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一人の名古屋市民が「地域委員会制度」「減税日本」に対する疑問をまとめるサイトです。(since 2011/3/3)

集団免疫閾値:HIT

木村正人氏が英国のジョンソン首相の発表を伝えている。

www.newsweekjapan.jp


いわゆる「集団免疫」の方針を打ち出した、少々衝撃的な発表に「『不都合な真実』をあなたは受け入れられるか」と述べたものである。

記事の内容は、その元ネタである英インペリアル・カレッジ・ロンドンMRCセンターの感染症数理モデルに基づくシミュレーションに準じていて、翻訳にもおかしなところはないし、その理解や主張も妥当なものだ。

https://www.imperial.ac.uk/news/196234/covid19-imperial-researchers-model-likely-impact/


主席医務官と政府首席科学顧問を両側に座らせて、国民に厳しい予想であろうと、直截に語りかけるジョンソン首相の態度は、非常に立派なものだ。
ブレグジット騒動では、単なる扇動家とも思っていたが、やはりいっぱしの政治家であり、リーダーであることを印象づける。

ただ、英国内でも「集団免疫」の方針については批判が起こり、軌道修正しているようだが、そうした中でも、毎晩国民の前に出て説明をしているようで、やはり、立憲君主制国家、民主主義の在り方について、彼我の差を感じさせる。

正直、安倍首相の2度の記者会見については精神論に終止している印象であり、日本社会の悪癖である「由らしむべし知らしむべからず」という方針に従っているように思える。具体的な最悪の見通し、覚悟についても聞こえないし、予定された限られた質問だけを受けつけて、さっさと引き上げる姿は説明責任を果たしたという「アリバイ作り」をしているだけに見え、国難に対処しているという姿、国民に理解を求めるという姿には見えなかった。

また、その後のG7テレビ会議後の記者会見では、本来あったであろう、各国の協調的な疾病対策や、危機に瀕している経済状況についての話題ではなく、注目のポイントが「東京オリンピックの開催」と来ては、果たして安倍首相の目には、この状況が正しく写っているのかと思ってしまう。

国民にとって COVID-19 の先行きの見通しや、それに関連して崩壊を見せている世界経済の先行きが課題であって、オリンピックなど二の次、三の次なのではないのだろうか?

追記:その後、このG7におけるオリンピックの扱いについて、トランプが内情を暴露したようで、安倍首相の説明に疑義が呈されている。こんな危機の際に、こんな(ハッキリ言ってどうでも良いような)案件で、リーダーの信頼が揺らぐのは、そちらのほうが問題だ。安倍首相もそこそこ脳内変換がかかる人で、それはトランプにおいても引けはとらないのでどちらの言い分が正しいのか判らないが、それって結果的に鼎の軽重に関わっている気がする。

日頃から、国家の危機とか威勢の良い事を言っているが、北朝鮮からの飛翔体に大騒ぎしたあの「危機管理」への意識は、眼前に広がるパンデミックの危機には反応しないのだろうか?


ある記事に「国民が政府の発表を信じなくなった」と書かれていたそうだが、日本の社会は昔から、実政治と国民社会は遊離している。
政治を司るものは、国民を信頼せず、先にも述べた「由らしむべし知らしむべからず」という方針に従って本当の事を語ろうとしない。
国民も、そうした政府の実態を知っているので、最終的には政府(幕府)など頼まず、自助努力を模索する。または、きっぱり諦める。

この国は、「王を殺したことがない」と言われる。
国民がどんなに困窮しても、時の治世者を殺して、世を変えようとした事がない。王を殺せるだけの政治哲学(または政治イデオロギー)を打ち立てたことがないのだ。困窮すれば逃散など逃走をして、社会から脱落してきたのだろう。また、それで十分生きていける豊かな環境だったのかもしれない。

なので、国民は政治権力と本気で対話をしようとしないし、政治権力を持ったものは、本気で国民と対話しようとしない。
政治権力を持った者は、聖なるものであり、その言葉には言霊があり、その霊性に頼って民草は生きていく。
「由らしむべし知らしむべからず」ということなんだろう。

もう、21世紀だが。

まあ、そんな愚痴はどうでもいい。

この記事、そして英国の数理モデルに基づくシミュレーションの要諦は、この記事にある次の「事実」だ。

集団免疫宣言には筆者も驚いたが、戦いが始まる前にベースラインを示しておくことは不可欠だ。最初に楽観的な見通しを示すより、国民に正直に「不都合な真実」を知らせておかなければならない。これは未知のウイルスと人類の英知と人道主義をかけた"戦争"になるからだ。

英政府の行動計画は英インペリアル・カレッジ・ロンドンMRCセンターの感染症数理モデルに基づく。同センターは1人の感染者から生じうる二次感染者数を示す基本再生産数を2.6と推定する。集団免疫獲得のために必要な免疫保有者の割合を集団免疫閾(しきい)値と言う。

