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私家版「神々の山嶺」

私家版「神々の山嶺

映画「エヴェレスト 神々の山嶺」が公開されている。

 エヴェレスト 神々の山嶺 | アスミック・エース

 原作は夢枕獏の名作で、谷口ジロー氏がマンガ化してこちらも素晴らしい作品に仕上がっている。

 映画化にあたって残念ながら危惧が当たってしまった。

 まったく残念。

 敗因は幾つかある。
 日本映画に特徴的に感じられることだが、限られた尺に長いエピソードを詰め込みすぎて、冗長になる。ハリウッド映画などのうまいところはそういった問題を映画の中の時間を数時間から、せいぜい数日に制限することでストーリーの緊張感を持続させている。確かにあとから考えてみればできすぎたプロットに思えても、映画の中にいる間は違和感なくストーリーにのめりこめる。

 この映画も尺が足らないのであれば「マロリーのエピソード」を割愛しても良かったのではないかと思えてならない。(特に、最後に「ああいった扱い」*1をするのであれば、逆になぜマロリーのエピソードがあったのか理解に苦しむ。原作ではマロリーのエピソードは重要な物語の駆動力だったが、映画の尺ではそれが必要だったとは思えない)

 そしていま改めて公式HPを見ても思う事だけど、「標高8,848M、氷点下50℃、極限の世界に挑む」とうたわれているけれども、残念ながらまったく極限感が伝わってこない。素人の私ですら知っている「デスゾーン」の緊迫感が描かれていない。映画館で私の前の席に座ったバカカップ*2の女性は眠っていたようだが、「デスゾーン」の「ルール説明」が無ければ何が起こっているか理解できないだろう。まるで阿部寛岡田准一が裏山で遊んでいるように見える。


 そして、これが大問題。この平山という監督の最大の弱点なんだろうか。
 女優が一瞬たりとも輝いて見えない。この女優についても尺が足りないのであれば出す必要すらなかったのでは?

 以下、暇*3にあかせて書き記した「私家版」の映画用プロット。

(ネタバレを含みますので、映画を楽しみたいという方は視聴の後にでもどうぞ)


 深町は民放の下請け制作会社のディレクター/プロデューサー、プレモンスーン期(4月〜5月)の番組企画の為に現地に入って調整をしている。(この企画自体は、アイドルの女性集団をエヴェレストのベースキャンプ(それでも標高5300m)まで連れていくというようなどうでもよいようなもの)

 そこでシェルパの中に日本人が居ると聞く。それが羽生だ。

 羽生は高地シェルパとしてエヴェレストアタック隊に随行し、資金と機材、ルート調査に当たっていた。

 深町は話を聞き羽生に興味をもって接近を図ろうとするが拒否される。

 このプレモンスーン期に、頂上アタックを目指す日本からの遠征隊が訪れ、ホテルで交歓会が開かれる。この席で深町は羽生の話を披露する。この遠征隊に参加していた長谷の耳に入る。

 長谷の希望で深町は羽生の家を訪れる。
 そこで羽生の装備を見た長谷は羽生の真意を正す。
 しかし羽生は真意を語らない。
 真意を語れば自分が不法入国である事が広く知られることになるかもしれず、また入山料を求められるかもしれないからだ。


 長谷は深町に「羽生は厳冬期南西壁、無酸素単独登頂を狙っている」と告げる。
 深町はこれがどれほどの事かは理解できる程度には山を知っている。


 深町は日本の関係者にこの事を告げ、取材を促す。

 同時に羽生にも交渉を持ちかける。

 同行取材をさせろ、取材費を払う。不法滞在の処理も入山料も取材で賄う。
 不法滞在や密入山をしてアタックが成功しても広く伝えることはできない。

 それならば同行取材を認めて偉業を知らせた方が良いではないか。

 羽生は逡巡しながら同行取材を受託する。
 (実は、この逡巡の最大のネックは羽生が同行する取材者が死ぬことを恐れたから)

 羽生は「自分が逃げ出さないように自分を撮れ」と震えながら言う。
 (羽生自身も恐ろしいのだ)

 夏、深町は日本に戻り取材の準備を行う。
 自分自身の訓練、また同行取材の計画、数人の日本人サポートクライマーを引き連れる。

 (深町が単独で同行取材というのは後のプロットで無理が出る。同行取材はチームで行う事にする)


