市民のための名古屋市会を! Ver.3.0

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名古屋城についての事実確認と現状の推測(1)

事の起点を振り返ってみましょう。
名古屋市が「名古屋城天守木造化」について、具体的な動きをしたのは、2012年2月19日です。

この日 名古屋市公館のレセプションホールで「名古屋城の将来を語る市民大討論会」が開催されました。

名古屋城の将来を語る市民大討論会:名古屋城公式ウェブサイト


私もこのイベントにもぐりこんでいます。
2012-02-19 重層的な歴史の価値

河村市長は開催前に、他のパネラーに「今日は名古屋城の夢を語ってちょうだい」と言ったそうですが。名古屋市の職員に言わせると「市当局としては名古屋城の木造化なんて全然考えていない。ただ、河村市長が言い出したことなので、市民ヒアリングと言う形を作っただけ。木造化事業に関して言えば、今日のこのイベント自体が最終目標ということでしょうね」ということだったようだ。

この段階では河村市長は本気で名古屋城天守を木造化できるとは思っていなかったようだ。
当然、当局もそんな「文化破壊」に手を貸すつもりはなかった。

この方針が変わったのはいつごろからだろう。

追記:ご指摘をいただいた。
名古屋市オンブズマンが調査したところによれば、2016年(平成28年)11月28日に後に優秀提案者となるゼネコン社員と会談したとされる。

28観名整第80号81号

正確には判らないが、某ゼネコンが「2020年、東京オリンピック開催までに名古屋城天守を木造復元できる」と提案したからだろう。

この事業者の言葉には嘘は無かっただろう、しかし、慎重に検討する必要があった。

どういうことか。

この言葉には「どのような木造復元」であるかという条件は書かれていない。

この事業者は後に「提案書」という形で、名古屋城天守の木造化提案を具体的に示す事になる。
ここに描かれているのは柱と梁によって構成された木軸構造の「復元天守」ではなく、壁や床に耐震の為の補強材を配し、鉄骨の階段を設置し、ガラスの壁で防火壁を構築し、エレベーターを設置する。つまり、現代の建築基準、耐震基準、消防の要請に応えうるハイブリット木造の姿であり、そこには二方向避難路が抜けている為、それを設置しようとすれば現在と同じように東側に外階段、外エレベーターを取りつけなければならないといった「復元」の姿であった。

こうした姿であれば、2020年の東京オリンピックまでに名古屋城を「木造化」し、観光客を誘致することができるという目的には叶う。


私は、あるいは河村市長は、自らの公約である「多選禁止」を守るため、市長を今期で降りる。その為に最後のモニュメントとして名古屋城を木造化したいのだろうか?と思っていた。

三流は金を残し、二流は物を残すと言うが、将にこの言葉通りの小人ぶりだ。

こういった観点であれば、私は河村城には強く反対する気は失せた。
当ブログをご覧いただければ判ると思うが、名古屋城天守木造化には懐疑的であるし、例えば2万人アンケートやら天守木造化に伴う収益性の評価など、あまりに怪しげな話には疑問を呈しているが、私は現天守と木造天守のどちらがどうという論点は控えていた。

なぜなら、500億円もかけて(更に、姫路城の例に倣うと、木造天守では40年に一回、大改修が必要であり、その費用は30億円程度であると言われている。維持メンテナンスの費用は、当然ながら鉄骨鉄筋コンクリートの建物よりも、木造建築物の方が高くつく。
大阪城や熊本城は鉄骨鉄筋コンクリートのまま登録有形文化財*1として国の保護を受け、地域に愛され続けるだろう。翻って名古屋城は木造に作り変えた為に、40年ほどの期間ごとに多額の改修費が必要とされる。その度に「河村城」という言葉が名古屋市民の口に上り、名古屋市民は反省とともに、民主主義の重要性に気が付くだろう。それはそれで貴重な事だ。)

あわてて建て替えた名古屋城天守は、さぞや酷い代物になろうと想像できるからだ。

特に居住空間として贅を極めた本丸御殿がある状態で、そうした居住性など元々乏しく登ることさえ困難な天守が歓迎されるとは思えない。十分な評価もなくあわてて造られた木造天守が、満足いくものであってもコストが重くのしかかる、その上満足いかないものであった場合、市民も気が付くだろう。

そして、最大の見せ場は、その外見だ。

現在も瓦屋根についてあれこれ議論があるようだが、そんなものは枝葉末節の議論だ。
結果として出来上がるものは、外形的には現在の鉄骨鉄筋コンクリート天守と寸分違わぬものとなる。当然だろう。
(最上階の窓だけ小さくなるが、今でも問題視されていない。逆に苦労して最上階まで登った人々はその窓の少なさに不満を持たれるだろう)
そして、現在の天守でも不評の元である外階段は、木造天守でも設置せざるを得ない。
これ以外に大天守に二方向避難路を確保する方法はないのだから。この外階段を諦めるのであれば、同時に天守に不特定多数の観光客を入場させることも諦めなければならないだろう。

つまり、これほど大騒ぎをして、多額の費用をかけ、今後も重いメンテナンス費用を払い続けなければならない名古屋城の新木造天守
これこそが「河村市政」の姿であって、その欺瞞性を名古屋市民の眼前に表すものとなるのだ。

こうした「ハコモノ」で「勝利」などない。
作った本人は出来上がればうれしいだろうが、それが十分な検討を経ていなければ必ず問題をはらむ。
完璧でやっと当たり前、瑕疵があれば批判を受ける。
制度や政策であればごまかしも効くし、政治的な「価値相対化」の議論で言い逃れもできるかもしれない。
しかし、「ハコモノ」は残酷だ。具体的に目の前に問題が提示されてしまう。

河村市長、最後の任期のモニュメントとして、名古屋城天守を木造化するのであれば、してみれば良い。
私は本当にそう思っていた。

(続く)


*1:大阪城はすでに登録されている、現在改修がすすむ熊本城もやがて登録されるだろう