する公的な補助と同じ意味を持つ。
これは、公的交通機関が、赤字路線を存続させる原理でもある。
それこそ、守山の様に、他に公共交通機関が無い地域における公的交通機関(具体的には市バス)は、それが赤字路線であっても存続させる意義がある。それが「基本的必要」であったり、「人権的必須事項」であれば、なおさらだ。(※5)
※1:しかし、候補者になるという方。徹底的に調べさせていただきますからね。
http://genzeinippon.com/%E6%9C%AA%E5%88%86%E9%A1%9E/%E6%AC%A1%E6%9C%9F%E8%A1%86%E8%AD%B0%E9%99%A2%E8%AD%B0%E5%93%A1%E9%81%B8%E6%8C%99%E3%80%80%E5%80%99%E8%A3%9C%E8%80%85%E5%8B%9F%E9%9B%86%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6 なんでしたら、 手間を省くためにこちらにも同じ書類を送っていただけませんかね?
当方でしたら個人情報を漏洩させることはありませんよ。
※2:守山区の会合ではその他にも。
庄内川で区切られている地域の医療を考慮すると、守山市民病院の存続意義はあるのではないか?等の意見も聞かれたらしい。
参照サイト: わたしの守山市民病院ものがたり
※3:小説「白い巨塔」の頃(原作の雑誌連載は1963年に始まっている)から考えると、既に半世紀ほども昔に指摘された問題である。
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一定程度しか医師の給与を確保できない公立病院にとっては、医師の確保を大学に頼れるという利点があった。大学(指導教授)から見ると「系列病院」を押さえることで、様々なポストが確保できる。
こういった因習的な関係性から来る不条理を描いたのが「白い巨塔」の一面だった。
最初に映画化されたときには、当たり役田宮二郎が財前教授を演じていたが、なんと白黒だった!
※4:この「選択と集中」というのは「効率化経営」の一つの指針であるが、巨大システムや公的セクタには必ずしもそぐわない。
特に、医療においては、災害などの異常時を想定しなければならないはずだ。
そういった際には、社会的インフラの多重化(絶対に平時には非効率になる)が必要であろうし、分散が必要となる。
特に、守山市民病院存続を求める市民の声にあるように、名古屋の中で高台にあり( "名古屋海抜地図" )地盤も固い守山に、市立の総合病院が置かれる事には意味があるかもしれない。
※5:この「必要」に対する「重み」の相違というのが、単純な多数決では語れない、少数意見の尊重という、民主主義存続のための条件となる。
圧倒的多数が求めていようとも、その少数者にとって絶対に必要な生活の基盤、人格的条件であれば、この少数者は多数者の意見(多数決)に従う必要があるだろうか。
ない!
断じて、ない!
逆に、多数者が、少数者の絶対的必要や人格的条件を押しつぶし、取り上げるような社会は、その社会の在り方自体が間違っている。判るか! M!
(まあ、判らないからいつまでも●●連に絡んで河村氏を支援できるんだろうけどね)