(1- 1/基本再生産数)×100の簡単な式で計算できるので2.6を入れて計算すると閾値は61.5%という答えが出てくる。同センターは致死率を1%弱としているので。どれだけ犠牲者が出るか誰でも試算できる。

6644万人(英国の人口)×61.5%(閾値)×1%弱(致死率)=約40万人が集団免疫を獲得するまでに亡くなる。これが新型コロナウイルスを巡る「不都合な真実」だ。医師や統計学者なら誰でも知っている事実で、一般市民に隠す方がおかしい。

新型コロナ「不都合な真実」をあなたは受け入れられるか | 木村正人 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト


この「集団免疫」を獲得する「閾値」 61.5% (集団免疫閾値(HIT:herd immunity threshold))を求める式についてお話をしたい。

よく「数学なんて社会でなんの役に立つんだ」などという人が居るが、これって全く逆で、社会は数学で回っている。舞台に立っている自分が知らないだけなんだ。こうした数式を理解できれば、社会の在り方をもっと深く理解できるし、そこから新たな気づきも得られる。

「数学の目」を鍛える事には意味がある。

とはいっても、この「数学」はそれほど高度な話ではない。中学校レベルで理解できる話だろう。

まず、この文章の中で大切なポイントは「基本再生産数」になる。これは「R0」とも書く。読み方は「アールノート」と言う。
文章にもあるように「1人の感染者から生じうる二次感染者数を示す」つまり、1人のヒトが何人にうつすのかということだ。

この値が1であれば、一人が一人に移して順番に回っていくということになって、患者数は均衡する。増えも減りもしないということだ。
この値が1よりも小さければ、例えば0.5であれば、一人の患者が回復した頃に、0.5人の患者が生まれるということで、だんだんと罹患者は減り、疫病は終息していく。

逆に、1よりも大きければ、一人が二人に、二人が四人に感染が広がるということになる。

今回の COVID-19 はこの値が 2.6 程度と見込まれている。ほかっておけばどんどんと感染は広がっていく。
(日本においては、この値が低いために、幸い感染者が爆発的に増えていない)

ありがたいことに、人間には免疫力がある。ウイルス疾患にかかった場合、人間はウイルスに対する免疫を獲得することができるために、2度めの罹患は軽度にすむか、罹患を免れる。(もちろん、ウイルス疾患によっては、罹患者が免疫を獲得する前に死に至る性質のものもある)

今、全国民の中で一定の人間が、免疫を持っていれば、その感染は広がらないか、広がりづらい。

R0 が、一人が何人にうつすのかという値であり、
国民の中の一定の割合がうつらないとする。と、すると逆に、一定のうつる対象者の比率というのも考えられる。
この比率をSで表してみる。

R0 × S =1
(Sが100%であるなら、R0 が 2.6 なので R0 ✕S=2.6 となる)

追記:
この「S」が解らない。 というご意見を頂いた。
こう考えてみるのはどうでしょうか。

基本再生産数 R0 が 2.6 でも、その「全体の中で一定の罹患しない人」がいれば再生産数を1に抑え込むことができる、この罹患しないヒトの割合をSと捉えてみる。ということです。再生産数を1にすることのできるマジックナンバーをここでSと置いてみて、それが「集団免疫閾値:HIT」と呼ばれるということです。


となると、ちょうど、感染の広がり(R0)と、対象者の比率(S)が掛け合わされて、1になるわけで、これなら一人から一人しか感染せずに、罹患者は増えも減りもしない。


今、免疫を持つヒトの比率を Pとすると。
この S というのは(1-P)とみなせる。

全体から、免疫を持っているヒトを引いた比率が罹患対象者Sとなる。
なので、先の式にこれを代入してみると。

R0 ×(1-P)=1

であれば、感染者は増えも減りもしないということになる。

式を変形していく。

1-P=1/R0

-P=1/R0-1

P=-1/R0+1

P=1-1/R0

文中に出てきた「(1- 1/基本再生産数)」が求められる。

先程の R0 = 2.6 を代入してみる。

P=1-1/2.6

P=1-0.3846

P=0.6153

比率なので、100をかけて「%」としてみる。

P=61.53%

つまり、社会の中で 61.5%以上 のヒトが罹患し、免疫を獲得できれば、社会における増加傾向は1を下回り、疾病は終息に向かう。


もちろん、この「集団免疫」が成立するまでには、英国においては約40万人の、これが日本であれば倍の80万人の死者を出してしまうことになる。

数字は厳格な事実を示すが、それを受け取るには、不都合な事実でも向き合うことができるだけの、事実に対する謙虚な姿勢が必要になるのだろう。

自分に都合のいい事のために、嘘ばかり並べているような者には、こうした事実に向き合いことはできない。