小牧市の山下市長という方は、あるいは非常に素直な方なのかもしれない。
これまで、散々、小牧の図書館を考える会などが、新図書館計画についての説明を求めても、ろくに情報を出さなかった上に、意見交換の機会など設けようともしなかった。
それなのに、いざ、住民投票が実施されるという段になって、慌てて「広報こまき」に特設ページを設けて図書館建設計画について理解を求めている。
この「広報こまき」に関しては、以下の(いささか過激な)記事が参考になる。
http://miekozinew.seesaa.net/article/426989743.html
いままでの経緯もあっての過激な表現であろうことは理解できる。
市民に対して地道な説明を行っていれば、こんな事態には至らなかったのだろう。
「広報こまき」は自治会費(町内会費)を払わなければ配布されないそうだ。
と、いうことで、全有権者に向けては「住民投票のお知らせ」が全戸配布されたそうだ。
これについては小牧市のホームページにも電子ファイルが掲示されている。
http://www.city.komaki.aichi.jp/shogaigakushu/library/010859.html
住民投票のお知らせ、小牧駅前の新図書館建設計画に関する概要(PDF)
この「お知らせ」について、少々所見を述べてみたい。
1ページ目から3ページ目については別に異論はない。(無答塾さんの指摘はもっともらしく思えるが敢えておく)
4ページ目。最初から根本的な問題に突き当たった。(各画像はクリックすると拡大表示します)
説明文に赤線を引いておきましたが、「官民連携新図書館の建設計画を平成30年度の供用開始を目指し進めてきました」って、何時から?
平成26年の4月ですよね。それまで「官民連携」であるとか「官民パートナーシップ」なんて話は出ていなかったんですから。下の年表を見ると、平成21年3月の「基本計画」以降、小牧市民に建設意見を聞いたなどという手続きはされていない。にもかかわらず、平成26年4月には「官民パートナーシップの取組による建設を決定・発表」と明記されている。
勿論、基本計画には「市直轄事業」が明示されているのであって、それが小牧市民の民意であり、理解でした。それなのに「官民パートナーシップ」を「決定・発表」って。
本来、ここでは「方針の変更を発表」であるべきで、「決定」に関しては市民に意見を聞いた後であるべきだったのではないでしょうか?
これが「最初のボタンの掛け違え」というものではないのでしょうか?
こういった批判があちこちから上がったんでしょうね、素直な事に「Q&A」の1問目が「ちゃんと市民の声を聴いているの?」になっている。ここでは現行計画が「基本計画を踏まえています」とされています。さて、どうでしょうか?(後述)
また、ここで「図書館ボランティア」にもご理解いただき、と記載されていますが、図書館ボランティアに説明をする機会を設けたのは平成27年7月ですよね。すでに基本設計も出来上がってからではないですか。
それでも、「市民の声を聴いている」と言えるのですか?
さて、さて、次の「Q2」「Q6」
そもそも小牧市の官民パートナーシップっておかしくありませんか?
例えば、昨今流行のPPP(あるいはPFI)という方式では、例えば土地は公有地、建物を民間と費用負担をして建てて、その一部を公共施設として使うというような方法が取られています。民間の資金を利用して、市民の負担を減らすという方法ですよね。また、民間企業は業績によって先行きが不安定ですが、事業者が途中で事業から撤退しても、建ててしまった建物は残るのですから、公共施設の運営には支障は起きません。(維持費の負担は大きくなるかもしれませんが)
つまり、建物を民間に用意させて、官民で共用するのがPFIの考え方なのではないでしょうか?(例えば、近いところでは名古屋市緑区の「ユメリア徳重」とか)
ところが今回の小牧市の方針は、連携民間業者にお気に召すように建物を造ってあげて、それ以降、その民間業者が永続して使うとは限らないんですよね。図書館は作れば10年や20年ではなく、50年使われる事もあるでしょうに、この建物の一等地、中心を占める民間業者の店舗は何年使われるか判らない。それでいて建設費用の負担は全部小牧市?
「賃料をもらう」なんて言っていますが、当たり前!
なぜ、建設費の負担を求めないのでしょうか?
小牧市は豊かとは言っても、人が好過ぎるのではないでしょうか?
