さて、それではこの「次期総合計画」が「まやかし」である証を論証していきましょう。
そもそも地方自治体にとって「総合計画」とは何か。もともとは地方自治法の第2条4項に「市町村は、その事務を処理するに当たっては、議会の議決を経てその地域における総合的かつ計画的な行政の運営を図るための基本構想を定め、これに即して行うようにしなければならない」という条項があり、これに従って各地方自治体が10年程度のスパンをおいて「基本構想」を、「基本計画」で5年程度の行政計画を示し、3年程度の具体的施策を「実施計画」として著し、この3つを合わせて「総合計画」としていた。
平成23年5月2日にこの条項は廃止され、自治体における法的な策定義務はなくなったが、健全な行政運営の指針として策定し続けている自治体が多い。また、法的根拠としては総務大臣通知として(総行行第57号 総行市第57号 平成23年5月2日)「改正法の施行後も、法第96条第2項の規定に基づき、個々の市町村がその自主的な判断により、引き続き現行の基本構想について議会の議決を経て策定することは可能であること」とされている。
以上のように地方自治体の行政運営について、向かうべき目標、ビジョンを指し示すのが「総合計画」である。ある文章に次のようなくだりがある。
総合計画の策定が被告(議会)の議決事項とされたとしても,策定権及び提案権は原告(市長)に専属するというべきであり,策定権及び提案権を有しない被告(議会)が,原告(市長)の計画策定の趣旨を損なう内容の修正を行うことや,原告(市長)の事務の管理執行に係る個別具体的な内容に踏み込んだ修正を行うことは,原告(市長)の策定権及び提案権を侵害し,許されないというべきである。
(この文章を含みカッコ書き部分は引用者が付記した)
この文章は平成24年1月19日に判決が言い渡された「議決取消請求事件(平成23年(行ウ)第33号)」における原告、河村たかし名古屋市長の「原告の主張」である。
この判決文を見ると、河村たかし名古屋市長は総合計画の策定権、及び提案権は市長である自分にあると主張している。これはもっともな主張であって、地方自治法の考え方とも一致する。総合計画の策定権者は首長である市長にあるのであって、当然、その責任も市長にある。
次のような記述もある。
「地域委員会」や「冷暖房のいらないまち」という施策用語は,市政運営の中核的な基本理念であり,原告(市長)が市長選挙に際してマニフェストにも掲げることにより市民の負託を得て提示された重要なキーワードであるとともに,当該施策の実現を志向し,民意をその目標に向かって誘導するマジックワードである。このような基本理念を,被告(議会)が安易に一方的に変更することは,原告(市長)が実現しようとする重要施策の趣旨を大幅に損なうことになるから,議会の権限を超えるものである。
(この文章を含みカッコ書き部分は引用者が付記した。判決における裁判所の意見ではなく「原告の主張」であることに注意)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120720150959.pdf
この訴訟は前回の総合計画である「中期戦略ビジョン」に対して、議会が地域委員会を拡大する数値目標を削ったほか、「冷暖房のいらないまち」を「冷暖房のみにたよらないまち」と書き換えるなどして修正可決した
http://www.chunichi.co.jp/hold/2011/vsshigikai/list/201010/CK2010100802100004.html
ことを受けて河村市長が反発、再議を求め、知事審査を求め、更にその結果*1に納得しない河村市長が裁判に訴えたものである。
おかげで中期戦略ビジョンは平成24年1月という事業計画終了間際に判決が確定し(もちろん、市長の敗訴)、法的に有効であったのはたったの3か月という不幸な経緯をたどった。
千種区のタウンミーティングにおいても「次期総合計画の話をする前に、その前の総合計画である中期戦略ビジョンの評価はどうだったのか」という声が出た。
市当局の内部では評価は行われている。市民に意見を聞く必要が有るものに関してはアンケート調査も行われているが、大々的に報道されたという記憶もないし議論にもなっていない。(完全に日陰者扱いだね)
"名古屋市中期戦略ビジョン 平成24年度の実施状況及び総括"( 平成25年9月名古屋市)
結果として施策の実現よりもリコールを含めた河村市長と減税日本のための政局に利用されてしまったわけだ。
もともとこの中期戦略ビジョンは市民アンケートから募った33施策と(2009年)市長マニフェストに謳われた28施策、更に長期的展望の5施策から45の施策を具体化して数値目標を掲げて策定された。もちろん策定権者は市長である河村市長だ。
その中では「冷暖房のいらないまち」という言葉を「冷暖房のみにたよらないまち」と書き換える事さえ、こうやって裁判にかけて反発するほど大切な「マジックワード」であり「民意をその目標に向かって誘導する」ものであり「市民の負託を得て提示された重要なキーワードである」としていたのだ。*2
「市長選挙に際してマニフェストにも掲げることにより市民の負託を得て提示された重要なキーワードである」施策が加えられた「中期戦略ビジョン」について、このような文言の変更も許さない、策定権も提案権も市長に専属するというのが、この裁判における河村市長の主張である。
もう一度整理する。
市長選挙のマニフェストに掲げられ、市民の付託を得た重要な政策、キーワードについては「総合計画」に反映され、その策定権も提案権も市長に専属するというのが河村市長の主張だ。
では、この「次期総合計画」に対して、この2013年市長選マニフェストはどう反映されているのだろうか。
2013年マニフェストに掲げられた「常勤民間アドバイザー」は?相生山問題でも課題となった「住民投票条例」は?
