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7月30日の補足説明

7月30日のエントリー「7.30 A.A.K. 行動報告」について。
「8000Bq/kgの値が基準値として算定された根拠について政府答弁は回答を示していないのではないか」という質問をいただきました。

 この質問への回答を記述する前に、その前提となる「教育」特に「大学教育」について少々述べたいと思います。
 例えば小学校や中学校などの教育においては、子供たちに与えられる課題は必ず教科書などの教材の中に答えがあります。(例えば、計算問題であれば、その直接の答えは記述されていないかもしれません。計算問題は値のとり方で問題自体が無限のバリエーションを持つのですから、すべての解答を予め記述する事は不可能ですし、無意味です。しかし、解法は必ず記述してあるはずです)

 こういった義務教育や、高校、専門学校においても、ある程度の教科においては「絶対の正解」が用意されており、それは有限であるのでカリキュラムの中の課題に対して、教材で必ず解答が得られるように配慮されています。

 この概念は非常に大切で。別の機会でも触れると思うので良く覚えておいていただきたい。「一部の知識領域においては<絶対の正解>が準備できる。<絶対の正解>があるものは説明の記述が有限範囲で可能」
 これの逆は「一部の知識領域においては<絶対の正解>が決定できない。<絶対の正解>が決定できない領域では有限の範囲で説明が不能、決定も説明不能なら、決定の否定も説明不能
 この決定不能領域の話題を、あたかも決定可能であるように語る人は、その「決定不能性が理解できていないだけ」の事が多いと思われます。(※これは、重要なドグマです)

 話題を「教育」に戻しますが。「大学」における教育の在り方は、それまでの学習の在り方とは異なり、こういった「未決定の問いを立てる」という作業でもあるわけです。(※本当に、大学在学中に「未決定の問いを立てる」事ができれば、たぶんあなたは立派な研究者です。大学における教育はそこで「成功」と言えるでしょう/その「未決定の問い」に対して回答が得られるか否かは副次的な問題ともいえます)

 また、予め「正解」を準備できるような領域というのは学問領域の中では非常に狭い範囲でしかありません。人間の営為は、この決定可能領域を少しでも広げていこうとする行為だろうと思いますが、その時に大切な事は「先人はどこまで領域を広げたのだろうか」という最前線の見極めが重要な意味を持ちます。
 これが「参考文献」が重要となる理由です。一つの知見を表明する際に、「参考文献」を明示する事は、その知見がどのような既存の知識を元に述べているかを示す働きがあります。

 であるので「参考文献」として挙げられている既存の知見が不幸にしてすでに否定されているものであるとするならば、そこから発展させた当該文書も、残念ながら否定される事となるでしょう。

 また、「学ぶ」という姿勢。つまり、自己の意見、アイディアを表明する際に、先人たちがその「意見」「アイディア」に対してどのようなアプローチをしたか学習する事も重要なのです。すでに先人が同じアイディア を表明して失敗している可能性もあるのです。

 そして、このように幾人もの知見を積み重ねてきた結果が、現代の文明であり、各学問領域なのです。ですから、通常、なんらかの文章を読む際には、その文章が単独で成り立つ事はありません。必ず、その文章を成り立たせるだけの前提となる知識が根拠となっているのです。
 つまり、一つの文章にすべての解答を盛り込む事は効率的でもありませんし、けして親切な事にもなりません。そこに参考となるインデックスを張り込んで、必要に応じて参照したり、その参照された先の課題について議論したり、時に修正することが、大勢の人間の知を集合知として取り扱う際には必要となります。

 さて、佐藤ゆうこ代議士は、そのような文化について理解されないか、無視されて。「基準値の根拠については回答無し」と断じられているのですが。ちゃんと根拠は記述されています。それは、先の文章に掲げた参照関係がそれで、ここで再度論じません。
 ここでは、その中で特に 8000Bq/kg の基準値について、どのような「根拠」で算出されたのか具体的に説明してみたいと思います。

 この値を決定する際には2つのパラメータと、それをつなぐ1つの数式が必要となります。

 まず、1つ目のパラメータは、作業者が受ける放射線量の限界値です。これは「当面の取扱いに関する考え方」( http://www.meti.go.jp/press/2011/06/20110616006/20110616006-2.pdf )でも 1mSv/y となっていましたが、同文書の2ページ目欄外で参照されている「低レベル放射性固体廃棄物の埋設処分に係る放射能濃度上限値について」(平成 19 年5月 21 日原子力安全委員会)( http://www.nsc.go.jp/haiki/page3/070521.pdf )に基づき、操業中のスカイシャインの影響を評価した。と記述されています。同文書の4ページ目にそれは記述されています。

1つ目のパラメータ:作業時の外部被曝線量(限界値):D: 1 (mSv/y)

 次に、2つ目のパラメータについてですが。これについては、私のエントリーで「参照」と掲げた経済産業省のサイトを参照する必要があります(そして、その方が便利です)

放射性物質が検出された上下水処理等副次産物の当面の取扱いに関する考え方」について METI ( http://www.meti.go.jp/press/2011/06/20110616006/20110616006.html )

