市民のための名古屋市会を! Ver.3.0

一人の名古屋市民が「地域委員会制度」「減税日本」に対する疑問をまとめるサイトです。(since 2011/3/3)

Tの物語 --美濃加茂市藤井浩人前市長問題の一側面--

 岐阜県美濃加茂市の藤井浩人前市長が、来年1月23日投開票の市長選挙への出馬を、正式に表明した。

news.yahoo.co.jp

「浄水プラント」の導入に伴う収賄容疑に対して、2017年に執行猶予付きの有罪判決が確定し、市長を辞職した。辞職時に市長の座を継いだのが現職の伊藤誠一市長で、両者の関係は良好だったが、この度、藤井氏の執行猶予が明け、次期市長選挙に立候補するに当たり、選挙で対立することとなる。

 藤井市長の収賄事件については郷原弁護士が詳細に著作にされている。

www.kadokawa.co.jp

「最年少市長」として称賛された藤井氏が、市長になって「浄水プラント」を導入した。
プールの水などを、災害時の浄水として利用できる施設だった。

 ところがこのプラントを収めた業者が、補助金詐欺などで検挙されてしまった。
 その補助金詐欺の捜査の過程で、浄水プラントの美濃加茂市への導入、および藤井市長がまだ、美濃加茂市議会議員だった頃の関係があぶり出され、藤井氏の市長選挙出馬に伴って、この業者が「30万円」のお金を渡していたとされ、後に市長としてこの業者の「浄水プラント」を市の施設に導入した藤井市長が、収賄の3要件(公務員であること、賄賂の目的が職務に関していること(職務権限)、行為として「要求・約束」があること)を満たしてしまい(この3要件は後にまた出てきます)、収賄罪とされた。

 裁判の中で、そもそもの金銭の授受そのものにも疑問が起き、ひょっとしたら藤井さんはお金を受け取っておらず、「浄水プラント」の導入は、純粋に美濃加茂市の防災のためではなかったのか。との意見も地元美濃加茂では根強くあり、郷原弁護士はこの背後にある愛知県警・岐阜県警(両県警の合同捜査だった、ここも重要)+検察の問題も指摘されている。

 藤井氏の事実は私には分からない。

 しかし、この事件の起点をたまたま私は知っており、結局、この問題が起きた背景に、河村たかしが提唱し、中日新聞がうかうかと振りまいた、民主主義を食い荒らす「鬆」の存在を感じる。大阪の維新の伸張、立憲民主党における「健全な野党の不全」もここにある。

それはなにかといえば「猟官運動」「ジャクソン流民主主義」と言われる社会のあり方だ。

ichi-nagoyajin.hatenablog.com

エディー・マーフィーの喜劇映画「ホワイトハウス狂騒曲」(1992)でも描かれている。

filmarks.com

 つまり、昨日今日始まったことではないし、日本に特有な話でもない。単なる印象を頼りとした、無責任な選挙という名の人気投票に通ってしまえば、議員であったり首長という、ウハウハな極楽生活が約束されるという社会のあり方だ。

 船の舵を「面白いから」と豚や猿に持たせるようなものだ。

 さすがに、豚や猿に、社会や国の行く末は任せないかもしれないが、キチガイや嘘つきには平気で任せる。それが大衆社会の民主主義の危険性であり、よくよく注意を向けないと、国や行政が嘘だらけとなり、キチガイじみた様相に染められる。

 メディアに携わるものであれば、社会がこうした危険な遊戯をはじめていれば、「おいおいおい、喜劇芸人のコメントを真に受けるなよ」ぐらい言ってしかるべきだろう。ところが逆に、そのうち喜劇芸人までが「自分は、社会のオピニオンリーダーなんじゃない?」と真に受けだす。将にキチガイじみてくる。*1

 「人生行き詰まったら、選挙にでろ、選挙に受かったら、ウハウハで濡れ手に粟、税金で飲んで食える」なんて言葉を聞いて、政治を志す輩については、良識あるメディアは批判の目を向けなければならない。「人生行き詰まった」ような者たちに社会の舵取りを任せれば、社会が行き詰る。そうした者を否定しなければならない。

