前書き
私をはじめとする「名古屋城天守の有形文化財登録を求める会」が行っている、名古屋城木造化裁判の控訴審が12月9日にあります。それに先立って、準備書面(4)、事実上の最終論告を行いました。(証人の申請をしておりますので、裁判所が採用すれば、それ以降に証言を元に追加で主張を付加する可能性はあります)
今回の「準備書面(4)」においては、9月17日に名古屋市民オンブズマンに対して名古屋市が開示した「基本計画書」(平成30年7月に文化庁に持参した、しかし復元検討委員会にはかけられなかったもの、概要編、資料編、図面編と全500ページ)を詳細に検討し、それを名古屋市側の提出した証拠文書である「基本設計説明書」(乙18号証、これも500ページ弱)と比較検討して新たな事実を摘示しています。
名古屋市は文化庁の復元検討委員会に提出する「基本計画書」の内容はすべて「基本設計説明書」に含まれると主張しており、一審判決はこの主張を認めていますが、これは誤認である事がわかります。その詳しい内容は後に述べますが、まずは、そもそもこの裁判はどのような裁判であるか、簡単に説明させていただきます。
近々公開する予定ですが、この名古屋城裁判についての説明を YouTube などの動画で掲載しようと思っておりまして、その際の原稿を掲載致します。
YouTube による名古屋城住民訴訟の説明原稿(案)
1.この文章は何か
名古屋市の河村市長が名古屋城の天守を木造化しようとしていることは、広く報道されていることでご存じの方も多いと思います。本来は2020年に開かれる東京オリンピックに合わせて、名古屋における観光の目玉として木造化が企画されたはずですが、現在に至るも実現の目処は立っていません。
更に、この事業において、様々な嘘が含まれており、その幾つかは違法行為です。その中で明白な違法行為を見つけ、名古屋市の監査請求を経て住民訴訟を提訴しています。残念ながら一審判決では私達の主張は入れられませんでしたが、名古屋市の抗弁、および一審判決で認定した事実には根拠の無い(乏しい、ではなく無い)ものもあり、更に判決自体が法律の条文と矛盾している部分もあります。そうした事を受け、現在高裁に上告し、裁判は続行中です。
この裁判について、ユーチューブ等で説明をしては如何かというご意見を頂いており、実際に作成したいと考えています。詳細な正確性は、私どもが全面公開している実際の裁判資料をご覧いただくとして、大筋を簡単にご理解いただけるように心がけます。
裁判の話に入る前に、この名古屋城木造化事業について、大切な指摘事項があります。それは「名古屋市民は木造化事業など希望しておらず、木造化事業に民意などない」ということです。
名古屋城木造化について議会も同意していると主張するひとがいますが間違っています。議会は事業を進める際に条件を付し、採算性が守られること。国や県などからも事業費の負担を求めることとしておりました。名古屋市は採算性のための試算を行いましたが、50年に渡り年間300万人の来場者を見込むなど現実的なものではなく、国や県からの補助金は得られていません。つまり、議会の付した条件は守られていません。
また、事業開始時の2万人アンケートにおいても、市長案に賛成する市民は7%程度であり、全体計画に対するパブリックコメントに対して圧倒的多数の木造化反対意見が寄せられると、そのパブリックコメントの集計を隠蔽してしまいました(名古屋市民オンブズマンが隠蔽前の資料を公開しております
http://www.ombnagoya.gr.jp/tokusyuu/goten/index.htm#180725 )。
そもそも名古屋市は天守木造化について基本設計が完了しているとしながら、その基本設計図書の大部分は黒塗りのままであり公開しておりません。どのような木造化が行われるのか理解している市民は存在しておりません。名古屋城木造化に賛成している市民というのは、どのような物が建つのか知らないまま賛成しているのであり、その正確な比率、民意など一度も図られていないのです。
極めて不健全で、非民主的な手続きの中で進められているのが名古屋城天守木造化事業なのです。