 ポストモンスーン期(9月〜10月)も過ぎ、冬期エヴェレスト。

 同行取材班は先行してベースキャンプに向かう。取材クルー、サポートクライマーに現地シェルパを加えた集団は厳冬期のベースキャンプに入り、一月程度かけてそこからルートを工作する。
(同行取材のイニシアチブは深町から民放の社員に移り、深町はクルーの中でも孤立していく)

 厳冬期では天候が悪く、ルート工作も捗らない。
 無理をすればすぐに事故につながる。

 羽生のルートに合わせて取材陣の最終キャンプは灰色のツルム、7600m地点。

 アイスフォールからこの最終キャンプまでルートを工作し、ここと軍艦岩直下、6900m地点。南稜線、頂上を撮影できるポイント(6500m)の3点に高高度取材キャンプを設営する。

予定ではこの各キャンプに3人が10日程度滞在できる食料と酸素を荷上げする予定だったが、3日分しか荷揚げできずにいた。

やがて羽生がベースキャンプに。
2週間ほどの天候待ちの末、12月中旬。アタックが始まる。


 羽生は単独行のルールを守るため、工作ルートを使わず、アイスフォールから独自のルートを登る。同行取材班は先行して工作した取材ポイントから羽生を撮影する。


 羽生の第一キャンプウェスタンクーム、6500m地点で天候が崩れる。3日の天候待ちの為に深町は羽生に中止を告げようとするが羽生の気迫の前にできない。

 3日遅れで第二キャンプである灰色のツルムまでの登攀が始まる。
 酸素を持っている深町と無酸素で活動する羽生。

 さしもの羽生も動きは鈍く、判断も危うくなっている。
 深町は何度も手を貸そうとするが羽生に撥ね付けられる。


 灰色のツルム。テントを設営できる空間が限られているため、同行取材班のテントと接するように羽生のテントが設営される。深町はここで羽生の食料が尽きかけている事を知り、チョコレートと干し果物を羽生のザックに潜り込ませる。


 翌日、羽生はロックバンドへ、深町はその姿を撮影し終えるとウェスタンクームまで下り、南陵の撮影キャンプまで移る。

 翌日、羽生は南西壁核心部、イエローバンドを登攀する。その姿を深町はカメラに収める。


 やがて雲がその姿を隠す。それから天候があれる。
 2日、南陵の撮影キャンプで釘付けになった深町。ベースキャンプにも羽生が下りてきたという情報は入っていない。

 天候が回復して、ベースキャンプから深町には即座に下山するように指示が出される。
 しかし、深町は羽生を探しに登ってしまう。

 天候が悪化し、酸素も尽きかけたその時、奇跡的に羽生の遺骸と出会う。


 羽生は単独行を貫くために深町の渡した食料には手を付けなかった。
 そして深町のメモを見つける。
 深町はそれらを受け取り、羽生に語りかける。

 「羽生よ、俺は行くぞ
 おれは必ずノースコルまでたどり着いて見せる
 必ず生きる

 いいか羽生よ
 羽生の魂よ

 お前は成仏なんかしていないんだろう
 今でも歯ぎしりをしながら
 この山巓のどこかで眼を尖らせているんだろう

 いいか羽生よ
 俺に憑りつけ

 俺に憑いて
 おれについてこい」




 そして羽生のメモ

「さあ、立て
 たちあがれ

 体力が
 ひとしずくだって
 のこっているうちは

 ねむるなんて
 ゆるさないぞ

 ゆるさない

 足が動かなければ 手であるけ
 てがうごかなければ ゆびでゆけ

 ゆびが動かなければ
 歯で雪を ゆきをかみながらあるけ

 はもだめなら 目であるけ
 目でゆけ 目でゆくんだ

 めで にらみつけながら あるけ

 めでも だめだったら

 それでも なんでもかんでも
 どうしようもなくなったら

 ほんとうに ほんとうに

 ほんとうのほんとうに
 どうしようもなくなったら

 もうほんとうに
 こんかぎり あるこうとしても
 だめだったら

 思え

 ありったけの
 こころでおもえ

 想え ―」


*1:ネタばれしないように

*2:上映中、彼氏がボソボソ彼女に解説していた

*3:ある事情があって、待機状態が続いていたのですよ