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天皇または天皇制に対する様々な態度の整理

 私が某所で発表した内容を掲載する。後半の私の所論はともかく、この「分類」についてはそこそこ「使える」のではないかと思っている。

天皇または天皇制に対する様々な態度の整理*1

    分類       概要
1 天皇は世界統合の神である 「八紘一宇」の考え方。
統一教会の考え方の源流とも考えられる。
2 天皇は日本の中心 森喜朗による「日本は天皇中心の神の国である」発言の起点。戦前の「国体」思想のドグマであり、現在でも神社系統で唱えられている。
3 政教分離 天皇は政治から切り離し、御所も京都へ移し、日本古来の宗教的存在として独立するべきである。(右翼共和派など)
4 最古の日本固有の王家 天皇、及び天皇制は古来より存する日本固有の制度であり、最古の王家である。
5 天皇は日本国民の親 一部神道系に見られる教義であり、素朴な「国親思想」の変奏としてまま見られる態度。
皇室の構成
天皇家をあたかも自身の親族のように捉え、「皇室アルバム」などの番組を受容するような態度。
6 統合の象徴ポジティブ派 憲法第1条の「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」をポジティブに受け止め、肯定的に捉える態度。
7 統合の象徴ネガティブ派 憲法に定められた1つの制度、機能でありその範囲で存在を容認する。「皇室維持費」に関しては効率化されるべきと考える態度。
8 憲法の不整合否定派 憲法の第1章に置かれた天皇規定は、続く第十三条における「個人の尊重」及び第十四条にいう「法の下の平等」と真っ向から矛盾しており、解消されるべきである。
9 天皇制人権侵害説 天皇、及び皇室に対する、参政権の剥奪、「氏」の喪失等々の一般国民に認められた当たり前の権利が認められていない在り方は当該家系に対する迫害であり、人権侵害である。天皇は政治から切り離し、御所も京都へ移し、日本古来の宗教的存在として独立するべきである。
※この結論は上記「3.政教分離派」と同じ結論になることに注意。
10 家元制度の根源としての天皇制否定 日本社会に蔓延る数々の世襲制度、家元制度の根源は、天皇制度にあるとし、それを否定する態度。
(故花柳幻舟など)
11 身分制度の源泉としての天皇制度の否定 差別解消の為の出自、身分の否定など、その対極としての天皇制を否定する態度。
上皇后及び、現皇后婚礼の際などに持て囃された「結婚前の身元調査」に対する人権侵害性の議論や、憲法24条1項に定められた「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立」するとの原則に反するとして否定する態度。
12 昭和天皇戦争犯罪者説 第二次世界大戦開戦の責任者としての昭和天皇戦争犯罪を断罪する態度。
ウクライナ公開動画(現在は訂正されている)
最近ではウクライナ政府がヒトラームッソリーニ、と並べて昭和天皇ファシズムの象徴として掲載した。国際社会の理解の一端かもしれない。

現代日本における「天皇制度」議論の困難と、混乱、及び解放について。

 現代日本における政治的議論において、様々な困難がある。このような議論を突き詰めると、それが無矛盾に解決することは稀であり、必ず一端の矛盾を孕み、その”ほつれ”の糸がやがて大きな問題を招来させているようにみえる。

 現在も政権与党である自民党が、日本の国家主権を否定するような教義を掲げている「統一教会」との関連を指摘されていても、その宿痾から脱することができずに居る。「統一教会」の文鮮明が掲げた「統一原理」では、救世主の生まれ変わりである文鮮明の下に全世界の宗教や国家が「統一」され、すべてが家族として共存するというような主張がなされ、日本及び、日本国民もここに統合されるべきとされている。勿論、この教義は日本が朝鮮半島を占領統治した際に掲げた「八紘一宇*2」概念の変奏であることは容易に理解できるものであり、現代の日本社会は戦前の日本が振りまいた人工的な詭弁に自ら絡め取られているとも言える。また、戦前日本の末裔である自民党・清和会が、こうした概念を持つ「統一教会」と親和性が高い事実には整合性があるのだろう。

 一つの原理に統合されれば平和や幸福が得られるという、各種宗教(統一教会だけでなく、日蓮宗、及びその流れをくむ創価学会)や「汎ヨーロッパ主義」を唱えたリヒャルト・クーデンホーフ=カレルギーにも繋がる一元主義的設計思想の限界*3を顕しても居る。

 政治的議論の一つの課題である憲法の在り方にしても、護憲を唱えれば、その第一章で定められた天皇制の維持に繋がり、続く第十三条における「個人の尊重」及び第十四条にいう「法の下の平等」などとの矛盾を肯定することに繋がりかねない。かといって改憲を許せば現代の日本では行き過ぎた改憲が進められ、先の大戦の反省から生まれた戦争放棄の大原則まで毀損されかねない。

 また、歴史認識の議論にしても、結局のところ先の大戦における戦争責任を軍部に押し付け、昭和天皇の責任を追求しなかった。こうした不徹底の一つの原因に、日本国民全体の戦争責任からの逃避を感じる。第二次世界大戦、及びその先駆としての中国大陸への侵攻に対して、日本社会は十分な議論を行っていない。他国に侵攻し、その国家を蹂躙し、文化や文明を破壊し、人々に危害を加えるという重大な問題に対して、日本社会は誰も責任を持った決定を行わず、付和雷同に事態を進行させた。そしてそれが抜き差しならぬ誤りであると明白になっても舵を切れずに居た。今般の「コロナ下のオリンピック開催」や「国葬問題」においても大戦中のインパール作戦との類似を指摘し「日本の官僚組織には、明らかな誤りと判っていてもブレーキをかける者が居ない」とする声も上がった。日本社会に蔓延るこの無責任な国民性。または議論を尽くそうとしない不徹底が数々の齟齬を生み、今後も社会を毀損し続けるのだろう。