• 名古屋城木造化事業は、名古屋市から竹中工務店に発注されて事業がすすんでいる。事業は次の3業務で進められる。①基本設計業務、②実施設計業務、③施工である。
• 名古屋市は平成30年3月30日に基本設計が完成したとした。後日、竹中工務店に約8億4千万円の基本設計代金を支払ったが、基本設計は完成していない。
• 完成していない業務に代金を支払ったことは違法である。(地方自治法第232条の4第2項、名古屋市会計規則 第71条、名古屋市契約規則第53条違反)
• 誤って支払った基本設計代金(約8億4千万円)の支払いを賠償せよ。
• 基本設計が完成したと誤認して進められる木造化事業を停止せよ。
名古屋市が竹中工務店と本件事業を進めるにあたって、基本協定(甲3)を結んでいるが、その前提となる文書は名古屋市が事業の条件を示した「要求水準書」(甲1)であり、その中で「木造復元に際し、実施設計に着手する前の基本設計の段階において、文化庁における『復元検討委員会』の審査を受け、文化審議会にかけられる」と記載されている。
公知の事実として本件事業は文化庁の復元検討委員会の審査を受けておらず、文化審議会にもかけられていない。すなわち、基本設計の段階に至っていない。
基本設計業務委託仕様書(甲6)の第23条(建築基本設計)では、「建築基本設計は、以下の項目について行う」と記載されている。(1)基本計画書、(2)透視図である。
ところが、平成30年3月30日の「成果品目録」(甲10号証)には、「基本計画書」の記載がない。すなわち、「基本計画書」は納品されていない。
また、平成30年3月28日(上記基本設計納品日の2日前)に開催された「特別史跡名古屋城跡全体整備検討会議天守閣部会(第9回)」の議事録(甲20,21)には事務局(名古屋市職員)の発言として「復元検討委員会の開催を7月に想定しています。それにあわせて、4月、5月あたりで検討をまとめ、6月に未策定のものを天守閣部会に諮らせていただき、7月に全体的な基本計画のまとめを挙げさせていただき、文化庁と相談をしていきたいと思っています」とあり、 平成30年3月30日には「基本計画書」の取りまとめができていないと報告している。
すなわち、 平成30年3月30日には基本設計業務は完成していない。
令和3年12月2日提出 控訴人(名古屋市民)準備書面(4)について
(実際の準備書面、証拠書類は公判当日まで公開できないようなので、ここでは「その原稿からの引用」を行っています)
まず、本論とは異なるが被控訴人名古屋市は本件事業を文化的に価値の高いものであると主張していた。国宝であった建築物を再現する重要な事業であるとの主張だ。そうであるなら、市民や研究者に広く情報を開示すべきだろうが、それがされていない。さらに、名古屋市観光文化交流局名古屋城総合事務所が名古屋市住宅都市局建築審査課、並びに名古屋市消防局と協議した際の配布資料をすでに破棄してしまい、情報公開しないと通知してきた。
その中には「消防隊進入口配置位置案」「防災計画書最終版案」「避難誘導シナリオ質疑回答書」など、本件事業が完成した後にも、消防隊進入計画、防災計画、避難誘導計画等を策定する際の検討資料となるであろう資料もあり、もし万が一そのような災害発生後に、問題が生じた場合には原因究明のための原資料となるであろうと推測されるものもある。
このような名古屋市における隠蔽体質は文化的価値の高いとされる事業の進め方として極めて不適切だ。
そしていよいよこの準備書面(4)のメインイベントである。
上記のように、平成30年3月30日の基本設計納品時には「基本計画書」の納品がなされていない。
名古屋城天守を木造復元するという事業の、基本設計業務とは、技術的、法的にどのような建築物であれば実現可能かを検討する業務であって、特別史跡名古屋城跡にある天守建物の建て替えには文化庁の文化審議会による現状変更許可が必要であり、その為には復元検討委員会の<復元>の<検討>という審査が必要なのであって、それを得なければどのような建て方をすればよいか確定できない。つまり設計ができない。そのために、名古屋市は事業の開始にあたって、要求水準書で「基本設計の段階で~復元検討委員会の審査を受ける」としているのだ。
