市民のための名古屋市会を! Ver.3.0

一人の名古屋市民が「地域委員会制度」「減税日本」に対する疑問をまとめるサイトです。(since 2011/3/3)

「正しい経済学」が導く減税の意味(前編)

 河村たかしは自らの減税が「正しい経済学」を踏まえているように語っている。(減税発祥の地ナゴヤの挑戦:減税日本
 また「国政における貯蓄投資バランスを無視した経済理論、増税政策」とも語っているが、地方自治体における減税を推奨するかのような「経済学の知見」であるとか「経済理論」を聞いたことが無ければ、増税政策が「国政における貯蓄投資バランスを無視した経済理論」であるというのは、いったい何を言わんとしているのか、何を意味するのかサッパリ判らない。

 麻生良文という先生がいらっしゃって、慶應義塾大学の法学部で公共経済学や財政学を教えていらっしゃるようである。(慶應義塾大学:教員紹介)(麻生良文研究室)

追記:
教員紹介 | 慶應義塾大学 法学部

 有斐閣から「公共経済学」という教科書も出していらっしゃる。




 (クリックするとダウンロードが始まるので注意)ここ「減税の効果 公共経済論Ⅱ No.4」というパワーポイントで作られた資料が公開されている。
 たぶん、同学で授業をされる際に参照するための資料であるとは思うのですが、ちょっと利用をさせていただきたい。

 文字通り「公共経済学」から見た場合の「減税の効果」についての議論が展開されている。さてここではどのような結論が導かれるだろうか。

 ここで、今日のブログは読者によって三種類の道筋を通っていただきたい。
 まず、このパワーポイント資料を見て、難なく理解できる方は、11ページと12ページに着目していただきたい(以下の文章は、この2つの図の相違と、13ページの結論を説明するためのものである)
 そういった方であれば以下の(または、後日の)「結論」の項目以降をご覧いただけば充分であろうと思われる)

 次に、普通の方々は、上にも述べたように、今から10ページまでを詳細に説明させていただく。是非お付き合い願いたい。

 更に、数式や図表を見て、まだピンと来ない方の為には、欄外に「※n」と補足説明を加えてみる。これで各式や図表について、その示すところをしっかりと把握してみていただきたいと思う。


 2ページ目には「内容」として乗数効果ケインジアン・モデル)と、ケインジアン・モデルの問題点(近視眼的行動)と、2期間モデルによる分析など、紹介がある。この一文で触れるのは最初のケインジアン・モデルによる乗数効果までとする。それは紙幅の都合ということではなく、それ以降の論考の前提が「河村流減税」と異なるからだ。その件については後述する。

 3ページ目に来ると「所得・支出モデル」として数式が出てくる。
 「rを固定して」という「r」は実質利子率を表す。先ずは利子率は固定されるものと考える。それぞれの文字の意味は。

 Y:生産量(総産出量、これは国民総所得に等しく、総需要とも等しい)※1
 C(Y−T):消費(Consumption)、T:税(消費は生産量から税を引いたもの)
 I(r):投資(投資の量は実質利子率によって増減する)
 G:政府支出

 日本語で表すと。

 生産量 = 消費(生産量ー税)+投資(利子率)+政府支出

 言葉で表すと、「生産量とは、消費と投資と政府支出の和である」ということになる。

 以下の「IS=LMモデル」と「AD=ASモデル」については今回は触れない。※2

 4ページ目では、もう一度Y:生産量の式が示され、
 C:消費については、C0+c(Y−T)という式に展開されている。
 この小文字の c は、「限界消費性向」を表す。その値は0〜1の間になる。※3
 消費と言うのは、一定量は必ず「基礎消費」ともいうべき量があるのだから、その初期値を「C0」として表す。