 それを「庶民派」だの「市民目線」だのと訳のわからない理屈を付けて持ち上げる。狂気の始まりだ。

 庶民や市民が、安心して生活できるのは、ちゃんとした技術を習得し、衛生管理を心得た、料理人が料理を提供し、免許を持った運転手が、バスや電車を操作するからであって、庶民や市民が受けるサービスを、庶民や市民の好き勝手に扱わせて良いわけではない。

 議員や首長にしても、本当であれば、庶民や市民以上に高い領域で、わきまえるべき常識をわきまえている者を据えるべきで、司法試験を9回も落ちている者(ということは、9回も無駄な挑戦を続けていたバカということ)を持ち上げてどうする。

 昭和の時代では、コミュニティーというものが存在した。(公的な組織、空間を上位層。個人的、私的な空間を下位層とすると、その中間に位置する「中間層」。いわゆる所得や資産の格差でいう「中間層」ではなく、社会を構成する関係性としての「中間層」が存在した)

 地域の地主、名士、商工人という集団が、例えばライオンズクラブだのなんだのと、「中間層」を形成し、その中から然るべき人品骨柄を備えたものを議員や首長に送り出した。また、労働者、一般市民においては、各職域の組合などから、熱心に他者のために働き、優れた交渉力を持ち、組織を引っ張っていく力のある者を互選し、「中間層」のリーダーに据え、組合の役員、議員に押し上げていった。

 「中間層」にヒト・モノ・カネの要素があって、組織が成立し得たから、各種選挙も成立した。

 ところが、現在ではこうした「中間層」は衰退している。地主、名士と呼ばれるクラスには○○連合や○○の科学、○○の家がコミュニティーに入り込み、ファナティックな方向に分断を進める。商工人と呼ばれるような商店、企業も衰退するか、コミュニティーの成因としての色合いは薄まる。労働者、一般市民にとってはもっと深刻で、非正規、派遣労働者には頼るべきコミュニティーすらない。

 映画「男はつらいよ」の舞台となる「とらや」の居間は裏庭に通じ、隣り合う「朝日印刷」の職工も含んだ「中間層」を形成していた。妹であるさくらは、この「中間層」の中で結婚し、家庭を持ったこととなる。しかし、現代に舞台を移すと、裏庭は整理され、印刷工場がマンションとなり、このマンションの住人は「中間層」たり得ない。

 今回の総選挙においても、通常政権党の候補ともなれば、その地域の名士が「選挙対策本部」を構成するが、某候補の選挙実務は、ある派遣業の社長がその座に座っていたそうだ。生業としてヒトを出せるものが居なければ、ヒトすら揃えることができないのだろう。また、立憲民主党に「連合なんか切っちゃえ」という人も居るが、選挙になれば、そこで動く人間は「連合」ぐらいしか調達できない。こうした事情があれば切れるわけがない。

 公明党共産党でも実情は同様で、両者とも組織の高齢化が進んでいることは火を見るより明らかだ。

 つまり現在、政治は圧倒的に人不足になっている。

 こうした隙間を突いて、「人生行き詰まったら、選挙にでろ、選挙に受かったら、ウハウハで濡れ手に粟、税金で飲んで食える」なんて類の人物が近づいてきても、容易に追い返せなくなる。選挙事務所にこうした人物が来て、「胡散臭い」と思っても、「証紙張り」*2ぐらいはさせておこうということになる。



 ある人物が、減税日本ゴヤ市議団のKG市議の事務所を訪ねてきた。

 この人物が、今回のストーリーの主人公で、Tとしておく。この人物の素性はよくわからない。名古屋市内で居酒屋を経営していたとも言われている。その居酒屋の経営についても、アルバイトとして働いていた人物を名義人にして融資を引き出し、返済が滞り、名義を貸したアルバイトの親にまで迷惑をかけたとか、色々と噂は出ていた。しかしこの頃のKG市議は知る由もなく、やがて事務所の業務を手伝ってもらっていたようだ。

