9月21日に提出した住民監査請求について述べます。
この住民監査請求は、名古屋城天守木造化事業の基本設計業務において、違法性を指摘したもので、私が同事業に対してどう思っているかということは関係ありません。ですので、以下の文章において「〜と思う」「〜であるべき」といったような私の主観に立脚した表現は一切使いません。
同事業が「違法である」ということは、名古屋市の行ったこと(事実)と、法律や規則の定めが食い違っているという事で、法律や規則通りの行政事務が行われていなければ違法行為です。行政において違法行為が行われたのであれば、それは是正されるべきで、私たちは3点の是正を要求しました。
1.基本設計費用として支払われた代金の返還(未完成品に対して、名古屋市から代金の支出が行われた事は違法であるとして是正を求めるまでです。もちろん名古屋市(名古屋市民)に返還するに当たっては当事者間で責任の所在なりその按分が考慮されるのでしょうが、それは私たちの預かり知らぬところです。違法な代金の支払いが是正され、名古屋市(名古屋市民)に代金が戻ればよろしいと考えています)
2.基本設計が成立していないので、それを根拠とした実施設計も発注できない。現在名古屋市と竹中工務店の間で結ばれている実施設計業務の契約を解除せよ。
3.こうした業務遅延によって購入した約94億円の木材の保管料が発生する。6月の名古屋市会における当局からの回答では、遅延が1年に及ぶと約1億円の保管料がかかるとの事であり、では、そうした遅延に伴う被害拡大を防止するために、同事業を停止せよ。(地方自治法242条3項 : 「当該行為が違法であると思料するに足りる相当な理由があり、当該行為により当該普通地方公共団体に生ずる回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、当該行為を停止することによつて人の生命又は身体に対する重大な危害の発生の防止その他公共の福祉を著しく阻害するおそれがないと認めるときは、監査委員は、当該普通地方公共団体の長その他の執行機関又は職員に対し、理由を付して次項の手続が終了するまでの間当該行為を停止すべきことを勧告することができる」)
この監査請求の理路は次の通り。
A.基本設計は成立していない。
↓
B.故に、基本設計代金として支払われた行為は違法。
A-a.基本設計は成立していないとする根拠は。
A-a-1.同事業対象域は文化財保護法の特別史跡名古屋城跡にあり、現状変更許可には文化庁文化審議会の諮問が必要となり(文化財保護法第百五十三条2の十四)、その以前に復元検討委員会の同意を得なければならない。(文化財保護法第百二十五条、特別史跡名勝天然記念物又は史跡名勝天然記念物の現状変更等の許可申請等に関する規則第一条)
文化財保護法
特別史跡名勝天然記念物又は史跡名勝天然記念物の現状変更等の許可申請等に関する規則
A-a-2.名古屋市自身が基本設計に求めていた条件がある。
A-a-2-1.「木造復元に際し、実施設計に着手する前の基本設計の段階において、文化庁における『復元検討委員会』の審査を受け、文化審議会にかけられる」(「名古屋城天守閣整備事業にかかる技術提案・交渉方式(設計交渉・施工タイプ)による公募型プロポーザル 業務要求水準書 」(甲第7号証)(以下「業務要求水準書」)「第2章 第4節 1.(6)特別史跡における条件」「その他、下記事項2」)
甲第7号証:「名古屋城天守閣整備事業にかかる技術提案・交渉方式(設計交渉・施工タイプ)による公募型プロポーザル 業務要求水準書 」
A-a-2-2.「業務要求水準書」に対する応募事業者の質問に対する回答として「名古屋城天守閣整備事業について、質問書に対する回答書(第 4 回)〈平成 28 年 2 月 2日公表〉」(甲第8号証)(以下「回答書」)「平成 28 年 1 月 20 日付けの説明書等に対する質問書についての回答」の 6 「文化庁における『復元検討委員会』の審査を受け、文化審議会にかけられるのは、基本設計の段階であり、そこで文化審議会の了解が得られれば、実施設計段階では、文化庁における『復元検討委員会』の審査や文化審議会の手続きは不要であると考えてよろしいでしょうか」との 質問事項に対して「結構です」と肯定している。