ここに「参考1:脱水汚泥等の処理・処分に関する評価に用いたパラメータについて」( http://www.meti.go.jp/press/2011/06/20110616006/20110616006-5.pdf )という文章があります。この中に様々なケースに対するパラメータが明記されています。今回の話題に対しては「4.脱水汚泥等の埋立作業について」の値が使われます。

年間作業時間:To:1,000 (h/y)
希釈整数:Fwc:1 (-)
遮蔽係数:So:0.4 (-)
線量換算係数(Cs-134):DF(1):4.7E-01 (μSv/h per Bq/g)
線量換算係数(Cs-137):DF(2):1.7E-01 (μSv/h per Bq/g)

 以上で議論の対象となるパラメータは整いました。次はこれらのパラメータから対象となる基準値を求める数式です。これは、「当面の取扱いに関する考え方」の2ページ欄外に明記してある「放射線障害防止法へのクリアランス制度の導入に向けた技術的検討について」(文部科学省 放射線安全規制検討会クリアランス技術検討ワーキンググループ、平成 22 年1月以下「RIクリアランス報告書」)を参照します。 文科省のサイト( http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/gijyutu/004/004/sonota/1290220.htm )においてあります。
 様々な条件を場合わけして記述されているので非常に大部となっていますが、この議論で必要な計算式は54ページです。ここに「(1)埋立作業者(直接線・外部被曝)/クリアランス後の廃棄物の埋立作業者に対する直接線の外部被曝線量は、次式により求める」として。

D = Cw ・ So ・ To ・ DF(i) ・ ( (1-exp(-λ・t)) /(λ・t) )

と式が立ててあります。

記述の都合で  ( (1-exp(-λ・t)) /(λ・t) ) の部分を〔減衰係数〕と仮置きします。
この式に上記のパラメータを具体的に入れ込んでいきましょう。式はCs-134 と Cs-137 の二つを立てます。

Cs-134:
Di = Cwi・ 1 〔Fwc〕・ 0.4 ・1000 (h/y) ・4.7E-01 (μSv/h per Bq/g)・〔減衰係数〕
Cs-137:
Dj = Cwj・ 1 〔Fwc〕・ 0.4 ・1000 (h/y) ・1.7E-01 (μSv/h per Bq/g)・〔減衰係数〕

また、
Di + Dj = 1 (mSv/y)
Di + Dj = 1000 (μSv/y)
Cs-134 の放射線量(Di)と Cs-137 の放射線量(Dj)の計が年間に受けられる許容限度 1 (mSv/y) である事。

Cs-134 : Cs-137 = 1:1 = Cwi : Cwj
Cs-134 と Cs-137 は等量であることが前提されています。

このように式を立てると、その許容量に至るセシウムの量を表すのが Cwi、Cwj となります。単位等を省いて整理してみます。

Cs-134:
Di = Cwi・0.4・1000・0.47・〔減衰係数〕
Cs-137:
Dj = Cwj・0.4・1000・0.17・〔減衰係数〕

〔減衰係数〕の部分を式に戻してみましょう。
Cs-134:
Di = Cwi・0.4・1000・0.47・ ( (1-exp(-λi・ti)) /(λi・ti) )
Cs-137:
Dj = Cwj・0.4・1000・0.17・ ( (1-exp(-λj・tj)) /(λj・tj) )

ここで、Cs-134 の減衰率 λi は 0.335664 /y となり。Cs-137 の減衰率 λj は0.0230741 /y となります。(これらの値は各核種について定数として求められており、「アイソトープ手帳」などに明記されています)
また、ti ,tj はそれぞれ 1 です。

Cs-134:
Di = Cwi・0.4・1000・0.47・ ( (1-exp(-0.335664)) /(0.335664) )
Cs-137:
Dj = Cwj・0.4・1000・0.17・ ( (1-exp(-0.0230741)) /(0.0230741) )

減衰率部分を展開します。
Cs-134:
Di = Cwi・0.4・1000・0.47・ 0.843471
Cs-137:
Dj = Cwj・0.4・1000・0.17・ 0.9885512

計算できる部分は計算してしまいましょう。

Cs-134:
Di = Cwi・158.572548
Cs-137:
Dj = Cwj・67.2214816

Di + Dj = 1000 でしたから。Dj = 1000 – Di とすると。
Di = Cwi ・158.572548
1000 – Di = Cwj・67.2214816

Cwi : Cwj = 1:1 つまり、 Cwi=Cwj とすると。

Di = Cw・158.572548
1000 – Di = Cw・67.2214816


Di でまとめると。
1000 – 158.572548・Cw = 67.2214816・Cw
1000 = 67.2214816・Cw + 158.572548・Cw
1000 = (67.2214816 + 158.572548)・Cw
1000/ (67.2214816 + 158.572548) = Cw

1000/225.7940296 = Cw
4.4288150 = Cw

 つまり、セシウム134、セシウム137 の両核種が同量であり、その核種が含まれる汚泥を扱う作業者が一年間に浴びる放射線を 1mSv/y(1,000μSv/y)までとした場合、両核種の推測される最大量は、 4.428815 Bq/g (つまり、4428.815 Bq/kg)となる。
 両核種で 8857.63 Bq/kg となるので、およそ10%のマージンをとって 8,000 Bq/kg となる。

 いかがだろうか。これでも根拠はないのだろうか。