 ところが、ほどなくKG市議は、このTと手を切る。まあ、「バレた」ということなんだろう。

 すると、今度は同じ減税日本ゴヤでも、則竹団長の辞職に伴う繰り上げ当選を果たしたST市議の元で手伝いをし始めたそうだ。しかし、ここも直ぐに「バレ」て放逐されてしまう。

 このTという人物は、図々しいというのか、ご立派というのか、あちこちに顔を出し、入り込むことがうまい。こうやって減税日本の市議の間を渡り歩いて居るが、その間にも、様々な人脈を作っていたようで、その触手は美濃加茂市の若い市議である藤井氏にも届いていたようだ。

 流れ流れて、減税日本の中でも、坊さん市議と言われたNK市議に行き着く。このNK市議。「現役僧侶」と謳っていたが、元は小牧市の市会議員選挙にも立候補して落ちており、その際には保険外交員をしていたようだ。その後葬儀店で働くようになり、僧籍をとって僧侶となっている。いわゆる葬儀の際の「派遣僧侶」だったようだ。しかし、保険外交員→葬儀店→僧侶とは、華麗な転身、ブリもビックリの出世魚(?)ということか。

 NK市議は、そのキャリアアップの一環として「名古屋市市会議員」を選んだだけあって、このTとはウマがあったようだ。

 このNK市議は白いオンボロのステーションワゴンに乗っていた。荷台に布団が置いてあり、同乗した人物に「これで病院から遺体を運ぶんですよ」と言っていたそうだ。ちなみに病院から葬儀場に遺体を運ぶ際は、遺体搬送の基準にあった「緑ナンバー」が必要で、このNK市議のステーションワゴン白ナンバーだったんだけど、まあ、その程度の違法行為は当たり前と思えちゃう所が、減税日本クオリティなのだろう。*3

 さて、このNK市議は、僧侶として、じゃなくて葬儀屋として、名古屋市の病院局*4にきわめて興味を持っていたようで、市議のバッチをちらつかせては病院局に出入りしていたらしい。そんな中でNK市議が病院局に「浄水プラント」の設置を提案してきたそうだ。(議会議事録にも、地下水利用など提案している、上記の3要件の職務権限で、確か地方議員の質問で収賄成立した例があったように思うけど、まあ、その程度の違法行為は当たり前と思えちゃう所が、減税日本クオリティ)

 生臭くなってきたでしょう。坊主が出てきて。

 そんなある日、某市政担当記者がまっさらのプリウス(それも上級仕様)が議員駐車場に入っていくのを見た。なんと運転しているのはNK市議の秘書として動いているT。こういうシーンを見て「ピン」と来るのがプロの記者というもの。

 早速、このプリウスの所有者を調べた。そうすると出てきたのはNK市議でもTでもなく、「SG」という会社。

 なんだこの会社、と思って調べてみると、浄水プラントの開発販売で、某地方自治体から補助金を得ていることが分かった。しかし、プラント自体は既にある某社の製品で、開発を理由にした補助金取得は極めて怪しい。更にNK市議がこの「浄水プラント」を名古屋市病院局に売り込んでいるとの話も聞きつけた。1.名古屋の市会議員が、2.職務権限である議員の本会議質問や、当局に売り込みをかけて、3.その見返りに高級自動車の提供を受けるような利益を得れば、収賄の3要件は成立する。

 愛知県警もざわついた。(記者から県警にどうつながったかは私は知らない)

 さあ、愛知県警のターゲットスコープにガッチリ、NK市議が捉えられた時に、なんと!美濃加茂市で「SG」の「浄水プラント」が導入されたという情報を得る。ここで、話は愛知県警と岐阜県警の合同捜査という事になる。

