市民のための名古屋市会を! Ver.3.0

一人の名古屋市民が「地域委員会制度」「減税日本」に対する疑問をまとめるサイトです。(since 2011/3/3)

古いものを大切にする心

名古屋市はご存知のように、現存する名古屋城天守建物を取り壊そうとしている。正確に言うと、現在の状態では、天守建物の木造化が可能か否かに関わらず、とりあえず現在の名古屋城天守建物を先行解体しようとしている。

この名古屋城天守は、戦災で失われた天守を昭和34年に総工費6億円の内、2億円を市民の寄付で賄うという、文字通り市民の建てた天守であり、優れた外観復元は様々な場所で使われている。

平成30年に名古屋御園座はリニューアルオープンしたが、その緞帳の中央には名古屋城が描かれている。この名古屋城天守は、見る人が見ればわかる、現在の昭和復元天守の姿だ。

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御園座緞帳全体図
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御園座天守部分

国の特別史跡である名古屋城跡の本質的価値は、縄張りと石垣、お堀であると言われている。石垣とお堀は、創建当時の姿を残しており、後世に伝えていかなければならない。しかし、やはり「お城」特に「名古屋城」とくれば、金のシャチホコと、それを戴いた天守が重要であり、「尾張名古屋は城でもつ」と言われる姿は、この金のシャチホコを付けた壮麗な天守建物を連想する。

名古屋城は、西国への備えであり、特に大阪城を根拠とする豊臣方への東国徳川幕府の防衛拠点であった。そのため、名古屋城天守は南北向きではなく、東西に向いて建てられており、その威容は大阪方への威圧でもあった。名古屋城天守が建てられ、第二次世界大戦の戦災で失われるまで、その中を覗いたひとはどの程度居たのだろう。平民はもちろん覗けない。藩主でも見回り以外には立ち入らず、ほとんど誰も出入りしないのが天守である。ガラス乾板写真と呼ばれる史料写真が残っているが、場所によっては羽目板が外れたまま放置されているところもあり、内装は簡素そのものだ。

つまり、名古屋城天守建物の中身など知っているひとは、歴史上でも数百人と居ないだろう。そうであるならば、天守建物の本質的価値は、その外観であり、威容である。そして、その外観と威容はすでに、昭和の名古屋市民により復元されているのであり、誰も知らないハズの内装など再現する価値はない。

また、名古屋市名古屋城天守は復元できるだけの資料が揃っていると説明しているが、文化庁の復元に対する条件は、「(略)当該史跡等の本質的価値を構成する要素として特定された歴史時代の建築物その他の工作物の遺跡に基づき、当時の規模(桁行・梁行等)・構造(基礎・屋根等)・形式(壁・窓等)により、遺跡の直上に当該建築物その他の工作物を再現する行為をいう。」とされている。確かに名古屋城天守には、金城温古録、昭和実測図、さらにガラス乾板写真などの資料は残ってはいるが、「内部構造」を示す資料はない。

平成30年2月14日「名古屋城全体整備検討会議(第8回天守閣部会)」に提出された資料に次のような記述がある。

継手・仕口の検討(1)
各種資料から確認できる名古屋城天守の継手・仕口
「各種史料の内、継手・仕口が確認できる史料は、昭和実測図、ガラス乾板写真のみであり、小天守の継手・仕口は確認できなかった」

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第8回天守閣部会 資料

ichi-nagoyajin.hatenablog.com

昔のブログで飛騨の匠の千鳥格子を紹介したが、継手や仕口について、外観だけでは何もわからない。

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飛騨組子

また、それを現代の知識から「再現」してしまったら歴史的価値など無い。どこまでも「それらしいレプリカ」でしかなく、本物ではない。

名古屋市民は、後世に偽造の天守建物を「本物」といって残すのか?偽造は署名簿だけで充分だ。

おっと、最初の一行だけ書くつもりが、完全にキーボードが滑ってしまった。
名古屋市は、昭和遺構と言える現名古屋城天守建物を取り壊そうとしている。その事実を前に、次の一文をお読みいただきたい。

古いものというか人間の営みを大事にする環境がないということですよ。(略)だから、こういうものに対して緊急の必要があるから登録制度(引用者注:登録有形文化財制度)をつくるんだというのは僕も非常に大賛成なので、こんな生ぬるい話じゃなくて、これはもっとがんがんやってもらいたいと思います。


 やはりそういうのがあると、人間は優しくなるんです。(略)いろいろなことをやっておっても、話をすればわかる人間ばかりなんだ。それはなぜかといったら、人間のつくったものを大事にしようという気持ちがあるからだ。

これは誰の発言かと言うと、衆議院議員であった頃の河村たかしの発言で、平成12年4月19日の衆議院文教委員会の議事録からの引用となる。当時、名古屋市内にある旭ヶ丘高校の校舎を建て替えるという計画があり、(耐震性の危惧や、空調施設の不備を補おうとして)旭ヶ丘OBでもあった河村たかし衆議院議員は、この校舎保存を訴え、取り壊しの際には腰にロープ巻いて座り込みまで行って取り壊しに反対した。(この当時から、マスコミの前で座り込みなどをする傾向にあった)そのため、国会においても委員会審議でこの問題を取り上げ、登録有形文化財にすることや、登録に伴う予算補助、耐震診断などの予算補助等を求めて質問をしていた。