 さて、この4ページで前提となる説明は終了した。
 いよいよ、5ページ目からは以上の前提から、経済モデルでいったい何を見ることができるか、見てみよう。

 5ページ目の図における横軸はY:生産量と、T:税の差(可処分所得)ということになる。
 生産量から税を引いた残りと捉えても良い。
 表の縦軸はC:消費を表す。上に行けば行くほど、大量のモノを消費したということになる。
 APCという角をなす点線が原点から引かれているが、生産量が上がるほど(図の右に移るほど)消費するモノの量も増えるということを表している。

 C:消費量の途中にMPC=cと示された角が置かれ、直線が描かれている。これが「限界消費性向」によって示された消費関数で、初期値C0の分(基礎消費の分)だけ、上に上がっている。※4

 6ページ目に移るとこの図の補足説明がある。
 「現在の消費は現在の可処分所得の関数」とは、5ページ目の実線の事を言っている(もう一度、5ページ目に戻って見ていただきたい)。実線で対応するモノの消費:Cは、実線上の可処分所得(Y:総所得ーT:税)に限界消費性向 c を掛けた「関数」として表される。
 総所得(Y)が増えれば、モノの消費が増える。
 税(T)が増えれば、モノの消費が減る。
 限界消費性向 c が大きければ(実線の傾きが急になって)消費の量は増える。

 「恒常所得仮説」とは、フリードマンが提唱した・・・ここでは直接関係無いので割愛。

 限界消費性向 MPCと説明があるが、上で今まで c と表記してきたものと同じである。
英語で表すと “Marginal propensity to consume” となるのでその頭文字を取ってMPCといっているに過ぎない。ややこしいのでこの文章では以降も c で表すようにする。※5

 平均消費性向 APC・・・点線の部分。
 (「可処分所得の増加□APCは低下」というのは、充分可処分所得が増加すればAPCは低下するということだろうと思われる。つまり、点線は右に行くとだんだんと角度が緩くなる。ただ、ここではこれ以上触れない)

 といったところで、本日の分は6ページまでということで続きは明日に持ち越します。



※1:熱心な河村支持者の良い子なら、新刊書「復興増税の罠」の24ページに「三面等価」として「国内総生産(GDP)=国内総所得=国内総支出」として紹介されているから参照しよう!ところで、この本は変わっていて、こうやって「三面等価」を紹介しているんだけど、それについての議論展開やら参照って、これ以降一切されていないんだ。なぜ、ここで「三面等価」を持ち出したのかまったく意味不明なんだ。

※2:「IS=LMモデル」とある、この「IS」が河村も大好きな「貯蓄(Savings)・投資(Investment)バランス」の事。「LM」が「貨幣需要流動性(Liquidity)・貨幣供給(Money)バランス」でこのモデルを使うと上の式で示される財市場と、貨幣市場の相互関係がわかる。
 更に「AD=ASモデル」(短期均衡モデル)を利用して、物価との関係も見ることができる。

※3:「限界消費性向」とは、収入が増えた場合、その増えた収入からどの程度が消費に回されるかという比率。一般に、収入が増えたと言ってもその増加分をすべて消費に回してしまうことは少ない。特に、所得が充分に高く、増加前の所得でも生活が充分に成り立っていた場合には、所得の増加分は直ぐに消費に回ることなく貯蓄に回る。
 逆に、所得が低く生活に余裕が無い家計においては、増加分は消費に回り易い。
 また、所得の増加分以上に支出が増えることは考えにくい事から、この値は一般的に「1以下」となる。(この値が「1」であるとは、増加した収入が全て消費に回される状態を言う)

 一般的に経済波及効果を考慮すると、この限界消費性向が高いほど、政策に対する効果が高く出るのであるから、限界消費性向が高いと期待される「低所得者」に政策的資金を渡すように配慮される・・・・・のだろうけど、河村流減税はどうだろうか?