先に「Q4」に行きましょう、「CCC・TRC事業者は実績があるの?」実績はあるのでしょうけど、それはまだたったの2年ほどの事です。そして、その2年の間にも様々な問題が起きています。その一つが「選書問題」ですよね。続く「Q5」でも選書問題に触れています。やはり気になるんでしょうね。
追記:10月1日オープンする海老名市「TSUTAYA図書館」について、次のような記事が出ている。
「武雄市図書館の時はド素人でした」 海老名市でオープンした2館目のTSUTAYA図書館は何が違う? | ハフポスト
「武雄市図書館の時、僕たちはド素人でした(略)
2年半運営した経験を積んだ自分たちからすれば(略)」(CCCの高橋聡館長談話)
「武雄市図書館の時はド素人でした」 海老名市でオープンした2館目のTSUTAYA図書館は何が違う? | ハフポスト
(キャプションはTBS報道より)
「CCCの実績」なるものが、非常に付け焼刃の物である印象があるのですが。
また次のような発言も気になります。
「僕らのスタンスが、司書の現状を考えさせられるきっかけになればと思っています」
(CCCの高橋聡館長談話)
「武雄市図書館の時はド素人でした」 海老名市でオープンした2館目のTSUTAYA図書館は何が違う? | ハフポスト
この反省のない、尊大な姿勢。唯我独尊の態度は、最早、芸術の域ですね。
自分たちのスタンスから司書の現状を考えろとヒトに言う前に、果たして自分たちは「司書とは何か」とか「図書館を運営するとはどういう意味なのか」を理解していると言えるのだろうか?
たった2年少々の「実績」でここまで言ってしまえる根拠のない自信は尊大でしかないのではないのか。
そして、その「実績」なるものがどこまで薄っぺらいものか。
そして、次の指摘。
以前は148タイトルあった図書館の雑誌は51タイトルに減っている
「武雄市図書館の時はド素人でした」 海老名市でオープンした2館目のTSUTAYA図書館は何が違う? | ハフポスト
今回の海老名市の事例で、教育委員長が再チェックするとか、CCCが選定してまだTRCは承認していなかったとか言われていますが、初期選定の段階で「タジン鍋」はないでしょう。更に、こうした業務を行ってもらうための「指定管理業者」の筈であって、市が更に確認するとなれば、それは二重行政です。それなら、指定管理などせず、市の直轄事業にすれば良い。
そもそも「選書」という業務を軽く見ているのではないのですか?
そんな甘えた発想では、選書に悩む全国の図書館司書に申し訳がありません。
この回答を書いた者は謝るべきです。
さて、この「Q&A」で最大の問題。衣の下に鎧が見えています。
「Q3指定管理業者はどうやって決めるの?」
「市において(略)審査を行い、市議会の議決を受けて決定されます」
ね、「市民の声」なんて聴く気が無いのだから。
基本計画では設計業者の選定においても、市民の意見を聞く会を設けるとしていた。基本計画では指定管理業者など導入するつもりは無かったのだから、その選定に市民の声を聴くなどとは謳えなかった。しかし、常に市民の声に耳を傾ける基本計画であれば、もし、指定管理業者を導入しなければならないのであれば、その選定には当然、市民の意見を聞く会を設けていたはずだ。
そうした発想がスッポリと抜けている。
これが現在、山下市長の進めようとしている図書館建設の姿ではないですか。
さて、たったの2ページにこれだけの問題、異論があるにも関わらず、これで「中立性を保持し」なんてよく言えたものです。
限がないので、今日のところは、6ページ目からもう一点だけ指摘させていただきましょう。
このチラシを作った人は相当に、アレですね。
小牧市民をバカにしていますね。
ここで「新図書館」と「現図書館」の比較をしていますが、これはおかしい、と、皆さんおっしゃっていますよ。そりゃあ、42億も50億もかけて新設するのだから、今の図書館と比較すれば良いに決まっているじゃありませんか。
本当に比較すべきなのは「新図書館」といわれる現在の図書館建設計画の図書館と、小牧市民の民意の結晶である、基本計画に描かれた図書館なのではないのですか?
なぜ、基本計画と「新図書館」を比較対象として、どの程度「踏まえ」何が違うのか説明しようとしないのですか。
そういった不誠実な態度が、小牧市当局に対する、住民の不信となって、今回の署名、住民投票につながったのだという事を、まだ理解していないのですか。
小牧市の職員の方が作ってくれないのであれば、私が作りましょう。
これが、「新図書館」と「基本計画」に描かれた図書館の差です。
延床面積は減少しています。
収容冊数を50万冊と誇りますが、基本計画では70万冊を謳っています。ここでも計画を縮小したことになります。(それでも、建設費は増大している、と)
座席数については、「新図書館」の方が多いように見えますが、カフェ部分の座席数が不明です。また、基本計画では多目的会議室などの座席数はここに含んでいません。
想定付加価値機能については、価値観の相違かもしれません。しかし、どちらがより市民に向いているのでしょうか?(新図書館が向いているのは、市民ではなく、消費者なのではないですか?)
(平成27年9月30日 公開)