南海トラフ地震対策など誰でもいうことだ。「たまたま」マニフェストと次期総合計画でダブっていても驚くに当たらない。防災に対して「国(自衛隊を含む)との連携を密にする」という「お題目」は2009年マニフェストにもあった。なんでも「守山の自衛隊のえらいさんと酒を飲んだ」そうだがそれ以上の具体的な施策がなされたとは聞いていない、いったいどう「連携」するのだろうか?
「次期総合計画」と「2013年マニフェスト」を見るとほとんど関連がない事は明白だろう。実は「次期総合計画」において「2013年マニフェスト」は全く配慮されていない。*3
前回中期戦略ビジョンにおいて、市の当局者はそれまであった長期計画と、あの訳が判らない2009年マニフェストとの間に立って、その整合性を必死になってつけた。なんとかかんとか河村市長のマニフェストを総合計画として形にしたのがあの「中期戦略ビジョン」である。
そんな苦労の産物を政局のネタにして、施策の実現などほったらかしのままリコールだの選挙だの、挙句の果ては減税日本という政党を作って潰して。バカ騒ぎを繰り返していたのが河村市長である。
そんな徒労を二度としようと思うか?
いくらご無理ごもっともの宮仕えとはいえ、それは酷というものだ。
そこで一計を案じた。
今回の総合計画において、
中身については一行たりとも河村マニフェストへの配慮は加えない。
しかし、一行だけ、河村マニフェストから表現を持ち込んだ。
それが「世界のナゴヤ、本物ナゴヤ、ぬくとい市民」という文言だ。
では「本物ナゴヤ」の為に何か施策が行われるのか、何も行われていない。「本物ナゴヤ」などという表現はこの一行以外にない。
「ぬくとい市民」実現のための具体的な施策は何か?何も含まれていない。「ぬくとい市民」という表現もこの一行以外にない。
"名古屋市次期総合計画中間案"
"名古屋市次期総合計画中間案パンフレット"
この中間案にもパンフレットにもこれらの「マジックワード」はおろか「マニフェスト」という言葉も「民意」という言葉も一切ない。
つまりネタのばれた河村政策、減税理論、地域委員会などと決別し、事実に立脚した地に足の着いた市民の為の行政運営を行おうという市当局の決意の表れがこの「次期総合計画」であり河村市長との決別宣言でもあるのだ。(にしてもちょっと早いけど)
おおっと、かといって慌ててねじ込むんじゃないよ、河村さん。
もしもこの、一市民の何の権威もないブログの記述にオタついて、中間案にも、すでにタウンミーティングで配布したパンフレットにも記載されていない「マニフェストの施策」を無理にねじ込めば、それこそみっともない。
総合計画の策定権も提案権も市長の専権事項であって、この中間案もそのパンフレットも、市長の策定したものに間違いがないのですから。
そう裁判で主張したのは原告、河村たかし名古屋市長ですよ。
そうですよね。それとも、裁判で嘘でも言いましたか。
総合計画の策定は市の職員が勝手にやったでわしゃ知らん。と。
どうせもう負けた裁判だから発言を翻しますか。
河村市長、あなたはあなたの権能に否定されたのだ。
しかし、この次期総合計画を説明する河村市長の後頭部には、見事にブーメランが突き刺さっていますね。
実はまだ隠し玉があるのですがそれは31日の北区におけるタウンミーティングでご披露します。(コーディネータが当ててくれなければご披露できないかもしれませんが)
千種区のタウンミーティングで参加者から主張があったように、南海トラフ地震への危惧とリニアインパクトへの期待は相反するように見えるかもしれない。その方は「リニアモーターカーは要らない」と仰っていたが、リニアの設置は国やJR東海の決めることで名古屋としては口をはさむことはできない。ただ、設置されるのであればそれに期待もするだろうし、様々な不都合に対する備えも必要となる。もちろん、リニア敷設後に南海トラフ地震が起きた時に名古屋はどうするのかといった課題も考慮する必要があるだろう。
だからこそ、総合計画に盛り込む価値がある。
相反する事柄であろうとそれに備え考慮する必要があるのだ。
この次期総合計画自体は非常によくできている。ただ、当たり前すぎて10年後、15年後のビジョンが示されているとは言いがたいという人もいる。
ある意味では有能な官吏が策定した白紙の都市計画ともいえる。
ここに地に足の着いた問題意識と、明確なビジョンをもった政治家がしっかりとした方向性を指し示せば、本当に良い総合計画になるだろう。
そんな人物があらわれるまでは、この「白紙」は大切に保管しておくべきだろうと思う。
以上が「次期総合計画」がまやかしであると私が言った理由である。けれどもその「次期総合計画」はこのままで良いと思う理由でもある。
参照:
http://collagree.com/
昨日述べた河村市長の「虚偽説明」
この動画の29分10秒頃から。
市民税の均等割りについて「名古屋市のホームページのトップページに掲載されています」と胸を張っておっしゃっていますが、
名古屋市公式ウェブサイト:トップページ - City of Nagoya
どこにありますか?