甲第8号証:「名古屋城天守閣整備事業について、質問書に対する回答書(第 4 回)」
A-a-2-3.業務として「(文化財保護法に基づく現状変更許可の)申請に必要な事前打ち合わせ」と「申請書類の作成」が明示されている。(「名古屋城天守閣整備事業基本設計その他業務委託 業務委託概要書」(甲第2号証)(以下「業務委託概要書」)「4.業務の内容」「(6)関係法令等行政手続き業務」「(ア)文化財保護法に基づく現状変更許可の申請に必要な業務」)
甲第2号証:「名古屋城天守閣整備事業基本設計その他業務委託 業務委託概要書」
A-a-3.前記の条件が満たされていない
A-a-3-1.公知の事実として、同事業は文化庁の復元検討委員会の同意を得ておらず、文化審議会の諮問も受けていない。つまり、建設対象物の仕様が確定していない。
A-a-3-2.「成果品目録」(甲第12号証)には上記 A-a-2-3 で求められている「申請書類」が含まれていない。
以上のように名古屋市自身が定めた基本設計の条件が満たされておらず、基本設計業務は完結していない。
B-a.完結していない基本設計業務に対して基本設計代金が支払われた行為が違法とする根拠は。
B-a-1.地方自治法第232条の4第2項 : 「会計管理者は(略)当該支出負担行為に係る債務が確定していることを確認したうえでなければ、支出をすることができない」
B-a-2.名古屋市会計規則 第71条 : 「会計管理者等は、支出の命令書により法第232条の4第2項に規定する確認をするものとする」
B-a-3.名古屋市契約規則 第53条 : 「工事その他の請負及び物件の買入れにかかる契約の契約代金の支払は、当該契約の目的物についての検査を完了し(略)たのちでなければすることができない」
名古屋市契約規則
以上のように完結していない基本設計業務に対して基本設計代金が支払われた行為は地方自治法、名古屋市会計規則、名古屋市契約規則に違反する。
※ B-a-2 における「支出命令書」は平成30年3月30日に起草されており、会計管理者等、審査出納員の確認もされている。しかし、監査請求書(7)〜(13)で論証したように、その根拠に信憑性がない。
文化庁は「史跡等における歴史的建造物の復元に関する基準」の中で、「歴史的建造物の復元が適当であるか否かは、具体的な復元の計画・設計の内容が次の各項目に合致するか否かにより、総合的に判断することとする。(中略)ウ.復元以外の整備手法との比較衡量の結果、国⺠の当該史跡等への理解・活用にとって適切かつ積極的意味をもつと考えられること」と定めています。
名古屋市の説明では、現天守は「耐震改修しても40年しかもたない」とされておりますが、「耐震改修」というのは文字通り、建物の耐震性について改修することであり、直接建物の寿命を⻑期化させるものではありません。建造物、特に鉄骨鉄筋コンクリートの建物の⻑寿命化改修というものは別にあって、それは先行する大阪城において「平成の大改修」の一環として行われております。
行政事務として先行事例に見習う、前例を踏襲するというのは当然の事であろうと思われますが、名古屋市は、名古屋城天守の整備に対して大阪城における事例を参照しておりません。そこで行われた⻑寿命化工事による効果を考慮、比較衡量しておりません。上記文化庁の基準にも合致せず、不当であります。
更にまた、文化庁より「戦後都市文化の象徴である RC 及び SRC 造天守を解体するにはなお議論を尽くす必要がある」(6月市会本会議における渡邊局⻑の答弁)との指摘があったとのことです。
私どもは現在の名古屋城天守の姿を美しく思い、その価値は大阪城と同様に「登録有形文化財」として名古屋のみならず、日本の宝として維持管理する価値があると思っております。しかし一方、現在、名古屋市が進める天守建物の木造化に対して期待を寄せておられる方々が居る事も承知しております。
現在の天守建物の価値があるものか、それを建て替え木造化しなければならないものか今一度市⺠の中で開かれた、公正な議論が行われることを期待いたします。