 警察はまず、「SG」社のNB社長を、補助金の詐欺でしょっぴく。

 そこからNK市議へ提供した車やら、働きかけも調べたようだが、なにせNK市議は減税日本の市議だ。市長与党とはいえ、こうした実行行為にはカラキシ影響力がない。結局、職務権限行為については曖昧なまま終息してしまう。しかし美濃加茂の件は、具体的に「浄水プラント」が導入されてしまっているし、市長である藤井氏が美濃加茂市議であった頃、市長選挙出馬をこのTに相談し、NB社長と面談している事も押さえた。

 やがてNB社長が藤井氏と会った際、2回にそれぞれ10万円、20万円を藤井氏に渡し、そして藤井氏が市長になるに及んで、浄水プラントの売り込みに便宜を受けたと供述し、愛知県警+岐阜県警の合同捜査本部は、藤井市長逮捕に踏み切る。最年少市長は、30万円の収賄罪で、職を失うこととなる。

 その後NK市議は減税日本を離脱し、小沢一郎氏の「国民の生活が第一」から名古屋市議選を戦うが、落選、今どうしているかは知らない。(合掌)

 Tについて、私が最後に見たのは、名古屋市の繁華街、栄の街頭で「国民の生活が第一」のチラシを撒いていた。更に郷原氏が藤井氏の問題を取り上げ、江川紹子氏とインターネット番組を作っていた時に、このTが出演し、3人で並んでいた絵面はなかなかシュールだった。

 今回、藤井氏が美濃加茂市長選挙に再挑戦する事を受けて、この事件について色々と見知っている人々と話し合っていた中では、「ひょっとすると、NB社長はちゃんと30万円渡しているけれども、藤井さんは1円も受け取っていないって事だって有り得るんじゃない?」と推測するものも居た。*5


 某党では、組織に入る時にはとんでもない「圧迫」を受ける。現在であれば「パワハラ」と捉えられかねないが、しかしこれはイニシエーション、通過儀礼だ。その党に入って何某か行おうとする者は、我が強い。「この国ぐらい、俺様に任せれば・・・」ぐらいの、良く言えば気概、実際には思い上がりを持っている。この鼻っ柱をキッチリ折って、それでも動けるものは、小さな我欲を超える大望を持っている。

 河村隆男なんぞは、このイニシエーションに耐えきれずに逃げ出した口だ。

 民主党党首選挙において、20人の推薦人を集められなかったのは、それなりの理由があったのだろう。現在のように印象だけで政治が行われ、実態に則さない選挙によって現実の社会が動いていく。何が良いかは難しい、価値観もそれぞれ違うだろう。しかし、ダメなものだけは簡単だ。私利私欲、自己保身に汲々とし、国民、有権者の課題を最優先に考えないものに、公職者たる資格はない。国民、有権者に嘘をつく者に、公職者たる資格はなく、そうした嘘の隠蔽に手を貸すメディアも同罪だ。

 人生行き詰まったら選挙に出る前に、なぜ自分は人生に行き詰まってしまったのか。何が間違いで、どうすれば良かったのか。そう反省を行える、当たり前の常識を持った者以外、政治の世界に入れてはいけない。


*1:そういう意味では、鳥肌実より、ホンコンや百田尚樹の在り方に、より一層の人間の限界を感じられて興味深い

*2:公営選挙において、選挙期間中配布できるビラの数は決まっていて、その数だけ「証紙」という小さなシールが選挙管理委員会から各候補に配布される。この証紙が貼られていないビラは配布できないことから、配布用の書面にこの「証紙」をチマチマ貼る作業が大量に発生する。立憲民主党小川淳也代議士を一躍有名にした映画「なぜきみは総理大臣になれないのか」で、選挙を手伝う人々がこの作業を行っていた様子が映し出された(と思う、記憶違いかもしれないけど)

*3:いままでも薬事法違反×3、車の当て逃げ、政務活動費の詐取、建築基準法違反と数々の違法行為が繰り返されていますからね

*4:現在病院局は無くなっています

*5:さて、お金はどこに消えた?