 天皇が日本の中心であるとするならば、天皇が何であるか、しっかりとした議論がなされない限り、日本という国家自体、誰にもその正体を捉えることはできない。つまりは、日本国民は何に己を委ねているかわからないまま日々を過ごしていくことになるのだろう。

 私事をお話すると、私は単純な天皇否定論であった。戦争犯罪(表の12)とまでは思わなかったが、リバタリアンとして表の7のスタンスを取っていただろう。インターネット上で様々な政治的議論が行われる環境の中で「右翼共和派」(表の3)という人々と天皇制について議論する機会を得て、徐々に「天皇制人権侵害説」(表の9)に変わっていった。天皇や皇室を構成する人々に一般国民同様の自由と権利を保証し、平等原則を満足させつつ天皇制度の様々なしがらみを解消するには、政治性と宗教性の分離が必要であり、形としても宗教的存在として京都へ移られるという解決策は現実的なものだろうと思う。

 昭和天皇戦争犯罪者と認識する人々でも、その息子である明仁上皇*4にまでその責を負わせようという人は少ないはずだ。

 私は天皇天皇家、皇室自体には罪はないように思える、問題となるのはその周辺にぶら下がり、その権威を自らのものに使おうとする<さもしい>者たちの心性にあるとみなしている。「元皇族」などとしながら、オリンピック誘致に絡んで国際的な犯罪が疑われ、それまで無給、名誉職だったJOC会長の座に就くにあたって高給を求めた<さもしさ>、そしてほぼその血統だけを売りにして評論家じみた活動をしている<さもしい>息子*5

 「日本は天皇中心の神の国である」と語った当時の総理は「国民のみなさんにしっかり承知していただく」と続けた。これは統治者が国民に対して天皇という他者の権威をひけらかすことによって馴致しようとする態度であって、天皇の威を借る<さもしい>行為である。統治者、権力者は、自ら決定権を振り回すのであればその責任も引き受けるべきであろう。こうした森喜朗の言葉には、そうした責任感や覚悟が感じられない。

 更に、神道という人工的な疑似宗教によって、たつきを得ている神社本庁(信者数:962万人:文化庁編 宗教年鑑 平成19年版)では、その権威を使い多額の財を得、その行き先を巡って様々な内紛*6、裁判沙汰*7が行われている。この内紛については、現在取り沙汰されているオリンピック開催に伴う神宮外苑の再開発問題にかかわる不動産取引に関するものであり、一説にはスポンサー選定にかかわる汚職よりも規模も大きなものとも言われている。とても「静謐で清麗」な有様とは言えそうもない。

 宮内庁はこうした神社本庁の有様を見て、距離を取っているそうだが、昭和天皇がご親拝を取りやめた靖国神社に続いて、神社本庁も自ら馬脚を現して自らの権威の源泉である皇室、天皇から見放されることになるようだ。

 神社について、私は国民生活に対する利益を一切見出すことができない。廃仏毀釈というタリバン顔負けの暴力的な宗教革命によってでっち上げられた国家神道、その流れを汲み、既得権を既得権のまま維持し、権威を振るい。「伝統」を歪曲し、本来の日本の在り方を圧殺している。私個人としては天皇制よりも先に、こうした天皇制権威に絡みつく「日本の宿痾」ともいうべき正体不明の人工物こそ駆逐されるべきと考える。

 そしてそうした周囲にたかる夾雑物を廃した後に現れる天皇、皇室こそ憲法の条文とともに国民による徹底した議論の対象とされ、自由と平等の原則の下、解放されるべきであろうと考えるものである。


*1:天皇を上に置くか下に置くかという態度を目安としたもので、その態度を持つ者が上である下であると言っているわけではない。また各項目名は私が便宜的につけたもの

*2:天皇総帝論「八紘を掩ひて宇にせむ(あめのしたをおおひていえにせむ)」(日本書紀)を、全世界を一つの家のようにすると解釈したもの。

*3:つまり、人間にはそれほど信頼を置くに足る「一元的な原理」など設計することは困難であり、社会設計においてはアドホックな改革、議論を進めながら漸進的な変化を続けていく以外にないだろうと推測される。

*4:戦後、皇太子明仁にエリザベス・ヴァイニング夫人が英語の家庭教師として付き、米国型民主主義について教育が為されたことは有名である。

*5:裁判で公的に「レイシスト」と認定されている。

*6:鷹司尚武統理が指名した次期総長を否定して、田中恆清総長がその座に居座っている。

*7:神社本庁の不動産売却を巡り、田中総長を含む上層部と業者の癒着を元幹部職員2人(元総合研究部長・稲貴夫氏ら)が内部告発。懲戒処分を受け地位確認を求め提訴、最高裁が2022年4月、神社本庁の上告を退けて、2人への処分無効と未払い賃金の支払いを命じた1、2審判決が確定した。