この時には現有建築物の保存にポジショニングしていたということだ。

当時の衆議院議員河村たかしの発言をもう少し見てみよう。ちなみに、標準語で喋っている。

147-衆-文教委員会-12号 平成12年4月19日


○河村(た)委員 河村たかしでございます。


 日ごろ私は野党として割と対立型の質問をしておるんですけれども、本日は、文化を守るということにつきまして、大いに文化庁並びに文部大臣が積極的にリーダーシップをとっていただいて、(略)文化を守るというのは大変な、まだこれからという格好だと思うんですね。ですから、ぜひ具体的に。


 私の出身高校なので非常に申しわけないんですが(略)名古屋の旭丘高校というのがありまして、昭和十三年づくり、その建物を壊すということです。非常にありがたいことに、文化庁さんの方から、申請をすれば登録有形文化財になるということを文書で示していただいたんだけれども、やはりスクラップ・アンド・ビルドの時代というのが前提としてありますから、壊してしまう、そういう流れから何とかこういうことは、この文化財保護法は国の法律ですから、地方自治の問題もありますけれども、やはり、ここだというときは文化を守るために国が発言していかないと、本当にいいものがどんどん壊されていってしまう、そんなような趣旨でございます。
(略)
 こういう非常に貴重な建築文化財をどうやって守っていくのかということについて、ぜひ、質問というよりも、文部大臣並びに河村次官の方から、一歩踏み込んだ御答弁をいただきたい。やはり文化を守るというのはやらなきゃだめですよ、産業と比べて弱いですから。そんな趣旨でございます。


(略)


 やはり今までの建物というのは、古くなれば壊して新しくつくる、これはみんなそう思っていたんですよ、それしか知らなかったから。しかし、(略)いろいろな工法が、特に大震災以降完成されてきて、例えば下に免震装置を入れて、コンクリートは劣化防止をやって、中は反対に全くリニューアルして新品同様のものにしていく、欧米なんかそれは非常に多いんですけれども、そういう工法が完成されてきた。しかし、時代がちょうどその境でありまして、その認識がないころにできた計画の場合は、壊していっちゃうんですね。


 ですから、(略)取り壊しだけではなくて、(略)そういう工法もやはりあり得る、検討してほしいという、ぜひ御答弁をいただけませんでしょうか。

取り壊しではなく、別の保存を考慮した工法をと食い下がっている。

○河村(た)委員


 やはり最後に文部大臣と次官にもお伺いしたいのですけれども、まず、今の話を聞いておられて、登録されておれば文化財でございますので、それはそれでいいということだけれども、(略)趣旨説明を読みましたら、(略)なぜ建造物だけにこの登録制度を適用したんだという質問に答えて、やはり非常に緊急性があるのだ、流れの中でどんどん壊れていってしまう、だから今こそ登録制度をつくって、いわゆる失うものに歯どめをと。


 (略)これは非常にいいことを言っておられますよ、文化庁のパンフレットです。(略)この中の裏表紙に篠田正浩監督が、失うことに歯どめをかけなければだめだと。こういうのをわざわざつくられてやっておるんです。


 この下に「国が保護している文化財建造物の数の比較」がありまして、私もこれを見て本当にびっくりしました。(略)イギリスで四十四万件、アメリカ五万一千件、フランス三万六千、日本は二千百件、こういう現状なんですね。要するに、文化財がないというけれども、要はそれだけの、古いものというか人間の営みを大事にする環境がないということですよ。これはびっくりしたんです。だから、こういうものに対して緊急の必要があるから登録制度をつくるんだというのは僕も非常に大賛成なので、こんな生ぬるい話じゃなくて、これはもっとがんがんやってもらいたいと思います。


 やはりそういうのがあると、人間は優しくなるんです。うちの地域でも、祭りなんか大事にする人間はみんな非行をやりません。いろいろなことをやっておっても、話をすればわかる人間ばかりなんだ。それはなぜかといったら、人間のつくったものを大事にしようという気持ちがあるからだ。


 だけれども、それがこの驚くべき数字なんです。だから私は、今回の旭丘高校問題が一つの突破口になって、(略)文化庁がもっとどんどん大きく活躍して、日本の中にこういう古いものも残って、人間の営みが残っていくようにしたいということなんです。

「人間のつくったものを大事にしようという気持ちがある」と「話をすればわかる」「人間は優しくなる」そうだが、貴重な昭和の名古屋市民がつくった現在の天守を大事にしようとしないから、あいちトリエンナーレの問題でも「話をしてもわからない」「優しさなどなくリコール、解職を求める」ということになるんでしょうかね。

やはり、古いものを大切にする心ってのは、重要なんだろうね。



追記(4月20日):
天皇の写真を燃やして、足で踏みつける行為はよろしくない。
天皇制の是非や、大浦さんが作品中そのような事をしたかどうかの是非はおいておいて、誰かが敬愛する対象を貶める行為は、人として慎むべきだろう。
では、現在の名古屋城天守を解体して、その部材を売るというような発言は、誰かの敬愛する対象を貶める行為ではないのか。