「基本計画書」とは、この文化庁の復元検討委員会に提出され、復元案の審査を受ける為の書類であって、基本設計業務の根幹を為す書類だ。
しかし、名古屋市はこの要求水準書の記載が「単にスケジュール感を示したもので、条件ではない」と主張した。また、成果品目録に欠落している「基本計画書」も、同目録に記載されている「基本設計説明書」の中に混ぜ込んで納品されていると主張している。
名古屋市は「基本設計説明書」の中に、「仕様書」で示された「基本計画書」に必要な項目が含まれていると各項目を示した。
「(f)断面図」が「基本設計説明書」の「図面編48頁から49頁までに記述されている」と主張したのだが、それは「復元原案図」である。
9月17日に開示された「基本計画書」において「断面図」とされるものは、「図面編Z48頁からZ49頁」と「図面編Z55頁からZ56頁」の2箇所に掲載されている。前者は「復元原案図」で後者は「復元案図」なのだ。
「復元原案図」とは、焼失したオリジナルの名古屋城天守を歴史資料等から再現したものであって、本件事業における復元建築物の図面ではない。「復元案図」こそが本件事業における復元建築物の図面であり、「復元原案図」とは、その「復元案図」がオリジナルとどの程度同一性があるかを示すための補助図面である。そして「基本計画書」とは文化庁の復元検討委員会に提出され、復元について説明する資料であり、そこに「復元案」が含まれていなければ、復元検討委員会は<復元>を<検討>することはできない。
「(d)各階平面計画」については、「基本設計説明書」の「図面編36頁から44頁までに記述されている」としているが、同様に「復元原案図」であり、「復元案図」は無い。
「基本計画書」では「復元案図」として「図面編Z51頁からZ54頁」に記載されており、「復元原案図」として「図面編Z36頁からZ44頁」に記載されている。
特に、「復元案図」中、「Z52頁」「Z53頁」の図面には、復元原案にはない階段が敷設されている。これは歴史的復元に、現在の法律が求める2方向避難路を満足させるために敷設した階段で、この図面は平成30年3月30日に納品された「基本設計説明書」には含まれていない。
つまり、被控訴人、名古屋市が「基本設計説明書」に「基本計画書」の内容は含まれているとした説明は誤りであり、それを根拠とした一審判決は事実誤認に基づいたものとなる。
最後に余分な一言
この裁判を通して、いろいろと考えさせられることが多かった。自分でもどうかと思いましたが、最後の結びの前に、そこから得られた正直な疑問を書きました。
「ひとつ、お教えいただきたいこと」
裁判所に教えていただきたいことがあります。仕事において発注元が、生活において行政が、予め文書で示した契約、文言について、発注元、または行政が事後に、根拠なく新たな解釈を示し、司法がそれを認めるのであれば、我々国民は予め示された契約、文言より、事後に示された解釈に従わなければならなくなる。
しかし、どうすれば私達は、発注元、行政が事後に行う解釈の変更を知ることができるのでしょう。
本件において、「要求水準書」(甲1号証)には「条件」と書かれていた文言について、どこにも明示されていない「スケジュール感」なる解釈が事後に示され、条件ではないとされ、司法の判断はこれを支持しております。
そのような不条理を理解することはできません。
被控訴人においては、予め示された文言に、新たな解釈を加えるのであれば、それもまた、予め明示されておかなければならず、予め明示されていない事柄については、当初より示されている文言を信じ、守るべきと考えるのですが、それは間違った考えなのでしょうか。
さて、次回は、名古屋市会 減税日本ナゴヤ所属の浅井康正市議について書きます。最近流行りの政務活動費の支出についての疑義について書きます。
この中で、特に「署名偽造クラスター」の皆さんであればおなじみの「水野昇さん」の関与が出てきます。
お楽しみに。