※4:こういった図表に慣れていない人はこういった「モデル」を見ても、そもそも「何を表しているか」が分からないようだ。これが「全国民」をまとめてみた場合の消費と、生産量(つまり、=所得)の関係なのである。
 図の下、横に伸びているのが「生産量=所得」で、右に行くほど生産も増え、販売量も増え、所得も増えた状態、つまり、経済が拡大して豊かになった状態と考えていただいて良い。

 図の左側、上に伸びているのが物(「財」と表すことが多い)の消費量だ。
 一般的に、生産量=販売量=所得が増え、経済が拡大すると、それに伴って消費量も増える。なので、図の横軸が右に移れば、縦軸は上に移るように対応する。その対応する模様が、APCという角をなす点線で表される。

 常識的に考えて、この社会はこの点線の上を移動する。この点線の右に行くほど、経済が活発で、物の消費も増えて、図の中で縦軸を捉えると上に移っているということになる。

 次にMPCと書かれている実線の部分については。
 人間は生産や販売、つまりは売り上げがなくても物を消費しなければ生きてはいけない。売り上げが有ろうと無かろうと、とりあえずその日食べていくものが無ければ生きてはいけないのと同じだ。この必須の消費を「基礎消費」とでも捉えて、C0と表してみる。

 MPCの角が消費の途中から「生えている」のはこの「基礎消費」部分まで消費が積みあがっているからだ。ここから生産=所得の増加分だけ、消費が積み上がっていく。「儲かった分だけ熱燗を一本余分に付ける」というようなものと捉えてみてもらっても良い。

 所得が増えた分だけ丸々消費するのであれば、小文字の c (限界消費性向)は「1」となり、この実線は45度の角度になる。
 増加した所得と、消費する財が等価になるからだ。

 しかし、一般に所得が増えた分を丸々使ってしまう人間は居ない。その一定割合は貯蓄に回る。なので、小文字の c は0〜1間の値となる(生命保険や年金なども消費ではなく貯蓄となる)そして、実線は45度よりも若干緩やかになる。

 先ほど、常識的に考えて社会は点線の上を移動すると言った。更に基礎消費と限界消費性向を想定した推定では実線の上に居ることになる。なので、これらの推論から社会は点線と実線が交わる位置に居るのがもっとも(論理から言って)理想的となる。
 この交点よりも実測する社会が下にいれば、消費不足、モノ不足となり、インフレとなるだろう。また、実測する社会が右にあれば同様に、モノが消費されていないのに、売上げだけが立つような状態、つまり、インフレ(経済の過熱)が発生しているのだろう。

 この図の中に、(論理的に)理想的な社会を想定して、実測する社会が何処に居るかを探ることによって、今の社会の問題点や改善すべき方向性が導き出される。

 というのが、こういった「モデル」の意味でもある。

※5:限界消費性向 MPCについて、
 「0<MPC<1」とは、MPCは0よりも大きいが、1よりは小さい値を取ることを表す。MPCが0であれば、5ページ目の実線は真横になる。つまり、どれだけ所得が増えても、一切消費は増えないということになる。1であれば所得が増えた分だけ消費をするということになる。
 その下の式。MPC=ΔC/Δ(YーT)というのは、日本語で言えば。
 「MPCとは、消費(C)が増えた分(Δ)と、所得(Y−T)が増えた分(Δ)の比率である」という意味で、上の文章を数式で表したものになっている。
 たいてい、こういう数式を持ち出して中途半端な覚悟の学生を篩いに掛けているのだよ。

 「MPCは一定」とは、「モデル」であるので話を単純にするためにどれだけ所得が増えようとも、逆に減ろうともMPC(または、 c 限界消費性向)は変わらない(一定)と前提しておくという意味。常識で考えれば、貧しければ手に入った所得は直ぐに消費されてしまう(限界消費性向が高い)であろうし、裕福であればその逆となる。つまり、MPCは所得で変動するだろう。実線は直線ではなく、曲線を描くかもしれないが、いまは単純化の為に一定であると仮定する。